皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第三章 争奪戦

第69話 皇帝の来賓

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 男らしい精悍な美貌と、長身で引き締まった体躯たいくの持ち主だからこそ、煌きらびやかな衣装や装飾品は、彼の美を引き立てるための脇役だ。

 ダビデのように品性下劣な顔つきの男が、同じように装えば、財力と権力を誇示する見栄が鼻についたに違いない。

 威厳と美貌を併せ持つアルベルトだから、さまになる。

 サリオンは、そんな彼に臆してしまい、まともに顔も上げられずにいる。胸の鼓動が早鐘を打ち、次第に顔が熱くなる。

「派手で悪いか。恋人を初めて招いた夜なんだ。着飾りたくもなるだろう」

 憎まれ口を叩いてやったはずなのに、少しはしゃいだ声で返され、面映おもはゆい。
 目と目を合わせようとするように、体を屈めたアルベルトから、視線を逸らしてばかりいた。

 だからきっと、アルベルトに見抜かれてしまっている。

 神話のような美丈夫に、のぼせてしまっていることを。


「お前の方こそ今夜も綺麗だ。威勢が良くて快活なお前も魅力的だが、絹の貫頭衣の光沢が、真珠のような肌によく映えて、恐いぐらいに艶やかだ」

 法悦といっていいほどの声音で述べ立てたアルベルトの指の背で、頬をゆったり撫でられる。
 肩をビクリと上下させたサリオンは、頬を撫でたその指で顎をくわれ、上向かされて告げられる。


「次にお前がここに来る時……、その時こそは俺の妃として出迎えたい」


 眉を寄せたアルベルトに、目の奥をじっと射抜かれる。

 こちらが何を言おうとも、妃にする決意は揺るがない。
 アルベルトの猛るような瞳の光が、宣告している。
 前置きしている。

 瞠目したサリオンは息を呑み、唇だけを喘がせた。何か言おうと思っても、言葉も声も出なかった。


 大階段を最上段まで上がった時から、別世界に足を踏み入れた。

 自分が誰で、何をしようとしているのかすら見失いかけている。
 アルベルトから醸し出される圧倒的な存在感に呑み込まれ、地に足がついてない。


「さあ、まずは食事だ。饗宴の間に案内しよう」

 アルベルトの腕が腰に回され、促された。

 正面の壁面には、アルベルトが出て来た大扉の他に、いくつも扉が並んでいる。アルベルトに腰を抱かれたまま、サリオンも足を踏み出した。


 大扉から中に入ると、二人の護衛兵が左右に開いた扉を閉めている。
 蝶番ちょうつがいが軋む音、閉じられた扉が立てた轟きが、白大理石のエントランスに、どこか不気味に鳴り渡る。 
 サリオンは膝から下の力が抜けたようになり、何度もつまづきそうになる。


「どうした? サリオン。俺がずっとついている。大丈夫だ。気兼ねはいらない。たとえお前がオメガだろうと奴隷だろうと、ここでは誰も一切お前に手出しはできない。皇帝アルベルトの来賓として、大きな顔をしたらいい」

 サリオンの腰に回した腕に一層力が込められた。
 腰と腰を密着させ、肉感的な唇を、横にぐいと引くようにして笑んでいる。

 それでも堪らずアルベルトの胸元辺りのトガをぎゅっと握り締め、彼に体を擦り寄せる。

 子供が親に縋るような、幼稚な仕草にアルベルトが、吐息に近い含み笑いをこぼしている。
 甘やかに笑われようとも、最下層のオメガが最後に行き着く貧民窟より、絢爛豪華けんらんごうかな宮殿の方がずっと脅威だ。
 
 恐いのだ。


 故国のクルムでつがいとなったユーリスも王族で、共に暮らした館も湖に面した離宮といった形相だったが、大国テオクウィントスの皇帝が住まう宮殿の比ではない。

 白を基調にした壁や列柱、吹き抜けの天井の高さといい、まさに圧巻の一言だ。

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