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第三章 争奪戦
第67話 サリオンの決断
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「オリバーがダビデ提督の御子を産み、レナが皇帝陛下の御子を身籠れば、帝国の公娼としての面子が充分に立つ。皇帝陛下がこれまで以上にレナを寵愛して下さるのならな、願ってもないことだ」
最高位のレナがこのまま誰の子供も孕まない、役立たずのオメガのままなら、奴隷市場に売却すると宣告したはずの非情な主人は、掌を返したように満面の笑みでもって、王宮行きの許可をした。
こうして異国の地から奴隷として連行された奴隷のオメガが、帝国の王宮に足を踏み入れるという、前代未聞の夜が来た。
しかも、この夜のために、分不相応な絹の貫頭衣や帯やサンダルが、アルベルトから届けられ、迎えの馬車や護衛兵まで付けるという、歓待ぶりには閉口した。
レナが「陛下はこのままサリオンを王宮に閉じ込めて、帰さないつもりでいるんじゃないか」と不安がり、疑ったのも無理はない。
けれども、その心配は無用だと、何度もレナに言い聞かせてきた。
皇帝の紋章が、透かし模様として描かれた鉄製の正門が開かれて、馬車は唖然とするほど広大な前庭を直進した。 四方を列柱廊で囲われた前庭は、石畳を敷き詰めただけの広場にすぎない。
噴水や、四季折々の 植栽を愛でる大理石の長椅子や、放し飼いの孔雀といった、装飾要素は何もない。
ということは、いざ戦闘となればこの前庭に、途方のない数の兵士が招集され、ひしめき合うということだ。
そうして故国のクルムも侵略されたに違いない。
サリオンは陰鬱に眉をひそめて窓から離れる。一刻も早く通り過ぎたい場所だった。
皇帝アルベルトが総括し、率いたこの国の侵略軍がユーリスを奪い、故国を滅ぼし、自分やレナを奴隷にした。
今、まさにその皇帝に招かれて王宮に足を踏み入れている。
一体何の因果でと、考えずにはいられない。
誰かに答えて欲しかった。
運命ではなく、何かの因果だ。
結ばれるために出会ったのではないことは、百も承知だ。
自分とアルベルトは決して番になれないからだ。
やがて馬車は王宮の、正面玄関らしき車寄せに横づけにされて停車した。
車寄せといっても 白雲母の長大な 花崗岩の階段と、大理石の列柱が支える軒を頂く壮麗な設しつらえだ。
御者台から降りた御者に扉を開けられ、サリオンは馬車を降り立った。
「お待ち致しておりました」
馬車を下りたサリオンに、トガを纏った官職らしき男が二人進み出て来て、一礼した。
皇帝陛下の謁見の間に、ご案内申し上げます」
何の感情も読み取れない、平坦な声で告げた男が、先に階段を上り出す。
階段の両縁に据えられた篝火が、彼の影を濃く長く落としていた。
上り始めたサリオンは、もう一人を肩越しに振り返る。
気品ある顔立ちの若い彼は、後から付き従って上って来た。彼も彫像めいた顔つきだ。
案内されているというより、護送されているかのように重々しい。
サリオンは否応なしに、手足も顔も強張り出すのを感じていた。
最高位のレナがこのまま誰の子供も孕まない、役立たずのオメガのままなら、奴隷市場に売却すると宣告したはずの非情な主人は、掌を返したように満面の笑みでもって、王宮行きの許可をした。
こうして異国の地から奴隷として連行された奴隷のオメガが、帝国の王宮に足を踏み入れるという、前代未聞の夜が来た。
しかも、この夜のために、分不相応な絹の貫頭衣や帯やサンダルが、アルベルトから届けられ、迎えの馬車や護衛兵まで付けるという、歓待ぶりには閉口した。
レナが「陛下はこのままサリオンを王宮に閉じ込めて、帰さないつもりでいるんじゃないか」と不安がり、疑ったのも無理はない。
けれども、その心配は無用だと、何度もレナに言い聞かせてきた。
皇帝の紋章が、透かし模様として描かれた鉄製の正門が開かれて、馬車は唖然とするほど広大な前庭を直進した。 四方を列柱廊で囲われた前庭は、石畳を敷き詰めただけの広場にすぎない。
噴水や、四季折々の 植栽を愛でる大理石の長椅子や、放し飼いの孔雀といった、装飾要素は何もない。
ということは、いざ戦闘となればこの前庭に、途方のない数の兵士が招集され、ひしめき合うということだ。
そうして故国のクルムも侵略されたに違いない。
サリオンは陰鬱に眉をひそめて窓から離れる。一刻も早く通り過ぎたい場所だった。
皇帝アルベルトが総括し、率いたこの国の侵略軍がユーリスを奪い、故国を滅ぼし、自分やレナを奴隷にした。
今、まさにその皇帝に招かれて王宮に足を踏み入れている。
一体何の因果でと、考えずにはいられない。
誰かに答えて欲しかった。
運命ではなく、何かの因果だ。
結ばれるために出会ったのではないことは、百も承知だ。
自分とアルベルトは決して番になれないからだ。
やがて馬車は王宮の、正面玄関らしき車寄せに横づけにされて停車した。
車寄せといっても 白雲母の長大な 花崗岩の階段と、大理石の列柱が支える軒を頂く壮麗な設しつらえだ。
御者台から降りた御者に扉を開けられ、サリオンは馬車を降り立った。
「お待ち致しておりました」
馬車を下りたサリオンに、トガを纏った官職らしき男が二人進み出て来て、一礼した。
皇帝陛下の謁見の間に、ご案内申し上げます」
何の感情も読み取れない、平坦な声で告げた男が、先に階段を上り出す。
階段の両縁に据えられた篝火が、彼の影を濃く長く落としていた。
上り始めたサリオンは、もう一人を肩越しに振り返る。
気品ある顔立ちの若い彼は、後から付き従って上って来た。彼も彫像めいた顔つきだ。
案内されているというより、護送されているかのように重々しい。
サリオンは否応なしに、手足も顔も強張り出すのを感じていた。
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