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第三章 争奪戦
第52話 無益なオメガ
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掴まれた腕を揺さ振られながら、まくしたてられ、喉が詰まったようになる。
それならそうだと、言いさえすれば済むはずだ。
首を縦に振りさえすれば納得をして諦めて、アルベルトは去る。
去っていってしまうだろう。
「お前が俺を許さないのは、わかっている。わかっているのに、それでもお前が……。俺にはお前が」
アルベルトもまた苦悶を顔に滲ませて、途中で言葉を消え入らせた。
憎んでいると聞かれたら、そうだと言える。
それだけではないとも言える。
今も憎んでいられたら、こんなに苦しまなくても済んだのに。
あんなにも愛した番の仇として、憎んで憎んで抗い続けていただろう。
「許せないのは、あんたじゃないんだ」
サリオンは項垂れた。
口を開いてしまった途端に、思いがけなく涙が出た。
熱い涙が石畳みの足元に、雨粒のように滴った。
「俺には、あんたの子供は孕めない。こんな俺を側に置いて、何の役に立つんだよ……。今のあんたに必要なのは世継ぎのはずだ。子供を産めないオメガじゃない」
アルベルトにとって自分は無益だ。無力なオメガだ。今はだから拒むのだ。
「それは違う……っ!」
決然として答えたアルベルトの胸の中に、再びきつく抱き込まれた。
「クルムのオメガは、たとえ番を失くしても、新たに愛する相手が見つかれば、番の契りを結ぶことができるはずだ。新たな番の子供を成して、産むこともできると聞いている。違うか? サリオン」
「それは……」
「俺を愛してくれたなら、お前は俺との子供を成せる。その希望が僅かにでもあるのなら、俺は賭けたい。お前を妃にして、お前と俺の子供に帝位を継がせたい」
背がしなるほど抱きすくめるアルベルトの腕に、更に力が込められる。
「お前の番と故国を奪った俺には許されないのか……? その夢を見ることは」
サリオンは、公娼の門前でアルベルトに引き止められ、抱き締められたままでいた。
門番達も来訪者達も驚愕し、息を凝らしているのがわかる。
空気がピンと張りつめて、木の葉を揺らす風の音しかなかった。
新たに愛する者を見つけ、番になって子供を成す。
クルム人のオメガなら、それは本人次第だ。
それを心から望みさえすれば、傷は癒えて、子供が産める。
だとしても、レナを失う恐れや、ユーリスを手放し切れない自分もいる。
それでもアルベルトという伴侶が得られるのなら、過去を過去にできるのか。
友を出し抜く罪を負い、ユーリスとの思い出を大罪でもって塗りつぶし、何事もなかったように生きるのか。
アルベルトの手を取り、彼の子を産み、二人で育てる。
それが自分にできるかどうかを問い質そうとした時だ。
四人の奴隷が前後左右に担いだ輿から下りた二名の貴人の会話に、サリオンは氷の楔を打ち込まれた。
「そういえば、ここの公娼のオリバーに、懐妊の兆しが見られたらしいな」
「オリバーは、ダビデ提督の御子だと、提督の御屋敷に報告の使者まで送ったそうじゃないか」
「寝所持ちのミハエルにフラれて大暴れした提督に、公娼の主がミハエルよりも格上の昼三をあてがったって、例の話か?」
「見番帳でも確認が取れたらしいな。懐妊したとするのなら、その時だろうと、オリバーは振れ回っているらしい」
それならそうだと、言いさえすれば済むはずだ。
首を縦に振りさえすれば納得をして諦めて、アルベルトは去る。
去っていってしまうだろう。
「お前が俺を許さないのは、わかっている。わかっているのに、それでもお前が……。俺にはお前が」
アルベルトもまた苦悶を顔に滲ませて、途中で言葉を消え入らせた。
憎んでいると聞かれたら、そうだと言える。
それだけではないとも言える。
今も憎んでいられたら、こんなに苦しまなくても済んだのに。
あんなにも愛した番の仇として、憎んで憎んで抗い続けていただろう。
「許せないのは、あんたじゃないんだ」
サリオンは項垂れた。
口を開いてしまった途端に、思いがけなく涙が出た。
熱い涙が石畳みの足元に、雨粒のように滴った。
「俺には、あんたの子供は孕めない。こんな俺を側に置いて、何の役に立つんだよ……。今のあんたに必要なのは世継ぎのはずだ。子供を産めないオメガじゃない」
アルベルトにとって自分は無益だ。無力なオメガだ。今はだから拒むのだ。
「それは違う……っ!」
決然として答えたアルベルトの胸の中に、再びきつく抱き込まれた。
「クルムのオメガは、たとえ番を失くしても、新たに愛する相手が見つかれば、番の契りを結ぶことができるはずだ。新たな番の子供を成して、産むこともできると聞いている。違うか? サリオン」
「それは……」
「俺を愛してくれたなら、お前は俺との子供を成せる。その希望が僅かにでもあるのなら、俺は賭けたい。お前を妃にして、お前と俺の子供に帝位を継がせたい」
背がしなるほど抱きすくめるアルベルトの腕に、更に力が込められる。
「お前の番と故国を奪った俺には許されないのか……? その夢を見ることは」
サリオンは、公娼の門前でアルベルトに引き止められ、抱き締められたままでいた。
門番達も来訪者達も驚愕し、息を凝らしているのがわかる。
空気がピンと張りつめて、木の葉を揺らす風の音しかなかった。
新たに愛する者を見つけ、番になって子供を成す。
クルム人のオメガなら、それは本人次第だ。
それを心から望みさえすれば、傷は癒えて、子供が産める。
だとしても、レナを失う恐れや、ユーリスを手放し切れない自分もいる。
それでもアルベルトという伴侶が得られるのなら、過去を過去にできるのか。
友を出し抜く罪を負い、ユーリスとの思い出を大罪でもって塗りつぶし、何事もなかったように生きるのか。
アルベルトの手を取り、彼の子を産み、二人で育てる。
それが自分にできるかどうかを問い質そうとした時だ。
四人の奴隷が前後左右に担いだ輿から下りた二名の貴人の会話に、サリオンは氷の楔を打ち込まれた。
「そういえば、ここの公娼のオリバーに、懐妊の兆しが見られたらしいな」
「オリバーは、ダビデ提督の御子だと、提督の御屋敷に報告の使者まで送ったそうじゃないか」
「寝所持ちのミハエルにフラれて大暴れした提督に、公娼の主がミハエルよりも格上の昼三をあてがったって、例の話か?」
「見番帳でも確認が取れたらしいな。懐妊したとするのなら、その時だろうと、オリバーは振れ回っているらしい」
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