皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第三章 争奪戦

第25話 憶測と汚名

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「お待たせしました。お酒がお強い大人の方は、頼もしくて本当に魅力的……」

 イアコブが横臥する臥台に戻るなり、サリオンはイアコブにしなだれかかって密着した。イアコブの銀の酒杯にワインをなみなみ注ぎ入れ、鼻にかかった声音で囁いた。

 身じろいだイアコブの小さな目に熱い視線を送り込み、媚びを含んだ笑みまで添える。


 このまま色仕掛けでワインを呑ませ続けて、料理も更に追加させ、饗宴を少しでも引き延ばす。
 そうすれば、そのぶん床入り時間も短くなる。

 イアコブも、気づいた時には床入りの為に残された時間の短さに、青くなるに違いない。


 もっとも、饗宴の終了間際にレナを呼び寄せ、二人をレナの居室まで先導しても、サリオンはレナに今夜はイアコブを『フる』よう命じるつもりだ。
 見栄張りのイアコブは買った男娼にフラれても、ダビデのように騒ぎ立てたりできないはず。

 買った相方に『フラれた』恥を、他の客に知られてしまうぐらいなら、床入りした時と同じ額の料金と、饗宴にかけた莫大な費用を黙って支払い、帰るだろう。


 それが、男娼以外の下男には一切触れない公娼での習わしを、ないがしろにした無礼な客への報復だ。
 また、同時に今夜はイアコブが、公娼へ入ることを許された最後の日になる。


 サリオンは公娼の主人に『廻し』として、イアコブの規約違反を報告し、今後の入館を拒否するように申告すると決めていた。
 すると、明日からはイアコブが来館したも、門番が捺印された入館拒否書を盾のように提示して、追い返すことが可能になる。


「お前は強い男が好きなのか?」
「はい。好ましく存じます」
「そうか。それなら『こっち』も強い方がいいのか?」

 
 酒が回って半眼になったイアコブに、腰や尻を撫でられ、揉まれ、酒臭い息を吐きかけられる。
 酒杯のワインを仰ぎつつ、サリオンの内腿にまで手を這わせた。


 陛下とはもう寝たんだろう? 陛下はどうだ。お前好みの『強い男』だったのか?」

 荒い呼吸が耳にかかり、ぞわりと肌が粟立った。
 同時にカッと腹の底が熱くなり、火柱のような憤怒が一気に脳天を突き抜ける。

 アルベルトは公娼のオメガの奴隷に寄せる気持ちを隠さない。
 誰にでも言い、どこででも言う。
 公娼の外でなら、嬉しげに抱擁もするし、肩も抱く。
 隙を見つけて頬や額にキスもする。けれども口づけを強いられたことは一度もない。


 いっそ命令すればいいものを、それだけはしないと心に決めているような、アルベルトらしい男気を汚された。
 そんな気がして逆上する。


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