皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

第三章 争奪戦

第21話 イアコブの饗宴

「サリオン？」
「……えっ？」
「イアコブ様の宴席に行かなくてもいいのか？」

　　と、見番役に訝しそうに訊ねられ、サリオンはハッとした。
　視線を逡巡させながら、「ああ、そうだったな」と、ひとりごちる。

　目当ての男娼に先に客がついてしまっていた場合、クリストファーのように帰ってしまう者もいれば、前の客が退室するまで、館で長々饗宴を催し、呑み食いしながら待つ客もいる。

　イアコブは、大概、後者だ。


「イアコブ様の饗宴の間は？」
「南館の第三の間だ。レナ様を御指名されたら、饗宴の間に直行された。あの方は何時間でも食っていられる人だから、クリストファー様が退室される三時間ぐらいなら、前菜しか進んでないだろ」

　三時間足らずでは、まだ主菜にも至っていないと、見番役は肩をすくめて失笑した。
　待たされる側の客が指名した男娼に側付きがいる場合、宴席の相手は側付きがする習わしだ。


「ありがとう」
「お前も大変だな。こき使われて」
「奴隷だからな」
「そりゃ、そうか」


　見番役と軽口を交わし、サリオンは饗宴の間が連なる南館へと駆け戻る。

　つい今しがたまで何を考え、何を話していたのすら忘れてしまう忙しさだ。


　イアコブがいる三の間は広いだけでなく、内装も豪華だ。
　 馬蹄ばてい型に並べる 臥台がだいも六人掛けが用意される。

　派手好みのイアコブは、饗宴に招待する客や楽士も多く、余興に招く曲芸師達も軽薄で騒々しい。

　 吟遊詩人ぎんゆうしじん、主催者や招待客を褒め称える、即興の詩や歌を披露させたり、美少年の踊り子達に官能的なダンスを踊らせ、客に色目を使わせるなど、サリオンもレナも、同席は避けたい類たぐい類の宴席だ。

　それでもクリストファーにレナが仕えていたように、イアコブの隣に代理者として座り続け、作り笑いを貼りつけ続ける責務が待っている。