上 下
103 / 297
第三章 争奪戦

第14話 アルベルトの饗宴

しおりを挟む
  クリストファーも、大きなクッションを左脇に挟んで横臥おうがして、給仕の下男がナイフで削ぎ切りにした焼き肉の肉片を摘んでいる。
 そのたび、クリストファーに身を寄せて座るレナが彼の汚れた右手を、下男が持った深鉢の水で洗ってやり、布で拭ってやっている。

  表向きは甲斐甲斐しく客に仕える男娼だ。

 今夜の宴席で最も高価な料理は、この猪肉の串焼きだ。

 上流階層の饗宴では、主催者よりも同席者達の地位が低いと、猪肉は供されない。 
 だから、これはクリストファーがオメガのレナを、アルファの自分と同格に扱う気持ちの現れでもある。


「レナ。君ももっと食べなさい。猪は君の好物だろう?」
「ありがとうございます」


 レナは艶然として微笑んだ。

 饗宴の主催者の相方は、オメガであっても、客と同じ料理やワインを食することが許される。
 けれどもクリストファーが精一杯のもてなしとして用意させた料理にすらも、レナは関心を示さない。手を伸ばそうともしなかった。

 つれないレナに、クリストファーも困惑気味に整った眉尻を下げている。


 サリオンは決して盛況とは言えない不毛な宴席は切り上げてしまい、さっさとレナの居室にクリストファーを案内しようと算段した。

 宴が終われば、クリストファーが招いた客は帰宅する。

 今夜の饗宴での料理や招待客や、楽士の数も、クリストファーの財力相応のものだった。
 彼はレナを何としてでも手に入れたくて、見境なく私財をつぎ込み、自滅するほど浅はかでもない。

 彼は決して見栄を張らない。
 そのぶん堅実だとも言えるだろう。


 余興や料理に奇抜さはないものの、アルファの中流貴族の邸宅などでも催される饗宴の典型だ。


 その点、日ごとアルベルトの宴席で出される珍味は、毎回レナに驚嘆の声を上げさせる。

 野菜で綺麗に彩られた、ラクダの爪先の大きな煮込みが、その原型を留めたままで、銀の皿に盛られて出された時など、広間に同席していたサリオンも、度胆を抜かれて目を剥いた。

 

 ヒトコブラクダの足首から下を切り取って、爪先の肉が柔らかくなるまで深鍋で煮込まれ、少量の塩と香草のディルで、風味付けをされていた。

 煮上がった爪先は大皿に移され、高価な香草のサフランや蜂蜜、葡萄果汁などの調味料と、小麦粉を加え、棒で混ぜながらとろみをつけたソースをたっぷりかけた、見たこともない逸品だ。  

 醜怪な見た目に慄いたレナは、同じ臥台がだいに寝そべるアルベルトに、声を上げて抱きついた。


 レナが気味が悪いと頑なに拒んだその肉を、普段は宴席での料理には決して口をつけないサリオンが、代わりに味見をさせられたのだが、骨回りの肉の脂の甘さと旨味、そして、酸味と甘みと香草の香りが、絶妙に調和した煮汁まで美味だった。

 咀嚼そしゃくしながら目を丸くして唸った途端、アルベルトに得意満面な顔をされ、むっとしたことまで鮮明に覚えている。

 悪戯が好きなアルベルトらしい余興として、記憶に刻み込まれている。

 サリオンは、胸の奥にチクリとした痛みを感じて目を伏せた。あんな風変りな体験は、皇帝でなければ供されることはないだろう。
 あれはレナを驚かせたい一心でしたことなのか。
 それともと、サリオンの思考が停止する。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

処理中です...