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第三章 争奪戦
第13話 クリストファーの饗宴
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クリストファーの饗宴では、広間のそこかしこに腰高の丸テーブルが配膳台として幾つも置かれ、下男達は一時的に置かれた配膳台から、銀の皿に盛られた料理を、脚の短い楕円のテーブルに並べては、粛々として広間を去る。
供されたのは、オリーブの実のオイル漬けや山羊のチーズ、網焼きにされたイワシやサバや焼き牡蠣や、串焼きにした猪肉などだ。
楕円型のテーブルを中心に据え置き、馬蹄型に設しつらえられた三つの臥台臥台には、淡い空色のシーツが掛けられて、金に近い黄色や薄紫など、色取り取りの大きなクッションが添えられる。
左右の細長い臥台には、宴席にのみ招待されたクリストファーの友人が、一人ずつ腹這いに寝そべって、定番中の定番料理に早速その手を伸ばしている。
横這いになり、左の脇にクッションをあてがい、右の手で料理を摘む者もいる。
料理は予め一口大に切ってある。
そのため、楊枝ようじを使わず、手づかみで食べるのだ。
階級の低い男娼が、彼等の左右に腰をかけ、会食者の銀杯が空になれば水差しでワインを注ぎ、ソースや調味料で汚れた客の手を、水の入った深鉢で洗い、美しい刺繍が施された麻布で拭いていた。
馬蹄型に並べた臥台の正面席には、饗宴の主催者のクリストファーと、今夜の相方のレナがいる。
クリストファーも、招待客達と円型闘技場で戦う剣闘士達の評判や、下世話な噂話に至るまで、冗談を交えながら会話を楽しみ、しきりにレナにも話題を振った。
最もレナは、アルベルト以外の男の前では口数が少なく、笑顔ですらも滅多に見せない。
宴席の終わりを知らせるデザートの果物が運ばれるまで、場を湧かせるのはクリストファーが招待した明朗快活な友人と、広間の窓辺で竪琴や笛やタンバリンを奏でる楽士の役目だ。
そんな可もなく不可もなくといった饗宴で、サリオンは『廻し』として宴席の進行を司る。
空いた皿を下げるため、ちょうど広間に入ってきた下男をそっと手招いた。
「少し早いが、デザートを持って来てくれ」
長身の下男に囁いた。
デザートとしてクリストファーが注文したのは、リンゴと葡萄と無花果だ。
これもまた、話のきっかけにでもなるような、要素はなかった。
背の高い下男は身を屈め、サリオンの口元に耳を寄せると、軽く頷き、中央の丸テーブルから空になった銀の皿を何枚か重ねて片手で持ち、諾々と広間を出て行った。
供されたのは、オリーブの実のオイル漬けや山羊のチーズ、網焼きにされたイワシやサバや焼き牡蠣や、串焼きにした猪肉などだ。
楕円型のテーブルを中心に据え置き、馬蹄型に設しつらえられた三つの臥台臥台には、淡い空色のシーツが掛けられて、金に近い黄色や薄紫など、色取り取りの大きなクッションが添えられる。
左右の細長い臥台には、宴席にのみ招待されたクリストファーの友人が、一人ずつ腹這いに寝そべって、定番中の定番料理に早速その手を伸ばしている。
横這いになり、左の脇にクッションをあてがい、右の手で料理を摘む者もいる。
料理は予め一口大に切ってある。
そのため、楊枝ようじを使わず、手づかみで食べるのだ。
階級の低い男娼が、彼等の左右に腰をかけ、会食者の銀杯が空になれば水差しでワインを注ぎ、ソースや調味料で汚れた客の手を、水の入った深鉢で洗い、美しい刺繍が施された麻布で拭いていた。
馬蹄型に並べた臥台の正面席には、饗宴の主催者のクリストファーと、今夜の相方のレナがいる。
クリストファーも、招待客達と円型闘技場で戦う剣闘士達の評判や、下世話な噂話に至るまで、冗談を交えながら会話を楽しみ、しきりにレナにも話題を振った。
最もレナは、アルベルト以外の男の前では口数が少なく、笑顔ですらも滅多に見せない。
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そんな可もなく不可もなくといった饗宴で、サリオンは『廻し』として宴席の進行を司る。
空いた皿を下げるため、ちょうど広間に入ってきた下男をそっと手招いた。
「少し早いが、デザートを持って来てくれ」
長身の下男に囁いた。
デザートとしてクリストファーが注文したのは、リンゴと葡萄と無花果だ。
これもまた、話のきっかけにでもなるような、要素はなかった。
背の高い下男は身を屈め、サリオンの口元に耳を寄せると、軽く頷き、中央の丸テーブルから空になった銀の皿を何枚か重ねて片手で持ち、諾々と広間を出て行った。
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