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第三章 争奪戦

第11話 レナの決意 

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 サリオンはレナを凝視した。

 胸周りが透けて見える、扇情的な薄絹の貫頭衣かんとういの短い裾の乱れを叩いて直し、レナは顔を上げるなり、投げやりな嘆息をひとつした。

 サリオンは返事を求めて身を乗り出したが、時間稼ぎをするように、耳飾りの角度を直したり、テーブルに置かれた手鏡を取り、前髪をしきりにいじっている。


「レナ」


 堪りかねて語気を強めたサリオンに、レナは「飲む」と短く言い切った。サリオンには背を向けて、手鏡の中の自分をじっと見つめている。


「そうか」

 
 サリオンは固い顔で頷いた。
 承諾の中に、微かな失意が混ざった自分の声音にドキリとした。

 レナが飲むと言った瞬間、胸の奥に湧いたのは、舌打ちしたくなるような、僅かな苛立ちと落胆だ。
 自分は何に苛立って、何にがっかりしたのだろう。

 実直なクリストファーに身請けされ、彼の跡継ぎをもうける道など眼中にないとでも言いたげなレナに、むっとした。
 こんなに親身に案じているのに、一蹴いっしゅうされたからなのか。


 それともと、サリオンは喉元までせりあがりかけた邪心に即座に蓋をした。


 それはアルベルトに対する独占欲の鱗片りんぺんだ。

 彼の皇妃になりたいレナの背中を押しながら、諦めてくれればいいのにと、心が波立つ。ざわめく。こんなことは初めてだ。

「だったら飲めよ」


 自分で自分に動揺したまま、サリオンは、宝石箱の二重底に隠された避妊の経口剤を取り出した。
 銀の水差しから水を注いだグラスと避妊薬を差し出すと、レナは無言で呑み干した。

 これで今夜は誰とベッドを共にしても、誰の子供も孕まない。

 しかし、この隠し持った避妊薬も、残り少なくなっている。

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