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第三章 争奪戦
第8話 今夜はハズレ
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日没を待って開門され、正面玄関も開かれて間もないが、既に控えの間の小窓に数人の客がたかっていた。
「もう既にレナ様には、ご御指名が二名様つきました。皇帝陛下がご来館なさらない夜にしか、レナ様を指名できませんから。来館なさった御方々は、競うようにレナ様を指名なさっていましたよ。昼三の皆様は饗宴の時間も長いですし、一晩でお受けできる人数は二名までと決められていますから」
見番役は興奮気味だ。レナがアルベルト以外の客を取る事は、滅多にないからなのだろう。
「それで、最初に指名をされたのは?」
「クリストファー様です。ちょうどサリオン様に使いを向かわせようとしていたところでした。クリストファー様は指名を終えられ、第七の饗宴の間で、レナ様をお待ちになっていらっしゃいます」
「クリストファー様の後は」
「イアコブ様です」
腰高のテーブルに置かれた台帳をめくり、見番役は粛々と返答する。
最高位の昼三は客がついていなければ、公娼が営業を終えるまで、居室で自由に過ごしている。
格下の男娼達と同じように、控えの間に陳列されることはない。
とはいえ、その日の何時にどういった客がつき、どの饗宴の間で、どんな料理を注文し、何時に床入りをして何時に退館したのかなど、詳細な記録が随時、見番役の台帳に記される。
「クリストファー様か……」
サリオンは複雑な面持ちで呟いた。
彼もまた、アルベルトに匹敵するほど毎晩のように来館し、アルベルトがレナを買い占めたとわかった時点で帰ってしまうアルファだ。
中流貴族の跡取り息子で、齢はアルベルトよりも六歳上の三十八歳。
いつ見ても背筋がピンと伸びていて清々しく、石像のように端正な顔立ちだ。
十八のレナとは二十歳も離れているが、実年齢より若く見える。
彼は前にも数回レナを買っていて、レナを目当てに来館する貴族のアルファの一人でもある。
レナを跡継ぎを産ませるだけの道具ではなく、番として、自分の屋敷に迎え入れたい。
身請けをしたいと、会う度にレナを口説いている。
饗宴の席でも伝統的な料理とワインでレナをもてなし、ベッドの中でも情熱的だが紳士だという。
しかし、彼にはアルベルトのように、一晩レナを買い占めるだけの財力はない。
一途に想ってくれてはいるが、生真面目な性格が徒になり、レナには物足りなさを与える相手だ。
また、イアコブもレナに熱を上げているアルファ達の一人であり、クリストファーより身分も高く、齢も若い。
だが、肥満体で色が白く、顎の下にたっぷりと脂肪を蓄えた、いかにも脆弱な大貴族だ。
レナの好みとは程遠い。
どうやら今夜は『ハズレ』らしい。
「もう既にレナ様には、ご御指名が二名様つきました。皇帝陛下がご来館なさらない夜にしか、レナ様を指名できませんから。来館なさった御方々は、競うようにレナ様を指名なさっていましたよ。昼三の皆様は饗宴の時間も長いですし、一晩でお受けできる人数は二名までと決められていますから」
見番役は興奮気味だ。レナがアルベルト以外の客を取る事は、滅多にないからなのだろう。
「それで、最初に指名をされたのは?」
「クリストファー様です。ちょうどサリオン様に使いを向かわせようとしていたところでした。クリストファー様は指名を終えられ、第七の饗宴の間で、レナ様をお待ちになっていらっしゃいます」
「クリストファー様の後は」
「イアコブ様です」
腰高のテーブルに置かれた台帳をめくり、見番役は粛々と返答する。
最高位の昼三は客がついていなければ、公娼が営業を終えるまで、居室で自由に過ごしている。
格下の男娼達と同じように、控えの間に陳列されることはない。
とはいえ、その日の何時にどういった客がつき、どの饗宴の間で、どんな料理を注文し、何時に床入りをして何時に退館したのかなど、詳細な記録が随時、見番役の台帳に記される。
「クリストファー様か……」
サリオンは複雑な面持ちで呟いた。
彼もまた、アルベルトに匹敵するほど毎晩のように来館し、アルベルトがレナを買い占めたとわかった時点で帰ってしまうアルファだ。
中流貴族の跡取り息子で、齢はアルベルトよりも六歳上の三十八歳。
いつ見ても背筋がピンと伸びていて清々しく、石像のように端正な顔立ちだ。
十八のレナとは二十歳も離れているが、実年齢より若く見える。
彼は前にも数回レナを買っていて、レナを目当てに来館する貴族のアルファの一人でもある。
レナを跡継ぎを産ませるだけの道具ではなく、番として、自分の屋敷に迎え入れたい。
身請けをしたいと、会う度にレナを口説いている。
饗宴の席でも伝統的な料理とワインでレナをもてなし、ベッドの中でも情熱的だが紳士だという。
しかし、彼にはアルベルトのように、一晩レナを買い占めるだけの財力はない。
一途に想ってくれてはいるが、生真面目な性格が徒になり、レナには物足りなさを与える相手だ。
また、イアコブもレナに熱を上げているアルファ達の一人であり、クリストファーより身分も高く、齢も若い。
だが、肥満体で色が白く、顎の下にたっぷりと脂肪を蓄えた、いかにも脆弱な大貴族だ。
レナの好みとは程遠い。
どうやら今夜は『ハズレ』らしい。
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