皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

文字の大きさ
上 下
97 / 297
第三章 争奪戦

第8話 今夜はハズレ

しおりを挟む
 日没を待って開門され、正面玄関も開かれて間もないが、既に控えの間の小窓に数人の客がたかっていた。


「もう既にレナ様には、ご御指名が二名様つきました。皇帝陛下がご来館なさらない夜にしか、レナ様を指名できませんから。来館なさった御方々は、競うようにレナ様を指名なさっていましたよ。昼三の皆様は饗宴の時間も長いですし、一晩でお受けできる人数は二名までと決められていますから」


 見番役は興奮気味だ。レナがアルベルト以外の客を取る事は、滅多にないからなのだろう。

「それで、最初に指名をされたのは?」
「クリストファー様です。ちょうどサリオン様に使いを向かわせようとしていたところでした。クリストファー様は指名を終えられ、第七の饗宴の間で、レナ様をお待ちになっていらっしゃいます」
「クリストファー様の後は」
「イアコブ様です」

 腰高のテーブルに置かれた台帳をめくり、見番役は粛々と返答する。
 最高位の昼三は客がついていなければ、公娼が営業を終えるまで、居室で自由に過ごしている。 

 格下の男娼達と同じように、控えの間に陳列されることはない。


 とはいえ、その日の何時にどういった客がつき、どの饗宴の間で、どんな料理を注文し、何時に床入りをして何時に退館したのかなど、詳細な記録が随時、見番役の台帳に記される。


「クリストファー様か……」


 サリオンは複雑な面持ちで呟いた。

 彼もまた、アルベルトに匹敵するほど毎晩のように来館し、アルベルトがレナを買い占めたとわかった時点で帰ってしまうアルファだ。

 中流貴族の跡取り息子で、齢はアルベルトよりも六歳上の三十八歳。
 いつ見ても背筋がピンと伸びていて清々しく、石像のように端正な顔立ちだ。

 十八のレナとは二十歳も離れているが、実年齢より若く見える。
 彼は前にも数回レナを買っていて、レナを目当てに来館する貴族のアルファの一人でもある。


 レナを跡継ぎを産ませるだけの道具ではなく、つがいとして、自分の屋敷に迎え入れたい。

 身請けをしたいと、会う度にレナを口説いている。

 
 饗宴の席でも伝統的な料理とワインでレナをもてなし、ベッドの中でも情熱的だが紳士だという。
 しかし、彼にはアルベルトのように、一晩レナを買い占めるだけの財力はない。

 一途に想ってくれてはいるが、生真面目な性格があだになり、レナには物足りなさを与える相手だ。


 また、イアコブもレナに熱を上げているアルファ達の一人であり、クリストファーより身分も高く、齢も若い。
 だが、肥満体で色が白く、顎の下にたっぷりと脂肪を蓄えた、いかにも脆弱ぜいじゃくな大貴族だ。

 レナの好みとは程遠い。

 どうやら今夜は『ハズレ』らしい。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

ひとりのはつじょうき

綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。 学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。 2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...