皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第三章 争奪戦

第6話 最善で最良の選択肢

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 見ず知らずの男達の慰みとして身体を使われ、望みもしない奉仕を施す。
 体も心も削られるような夜毎の苦痛を、愛する人との逢瀬で癒し、救われたいと願うのは、男娼だからかもしれない。

 
 かつては自分もそうだった。 
 ユーリスが来館できない夜の長さ。
 このまま来なくなってしまうのではと、焦りや不安にさいなまれながら、別の男に抱かれていた。

 子供ができない体になり、今はそんな奉仕を強要されることはない。
 だからこそ、未だに苦界で喘いでいる、レナも解放してやりたい。

 そんな願いとは裏腹に、レナの側付きとして、レナの商品価値を高めるために化粧を凝らし、装飾品を整える。
 実の弟を売りに出す兄のような、ざらついた罪の意識が拭えない。

 それならいっそ、レナの美貌を最大限に際立たせ、付加価値を上げて上流階層の貴族にしか、買えないようにしたかった。


 とはいえ、王族だろうとダビデのような獣じみた男もいる。
 アルファで、身分が高いからといって品があり、人格者とは限らない。

 少しでもレナの助けになりたいのなら、昼三という、最高位レナを身請けできる財力と身分の双方を兼ね備え、護ってくれる大人の男が必要だ。

 それもレナが若いうちだけ体を貪むさぼり、齢を取ったら、裏路地にでも置き去るか、奴隷商人に売ってしまう傍若無人なアルファではなく、 つがいとして、死ぬまでレナに尽くしてくれる、懐深い賢人だ。


 サリオンの脳裏に浮かぶのは、やはり最後はあの男になる。

 直後に左胸の奥底が疼くように痛み出し、眉を寄せて伏し目になる。

 レナがアルベルトの世継ぎを身籠り、産むだけではなく番として、アルベルトを求める気持ちもよくわかる。
 わかるからこそ切なくなる。


「そろそろ客が入る頃だ。俺は見番役に支度が済んだと伝えに行くから、待っててくれ」

  
 サリオンは自分の迷いを振り切るように声を張り、レナを残して部屋を出た。


 どんなに胸を痛めても、辿り着く答えは変わらない。
 アルベルトとレナが結ばれて、番になるのが最善で最良の選択だ。

 だとしたら、何も考えない。二人に対して自分が今、するべきことをするだけだ。



 日没とともに、公娼の正面玄関が開かれる。

 青銅製の びょうで飾られた重厚な両開き戸だ。

 公娼を訪れた客達は、武装した番人が睨みを効かせて立っている、正面玄関をくぐり抜け、あちこちの廊下や大階段に続いている、吹き抜け天井の大ホールを突っ切って、中庭を囲む 柱回廊ちゅうかいろうまで進んで来る。

 逸る気持ちを押し殺し、澄ました顔で柱回廊の右側に、 しつえられた控えの間で、客待ちをする男娼達を物色し、その日の 相方あいかたを指名する。

 控えの間の、廊下に面した小窓越しに、好みの男娼を選んだら、出入り口に常駐している見番役に伝える流れだ。

 見番役は指名を受けた男娼を、控えの間から廊下に連れ出し、客と男娼を饗宴の間に案内する、連絡役に引き渡す。

 そこは言わば、来館した客と未指名の男娼の、顔繋ぎをする広間でもあり、廊下でもある。

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