上 下
91 / 297
第三章 争奪戦

第2話 優しいはずなのに冷たいひと

しおりを挟む
 廊下側から声をかけられ、腰を上げたサリオンは、既に落胆と罪悪感が入り混じる面持ちで返事をした。
 レナの足を補助椅子に乗せ掛け、化粧道具を並べたテーブルに、絵筆を置く。

 ドアを開き、使いの奴隷に差し出された巻き紙を預かると、サリオンは顔を曇らせ、ドアを閉じた。


「レナ。陛下からだ」

 告げる前から手で顔を覆ったレナの前に、巻き紙の書簡を差し出したのだが、レナはそれを押し退ける。

「代わりに読んで」

 と、口早に言いつけられて溜息をつきかけたのだが、 それを無理やり押し留める。

 巻き紙の紐を解いて広げ、目を通す。
 銅製のペン先で、羊皮紙に刻まれた書簡の文面は、いつも同じで簡潔だ。


「今夜は公務で、お見えになられないそうだ。陛下はとても残念だと、仰っていらっしゃる」
「……そう」

 顔から手を外したレナは、力なく項垂れたあと、高い天井を仰ぎ見る。
 手紙が届いた瞬間に、大方の予測はついていた。
 それでも判決は死刑だったと、知らされた直後のようだった。


 昨夜、アルベルトはダビデ提督の暴挙を止めるため、レナを寝所に置き去りにして飛び出した。そして、そのままレナの元には戻らずに、公娼を後にした。

 アルベルトがレナに惚れ込んでいるのなら、ダビデの暴走を制した後、レナの寝所に戻ったはずだ。
 昨夜は公娼で働く者達全員に、総花そうばなという祝儀をふるまってまで、買い占めた昼三の男娼だ。

 夜が明けるまで、時間は充分あったのに、アルベルトは惜しげもなく帰ってしまった。


 レナ自身、それなら自分は何のために買われたのだと、思ったはずだ。

 しかも、いつものように公務を理由に出されたら、今夜は来ない皇帝を、責めることすらできなくなる。
 レナは天井を振り仰いだまま、悲しげに息を吐き出した。

 レナを放置したことを、書簡で詫びようとも釈明しようともしない相手に、更に傷をえぐられたように、レナの美しい顔が虚ろになる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

短編エロ

黒弧 追兎
BL
ハードでもうらめぇ、ってなってる受けが大好きです。基本愛ゆえの鬼畜です。痛いのはしません。 前立腺責め、乳首責め、玩具責め、放置、耐久、触手、スライム、研究 治験、溺愛、機械姦、などなど気分に合わせて色々書いてます。リバは無いです。 挿入ありは.が付きます よろしければどうぞ。 リクエスト募集中!

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

βの僕、激強αのせいでΩにされた話

ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。 αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。 β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。 他の小説サイトにも登録してます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの運命の番になれますか?

あんにん
BL
愛されずに育ったΩの男の子が溺愛されるお話

【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された

亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。 隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。 『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。 ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。 社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。 本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。 郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。 前編、中編、後編に分けて投稿します。 全編Rー18です。 アルファポリスBLランキング4位。 ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。 BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。 pixiv ブクマ数2600突破しました。 各サイトでの応援、ありがとうございます。

俺☆彼 [♡♡俺の彼氏が突然エロ玩具のレビューの仕事持ってきて、散々実験台にされまくる件♡♡]

ピンクくらげ
BL
ドエッチな短編エロストーリーが約200話! ヘタレイケメンマサト(隠れドS)と押弱真面目青年ユウヤ(隠れドM)がおりなすラブイチャドエロコメディ♡ 売れないwebライターのマサトがある日、エロ玩具レビューの仕事を受けおってきて、、。押しに弱い敏感ボディのユウヤ君が実験台にされて、どんどんエッチな体験をしちゃいます☆ その他にも、、妄想、凌辱、コスプレ、玩具、媚薬など、全ての性癖を網羅したストーリーが盛り沢山! **** 攻め、天然へたれイケメン 受け、しっかりものだが、押しに弱いかわいこちゃん な成人済みカップル♡ ストーリー無いんで、頭すっからかんにしてお読み下さい♡ 性癖全開でエロをどんどん量産していきます♡ 手軽に何度も読みたくなる、愛あるドエロを目指してます☆ pixivランクイン小説が盛り沢山♡ よろしくお願いします。

処理中です...