皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

第二章 死がふたりを分かつとも

第61話 番のユーリス

　クルムのオメガは、番を失くして生殖機能を損傷し、受胎できなくなったとしても、番を失くした心の傷が癒えたなら、新たなアルファと番の契りを結ぶことができてしまう。

　できるからこそサリオンは、気持ちが揺らぐ自分自身を恐れていた。


　他国のオメガは番を失くすと、二度と番は作れなくなる。

　にも関わらず、アルファやベータを欲情させるフェロモンを強く発する発情期を、月に一度、七日間前後、迎え続ける。
　だが、その発情期中に性交しても、亡くした番以外の子供は、死ぬまで宿さないとも聞いている。


　しかし、クルムは他国との交流を、ほとんど持たない閉鎖的な国だった。

　そのため、クルム民族特有の生態や文化が脈々と受け継がれ、オメガの生態も、番の概念そのものも、近隣諸国と異なる点も多いのだ。



　クルムのオメガも男女を問わず、十二、三歳頃から月に一度、七日間前後発情し、交尾相手を求めるためにフェロモンを発するようになる。
　番のいないアルファを、欲情させるフェロモンだ。

　そうして惹きつけた交尾相手と性交し、受胎をすれば、番でなくても彼等の子供を出産できる身体へと成長する。

　また、発情期にアルファと性交しても、必ずしも子を孕むとは限らない。
　月に一度の発情期も、出産できる生殖機能も、老いるまで継続する点に関しても、他国の一般的なオメガとの違いはない。


　だが、番の契りはクルムでは、互いに愛し合っていなければ、成立しない。

　双方共に、心も身体も魂も強く結ばれたという実感が、得られた時点で番となる。
　そして、クルムのオメガは番の子以外、宿さない。


　他国では、番のアルファからでさえ、オメガの男女は動物的な本能に突き動かされて交尾をし、出産もする『雌メス』として見なされる。

　恋愛ではなくフェロモンにより、アルファやを惹きつけただけのオメガの番は、下等とみなされ、差別を受ける。　
　同義により、生まれた子供も家畜のように扱われる。


　けれども、クルムではアルファとオメガが心から、愛し合っていなければ番にならない。

　また、クルムのオメガは他民族の方法では、番にされることはない。
　アルファにうなじを噛まれるなど、アルファの一方的な意思だけで、強制的に番にされる恐れはない。


　クルム民族のアルファが、オメガと番として結ばれることは、婚姻と同等の意味を持っていた。
　もちろん、クルム国にも階級制度は存在していた。

　法律上でもアルファは、アルファとの婚姻だけしか許されない。


　それでもアルファがオメガと番つがいになるのは、相手のオメガを愛したからだ。
　ユーリスは、クルム王朝の流れをくむ大貴族でありながら、女性のアルファとの婚姻すらも拒絶した。