81 / 297
第二章 死がふたりを分かつとも
第57話 施政者としてのアルベルト
しおりを挟む
サリオンは、十八歳の男子にしては骨格からして華奢で細く、肌理の細かい白い肌に金髪だ。
気の強そうな、目尻の吊り上った二重目蓋の薄碧色の双眸は、少年らしい瑞々しい色香を醸かもしている。
この容貌でアルファやベータを欲情させるフェロモンを発していたなのら、皇帝でなくとも一目で籠絡されたに違いない。ミハエルはサリオンを見据えたまま、冷やかすように唇の端を引き上げる。
一方のサリオンは、次から次へと思いもかけない言葉の刃が突き刺さり、声も出せずに激しく瞳を震わせた。
食事を取る手も止まってしまっていたのだが、ミハエルはディキャンタを持ち上げて、サリオンの空になったグラスにワインを注ぎ足した。
「体を売らなきゃならない俺の気持ちと、 番を殺されたお前の気持ちを、一緒にすることはできないのは、わかっている。お前の方が比べものにならないぐらい、この国そのものが憎いだろう。侵略軍を指揮した 施政者としての皇帝も」
真紅のワインがなみなみ残ったディキャンタを、窓辺の木製テーブルに置き、ミハエルはベッドの端に腰掛けるサリオンをじっと見た。
楽天的な微笑みは、頬からも口元からも消えていた。
「だけど、侵略国の皇帝としてのアルベルトと、お前に一途に恋している、ただの男のアルベルトを、別々に考えてやってくれたらいいのに……、なんて、たまに思うよ。そんなこと。……でも、それは俺が全くの部外者だから、言えるだけかもしれないし。俺がお前の立場になったら絶対に、許せないかもしれないけど」
やるせなさを眉の辺りに滲ませて、ミハエルは語尾を消え入らせた。
サリオンも口を噤んだままだった。ミハエルが持参した手燭のロウソクも短くなり、薄暗い部屋が陰を深める。
皇帝としてのアルベルトは、ミハエルが言った通り、侵略の軍勢を指揮した為政者だ。
もしかしたら近隣国の遠征は、アルベルトの本意ではなかったのかもしれないが、アルベルトに略奪行為の責任は、なかったなどとは言わせない。
軍を率いて指揮していたのは皇帝だ。
サリオンは肉が盛られた銀の皿を、脇に置いた銀盆の上に戻してしまい、柳眉をひそめて伏し目になる。
気の強そうな、目尻の吊り上った二重目蓋の薄碧色の双眸は、少年らしい瑞々しい色香を醸かもしている。
この容貌でアルファやベータを欲情させるフェロモンを発していたなのら、皇帝でなくとも一目で籠絡されたに違いない。ミハエルはサリオンを見据えたまま、冷やかすように唇の端を引き上げる。
一方のサリオンは、次から次へと思いもかけない言葉の刃が突き刺さり、声も出せずに激しく瞳を震わせた。
食事を取る手も止まってしまっていたのだが、ミハエルはディキャンタを持ち上げて、サリオンの空になったグラスにワインを注ぎ足した。
「体を売らなきゃならない俺の気持ちと、 番を殺されたお前の気持ちを、一緒にすることはできないのは、わかっている。お前の方が比べものにならないぐらい、この国そのものが憎いだろう。侵略軍を指揮した 施政者としての皇帝も」
真紅のワインがなみなみ残ったディキャンタを、窓辺の木製テーブルに置き、ミハエルはベッドの端に腰掛けるサリオンをじっと見た。
楽天的な微笑みは、頬からも口元からも消えていた。
「だけど、侵略国の皇帝としてのアルベルトと、お前に一途に恋している、ただの男のアルベルトを、別々に考えてやってくれたらいいのに……、なんて、たまに思うよ。そんなこと。……でも、それは俺が全くの部外者だから、言えるだけかもしれないし。俺がお前の立場になったら絶対に、許せないかもしれないけど」
やるせなさを眉の辺りに滲ませて、ミハエルは語尾を消え入らせた。
サリオンも口を噤んだままだった。ミハエルが持参した手燭のロウソクも短くなり、薄暗い部屋が陰を深める。
皇帝としてのアルベルトは、ミハエルが言った通り、侵略の軍勢を指揮した為政者だ。
もしかしたら近隣国の遠征は、アルベルトの本意ではなかったのかもしれないが、アルベルトに略奪行為の責任は、なかったなどとは言わせない。
軍を率いて指揮していたのは皇帝だ。
サリオンは肉が盛られた銀の皿を、脇に置いた銀盆の上に戻してしまい、柳眉をひそめて伏し目になる。
0
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる