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第二章 死がふたりを分かつとも
第55話 オメガの権利
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ミハエルは軽く肩をすくめてから、腕を左右に開いておどける。
まるで、悪戯が首尾よくいった、子供の得意顔になっている。
「勝算?」
「だって、今夜は皇帝陛下も来館されていた。あの皇帝なら、騒ぎを知ったら絶対に止めに来る。もちろん、お諫いさめになられるのは俺じゃない。ここでのしきたりを守らない、ダビデを退けて下さるだろうと思っていた」
ミハエルは、一度解いた長い足を再び組んでほくそ笑む。時折人差し指で下唇をなぞるのが、彼の癖。
「俺達オメガの奴隷にも、ひとつだけ『権利』ってものが与えられているのなら、あの 反吐が出そうなダビデの鼻をあかすために使いたかった。しかも今夜は、陛下とダビデが揃っていて、ダビデは俺を指名した。奴をフッて盛大に、恥をかかせる条件が、全部揃った気がしてさ」
斜向かいのベッドに腰をかけ、焼き肉を頬張るサリオンにミハエルは向き直り、あらためて厳粛な眼差しでくり返す。
「何度も言うようだが、だからといって、お前を巻き込むつもりはなかった。それだけは本当に謝りたい」
「いいえ、もうそれは済んだことです。ミハエル様を、責めるつもりはありません」
実際にミハエルが今、言ったように事態は治まり、自分もミハエルも無事だった。
ダビデの執念深さを考えると、完全にはまだ不安要素は消せないが、全てが自分の思い通りになるとでも、錯覚しているかのようなダビデが顔を真っ赤にして、ミハエルの部屋で錯乱していた姿は滑稽で、誰もが内心、せせら笑っていたはずだ。
「そう言う私も、ミハエル様が提督をフッと聞いた時は驚きましたが、いい気味だとも思った人間の一人です」
まるで、悪戯が首尾よくいった、子供の得意顔になっている。
「勝算?」
「だって、今夜は皇帝陛下も来館されていた。あの皇帝なら、騒ぎを知ったら絶対に止めに来る。もちろん、お諫いさめになられるのは俺じゃない。ここでのしきたりを守らない、ダビデを退けて下さるだろうと思っていた」
ミハエルは、一度解いた長い足を再び組んでほくそ笑む。時折人差し指で下唇をなぞるのが、彼の癖。
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「何度も言うようだが、だからといって、お前を巻き込むつもりはなかった。それだけは本当に謝りたい」
「いいえ、もうそれは済んだことです。ミハエル様を、責めるつもりはありません」
実際にミハエルが今、言ったように事態は治まり、自分もミハエルも無事だった。
ダビデの執念深さを考えると、完全にはまだ不安要素は消せないが、全てが自分の思い通りになるとでも、錯覚しているかのようなダビデが顔を真っ赤にして、ミハエルの部屋で錯乱していた姿は滑稽で、誰もが内心、せせら笑っていたはずだ。
「そう言う私も、ミハエル様が提督をフッと聞いた時は驚きましたが、いい気味だとも思った人間の一人です」
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