68 / 297
第二章 死がふたりを分かつとも
第44話 逃げ出したい
しおりを挟む
「あと少しで大引けの時刻になる。今夜はもう新規の客は受けないし、饗宴を済ませた客達も、床入りしている頃だろう。レナ様には皆から事情を話してくれ。俺は部屋に戻って仮眠を取る」
いつものように労いの言葉をかけた後、彼等に背を向け、大階段を下り始めた。
レナの側付きとしての役割を、下の者に押しつけた自責の念が、ひと足ごとにこみ上げる。サリオンは、しんとなった踊り場の、ぎこちない空気を背中に感じて項垂れた。
きっと皆も違和感を、抱いだいているに違いない。
レナも待っているはずだ。
アルベルトがレナの居室を飛び出したまま戻らない。
どういうことだと半狂乱で、側付きの自分を待ち構えているだろう。そんなレナへの対応を、他の下男に任せてしまった。
自分は逃げた。
サリオンは後ろめたさに苛まれながら、大階段を下り切った。
宴席を終えた客達が床入りになれば、しばらく下男の出番はない。
それぞれの男娼の側付きは、客が予め決めた退室時間になった際、居室を訪ねて宴席の費用を含めた代金を、求めなければならないが、それまでは食事をしたり仮眠するなど、思い思いに過ごしている。
アルベルトのように男娼を、一晩買い占めた客の支払いは翌朝だ。
本来ならば日が昇るまで、レナの居室に赴く用事は何もない。
ただし、今夜もアルベルトに袖にされ、泣きじゃくるレナに、友人としても側付きとしても寄り添うべきだと、自分の中から声がする。
それでも足はレナの居室から遠ざかる。
レナの辛さは、よくわかる。
けれども自分も、生きたオモチャにされかけた。
それも饗宴を大いに盛り上げる、余興としての輪姦だ。
解放された今になって、悲憤と怖気が嵐のように吹き荒れて、爆発しそうになっている。
頭の中はモヤがかったようになり、まともに思考が紡げない。
下男達に廻しとしての最低限の采配を、揮っただけで、疲労困憊し切っていた。
いつものように労いの言葉をかけた後、彼等に背を向け、大階段を下り始めた。
レナの側付きとしての役割を、下の者に押しつけた自責の念が、ひと足ごとにこみ上げる。サリオンは、しんとなった踊り場の、ぎこちない空気を背中に感じて項垂れた。
きっと皆も違和感を、抱いだいているに違いない。
レナも待っているはずだ。
アルベルトがレナの居室を飛び出したまま戻らない。
どういうことだと半狂乱で、側付きの自分を待ち構えているだろう。そんなレナへの対応を、他の下男に任せてしまった。
自分は逃げた。
サリオンは後ろめたさに苛まれながら、大階段を下り切った。
宴席を終えた客達が床入りになれば、しばらく下男の出番はない。
それぞれの男娼の側付きは、客が予め決めた退室時間になった際、居室を訪ねて宴席の費用を含めた代金を、求めなければならないが、それまでは食事をしたり仮眠するなど、思い思いに過ごしている。
アルベルトのように男娼を、一晩買い占めた客の支払いは翌朝だ。
本来ならば日が昇るまで、レナの居室に赴く用事は何もない。
ただし、今夜もアルベルトに袖にされ、泣きじゃくるレナに、友人としても側付きとしても寄り添うべきだと、自分の中から声がする。
それでも足はレナの居室から遠ざかる。
レナの辛さは、よくわかる。
けれども自分も、生きたオモチャにされかけた。
それも饗宴を大いに盛り上げる、余興としての輪姦だ。
解放された今になって、悲憤と怖気が嵐のように吹き荒れて、爆発しそうになっている。
頭の中はモヤがかったようになり、まともに思考が紡げない。
下男達に廻しとしての最低限の采配を、揮っただけで、疲労困憊し切っていた。
0
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
可愛いアルファ(仮)は僕のオメガ
竜鳴躍
BL
北村陸は漆黒の髪と瞳の色が綺麗な美少年(ブラコン)である。
大好きな兄の進学と同時に大学へ入学するため無茶なことをしたので、中3にあがる年に大学一年になった。
自称アルファだが、まだバース性が安定しない陸のことを、同じアルファの幼馴染は求愛していて。
執着攻め(上位α)×強気受け(α(仮)→後天Ω)
〇もう一つの運命の番 芸能人×大学生(陸の兄)も書きます。
☆美貌のオメガは正体を隠すの主人公夫婦の次男カップルメインの短編。イチャイチャ、なれそめ補充話
☆前作 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/438629718
お世話したいαしか勝たん!
沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。
悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…?
優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?!
※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる