皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第二章 死がふたりを分かつとも

第44話 逃げ出したい

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「あと少しで大引けの時刻になる。今夜はもう新規の客は受けないし、饗宴を済ませた客達も、床入りしている頃だろう。レナ様には皆から事情を話してくれ。俺は部屋に戻って仮眠を取る」

 いつものように労いの言葉をかけた後、彼等に背を向け、大階段を下り始めた。

 レナの側付きとしての役割を、下の者に押しつけた自責の念が、ひと足ごとにこみ上げる。サリオンは、しんとなった踊り場の、ぎこちない空気を背中に感じて項垂れた。

 きっと皆も違和感を、抱いだいているに違いない。

 レナも待っているはずだ。


 アルベルトがレナの居室を飛び出したまま戻らない。

 どういうことだと半狂乱で、側付きの自分を待ち構えているだろう。そんなレナへの対応を、他の下男に任せてしまった。
 自分は逃げた。
 サリオンは後ろめたさに苛まれながら、大階段を下り切った。


 宴席を終えた客達が床入りになれば、しばらく下男の出番はない。

 それぞれの男娼の側付きは、客が予め決めた退室時間になった際、居室を訪ねて宴席の費用を含めた代金を、求めなければならないが、それまでは食事をしたり仮眠するなど、思い思いに過ごしている。

 アルベルトのように男娼を、一晩買い占めた客の支払いは翌朝だ。

 本来ならば日が昇るまで、レナの居室に赴く用事は何もない。

 ただし、今夜もアルベルトに袖にされ、泣きじゃくるレナに、友人としても側付きとしても寄り添うべきだと、自分の中から声がする。

 それでも足はレナの居室から遠ざかる。

 
 レナの辛さは、よくわかる。

 けれども自分も、生きたオモチャにされかけた。
 それも饗宴を大いに盛り上げる、余興としての輪姦だ。
 解放された今になって、悲憤と怖気おぞけが嵐のように吹き荒れて、爆発しそうになっている。

 頭の中はモヤがかったようになり、まともに思考が紡げない。
 下男達に廻しとしての最低限の采配を、ふるっただけで、疲労困憊し切っていた。

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