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第二章 死がふたりを分かつとも
第42話 人間ではない
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「そうか。……良かった。お前が全然戻らないから、俺達はもう、てっきりアルファ達の余興にされてるのかと思っていた」
サリオン自身と同じように、テオクウィントス帝国に侵略されて捕虜になり、奴隷として連行され、下男にされた男達がホッと息を吐きながら、それぞれの胸に手を当てた。
同じ立場の者として、真摯に案じてくれたのか。
テオクウィントス帝国のアルファの、しかも皇帝の従弟だ。奴隷の身では逆らえない。ただ胸を痛めることしかできない自分達の無力さに、歯噛みしていてくれたような顔つきだ。
「良かったな。陛下が駆けつけて下さって」
「……うん」
サリオンは弱々しく頷いた。
自分を案じてくれる、誰かがいること。
それが全く頭になかった。いじけた自分を猛省する。
しかも今夜こそレナと寝ようとしていたアルベルトが、その直前で部屋を出て、本館から南館まで来てくれた。
おそらく昂ぶりかけていたはずの男の本能、欲望よりも、公娼の下働きのオメガの自分の身の安全を優先し、野犬のようなダビデの盾になってくれた。
この国では、アルファ階層の人間の思惑ひとつで、奴隷のオメガはオモチャにされる。
円型競技場で猛獣と戦わされたり、饗宴の余興のうちとして、宴席の招待客に輪姦されても、上流階層の人間は、不道徳だと非難はしない。
むしろ彼等をそうして興奮させ、楽しませるのも奴隷のオメガの務めだと、アルファ達は当たり前のように思っている。
アルベルトがレナの寝室を飛び出してまで、ダビデを阻止する義務はない。
他のアルファ達ならば、放っておけと言っただろう。
現に館の主人も、ダビデの蛮行を黙認した。
クルム国ならではの文化と慣習を、客に厳しく指導するべき立場でも、ダビデに規律を説き伏せるのは、命に関わる暴挙に近いと恐れたのだろう。
それなのに、アルベルトだけは違っていた。
サリオン自身と同じように、テオクウィントス帝国に侵略されて捕虜になり、奴隷として連行され、下男にされた男達がホッと息を吐きながら、それぞれの胸に手を当てた。
同じ立場の者として、真摯に案じてくれたのか。
テオクウィントス帝国のアルファの、しかも皇帝の従弟だ。奴隷の身では逆らえない。ただ胸を痛めることしかできない自分達の無力さに、歯噛みしていてくれたような顔つきだ。
「良かったな。陛下が駆けつけて下さって」
「……うん」
サリオンは弱々しく頷いた。
自分を案じてくれる、誰かがいること。
それが全く頭になかった。いじけた自分を猛省する。
しかも今夜こそレナと寝ようとしていたアルベルトが、その直前で部屋を出て、本館から南館まで来てくれた。
おそらく昂ぶりかけていたはずの男の本能、欲望よりも、公娼の下働きのオメガの自分の身の安全を優先し、野犬のようなダビデの盾になってくれた。
この国では、アルファ階層の人間の思惑ひとつで、奴隷のオメガはオモチャにされる。
円型競技場で猛獣と戦わされたり、饗宴の余興のうちとして、宴席の招待客に輪姦されても、上流階層の人間は、不道徳だと非難はしない。
むしろ彼等をそうして興奮させ、楽しませるのも奴隷のオメガの務めだと、アルファ達は当たり前のように思っている。
アルベルトがレナの寝室を飛び出してまで、ダビデを阻止する義務はない。
他のアルファ達ならば、放っておけと言っただろう。
現に館の主人も、ダビデの蛮行を黙認した。
クルム国ならではの文化と慣習を、客に厳しく指導するべき立場でも、ダビデに規律を説き伏せるのは、命に関わる暴挙に近いと恐れたのだろう。
それなのに、アルベルトだけは違っていた。
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