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第二章 死がふたりを分かつとも
第16話 最善で最良
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また、アルベルトは宴席には指名したレナ以外は同席させない。
招待客を大勢招いて騒ぐ酒宴は好まなかったが、自分一人の宴席のために、用意させる料理は決まって十五名分。
饗宴に参加する一般的な人数に、相当する量を注文する。
自分一人だからといって、一人分しか準備させないケチな真似はしなかった。
通常、饗宴での上流階層の者達は、満腹になると、クジャクの羽根で喉を引っ掻き、嘔吐する。
胃の中を全て空にしてから、また食べる。
それを何時間でもくり返す。
だから今夜は十五人分の宴席用の料理が、ほとんど食べ残されたと言っても良い。
館で働く者達で等しく分け合い、食らっても、有り余るほどの量だった。
常に腹を空かせている、下働きの者達は、皇帝からの思いがけない計らいに感激し、肩を互いに叩き合う。
賢帝を讃える言葉を口々に叫んでいる。
サリオンは、歓喜に湧き立つ厨房を、静かに眺めて立ち去った。
厨房を出た後、館の中央に造られた吹き抜けの中庭まで、腑抜けのように歩いて来た。
美しい 漆喰彫刻が刻まれた列柱に、四方を囲まれた庭園には、大小合わせて三か所噴水がある。月明かりを浴びながら、水飛沫を上げている。
噴水に至るまでの小路の木々や花壇から、香草や花々の甘い香りが、そこはかとなく漂った。
回廊を離れたサリオンは、中庭の小路を通り抜け、噴水の縁に腰かけた。
ささくれ立った心には、川のせせらぎを思わせる噴水の音が、心地良い。
庭の木々や、列柱の影を石畳みに伸ばしている銀の月を見上げた拍子に、レナがいる居室の窓まで視界に入り、咄嗟にサリオンは横を向く。
あの居室の豪奢な造りの寝室で、レナとアルベルトがもつれ合い、この瞬間にも情交しているはずだった。
レナのあの、ほっそりとした白い肢体をアルベルトの逞しい剛直が貫いて、レナを甲高く喘がせる。
身悶えさせて泣き喚かせ、レナが背を弓なりに反らした刹那、放埓するのだ。
熱くたぎった精液を、一滴残らずレナの身体に注ぎ込み、アルベルトもまた法悦の声を放つのだろう。
一途に皇帝を恋い慕う、いじらしいレナを固く抱き締め、甘い声音で睦言を囁いてやっているのだろうか。濃艶と。
恥じらうレナに目を細め、髪を撫でているのだろう。
サリオンは、ひんやりとした噴水の水に手を浸し、水面に映る自分の顔をかき消した。
テオクウィントス帝国を統治する、若き皇帝は賢帝だ。
子供を孕むことすらできないオメガの奴隷に、いつまでも、かまけているほど暇ではないし、猶予もない。
レナの腰を抱きながら、居室の奥の寝室に向かっていったアルベルトの全身から、『遊びは終わり』なのだという、声なき声が聞こえてきた。
サリオンは、噴水に浸した右手で水を掬い上げ、腹立たしさを虚空に向かって撒き散らす。
放物線を描いて路面や花壇に落ちた水滴が、草花の葉で弾き返され、雨粒のような音を立てていた。
始めから何もかもわかっていた。
娼館内での色事は、客にとっては娯楽にすぎない。そのために払う金なのだ。
だからこそ、アルベルトが何を言おうと、何をしようと、取り合わなかった。
本気になんてしなかった。
アルベルトも、公娼の禁忌を侵して廻しを口説き落とすという、目新しい遊びに費やす時間と金が、そろそろ惜しくなってきた。
公娼では昼三の最高位であり、今や帝国一の美少年だと謳われるレナを相手に、ようやく世継ぎを作りにかかった。それだけの話なのだろう。
誰もが何も間違わなかった。
すべてが正しい判断だ。
これがレナにもアルベルトにも自分にも、最善で最良の選択だ。
招待客を大勢招いて騒ぐ酒宴は好まなかったが、自分一人の宴席のために、用意させる料理は決まって十五名分。
饗宴に参加する一般的な人数に、相当する量を注文する。
自分一人だからといって、一人分しか準備させないケチな真似はしなかった。
通常、饗宴での上流階層の者達は、満腹になると、クジャクの羽根で喉を引っ掻き、嘔吐する。
胃の中を全て空にしてから、また食べる。
それを何時間でもくり返す。
だから今夜は十五人分の宴席用の料理が、ほとんど食べ残されたと言っても良い。
館で働く者達で等しく分け合い、食らっても、有り余るほどの量だった。
常に腹を空かせている、下働きの者達は、皇帝からの思いがけない計らいに感激し、肩を互いに叩き合う。
賢帝を讃える言葉を口々に叫んでいる。
サリオンは、歓喜に湧き立つ厨房を、静かに眺めて立ち去った。
厨房を出た後、館の中央に造られた吹き抜けの中庭まで、腑抜けのように歩いて来た。
美しい 漆喰彫刻が刻まれた列柱に、四方を囲まれた庭園には、大小合わせて三か所噴水がある。月明かりを浴びながら、水飛沫を上げている。
噴水に至るまでの小路の木々や花壇から、香草や花々の甘い香りが、そこはかとなく漂った。
回廊を離れたサリオンは、中庭の小路を通り抜け、噴水の縁に腰かけた。
ささくれ立った心には、川のせせらぎを思わせる噴水の音が、心地良い。
庭の木々や、列柱の影を石畳みに伸ばしている銀の月を見上げた拍子に、レナがいる居室の窓まで視界に入り、咄嗟にサリオンは横を向く。
あの居室の豪奢な造りの寝室で、レナとアルベルトがもつれ合い、この瞬間にも情交しているはずだった。
レナのあの、ほっそりとした白い肢体をアルベルトの逞しい剛直が貫いて、レナを甲高く喘がせる。
身悶えさせて泣き喚かせ、レナが背を弓なりに反らした刹那、放埓するのだ。
熱くたぎった精液を、一滴残らずレナの身体に注ぎ込み、アルベルトもまた法悦の声を放つのだろう。
一途に皇帝を恋い慕う、いじらしいレナを固く抱き締め、甘い声音で睦言を囁いてやっているのだろうか。濃艶と。
恥じらうレナに目を細め、髪を撫でているのだろう。
サリオンは、ひんやりとした噴水の水に手を浸し、水面に映る自分の顔をかき消した。
テオクウィントス帝国を統治する、若き皇帝は賢帝だ。
子供を孕むことすらできないオメガの奴隷に、いつまでも、かまけているほど暇ではないし、猶予もない。
レナの腰を抱きながら、居室の奥の寝室に向かっていったアルベルトの全身から、『遊びは終わり』なのだという、声なき声が聞こえてきた。
サリオンは、噴水に浸した右手で水を掬い上げ、腹立たしさを虚空に向かって撒き散らす。
放物線を描いて路面や花壇に落ちた水滴が、草花の葉で弾き返され、雨粒のような音を立てていた。
始めから何もかもわかっていた。
娼館内での色事は、客にとっては娯楽にすぎない。そのために払う金なのだ。
だからこそ、アルベルトが何を言おうと、何をしようと、取り合わなかった。
本気になんてしなかった。
アルベルトも、公娼の禁忌を侵して廻しを口説き落とすという、目新しい遊びに費やす時間と金が、そろそろ惜しくなってきた。
公娼では昼三の最高位であり、今や帝国一の美少年だと謳われるレナを相手に、ようやく世継ぎを作りにかかった。それだけの話なのだろう。
誰もが何も間違わなかった。
すべてが正しい判断だ。
これがレナにもアルベルトにも自分にも、最善で最良の選択だ。
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