皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第一章 必ず勝てる賭け

第22話 生じる格差

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「陛下に馬車に乗せてもらったの?」

 レナは詰問口調で訊ねてきた。押し隠そうとしていても、どこかしら拗すねたような、いじけたような言い方だ。

「サリオンは館の狭い内湯が嫌いだから、毎日公用浴場に行ってるけど。帰り道で会ったとか?」
「いや、俺はその後、いつもの食堂で飯食ってたんだけど。アルベルトが急に来て……」
「いつものって、まさかあの貧民窟の?」

 驚愕して顔を上げたレナからサリオンは、視線を逸らして小声で答える。

「……うん」
「……そう」

 力なく呟いて、そのままレナは黙り込む。
 上目使いに盗み見ると、可憐な美貌に、嫉妬の色が浮かんでいた。


「それで、店もだし。店の周りも大騒ぎになったんだ。俺が帰るって言ったら、アルベルトが馬車で送るって言い出して」
「奴隷は馬車には乗れないのに?」
「それは、そうだけど。……俺もどさくさに紛れて何をされるか、わからなかったし、恐かったし……。仕方がないから、送ってもらった。それだけだ」

「それだけだ……って。あんな汚い裏路地でも、サリオンがいるから行ったんだよね? ずっと前から、陛下はサリオンがよく行く店で、自分も食事をしてみたいって、おっしゃってたから。そうだよね?」

「そうじゃなくて……。俺の話で貧民窟に、興味が湧いただけだったんだろ。贅沢に飽きた皇帝陛下の遊びだよ」

 追い込めようとするようなレナの言葉が、トゲのようにチクチクと胸を刺す。

 それでもレナには、ありのままを話したい。嘘をつくのは嫌だった。どんなになだめすかしても、しょげ返ったままの背中に優しく手を添え、囁いた。


「とにかく、そんな濡れた髪で玄関先に立ってたら身体が冷える。部屋に戻れよ。寝つけないなら温かい飲み物でも用意する」

 浮かない顔のレナの背中を押すようにして促した。
 レナ一人だけでなく、高級男娼の身の周りの世話をしたり機嫌を取るのも、公娼奴隷の『廻し』の仕事のひとつでもある。

 けれどもレナには、仕事でしているつもりはない。


 館の二階の突き当りに、居室を持つレナに付き添い、部屋のドアを開けてやる。
 自分も故郷のクルム国で、高級男娼として売られていた頃、世話係の下男にさせていたことを、ここではレナにするのが役目だ。

 テオクウィントス帝国に侵略されたクルム国で捕虜となり、この公娼に強制連行された同じ奴隷のオメガでも、レナは子供が産めるだけでなく、若さと美貌を兼ね備えた最上級の男娼だ。

 片や自分は子供が産めない、役立たずのオメガにすぎない。
 ここでの立場や扱いは、天と地ほどの差があった。

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