皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

文字の大きさ
上 下
25 / 297
第二章 死がふたりを分かつとも

第18話 まるで皇妃にかしづくように

しおりを挟む
 夜も更け、客を取った男娼達は床入りしている時刻だった。

 公娼の表玄関のランプも消され、館の窓という窓も、 鎧戸よろいどで固く塞がれ、しんと静まり返っている。
 馬車は公娼の裏口の前に横づけにされ、停止した。

 皇帝が乗り降りする時は、御者が扉を開け閉めするのだが、下車をするのは奴隷のオメガ。

 御者の男は、当然のように御者台にかけたまま、馬の 手綱たづな手綱を離さない。馬車に同乗している護衛の兵士も、彫像か何かのように微動だにしなかった。


 つまり、下りたいのなら自分で戸を開け、勝手に下りろと言いたいのだ。

 サリオンは冷笑しながら座席から下り、馬車の扉の内ノブに手を伸ばす。すると、アルベルトがサリオンより僅かに先にノブを握って押し開けた。


「アルベルト?」

 サリオンは小首を傾げて問いかけた。


 営業を終えた公娼が、表玄関を閉じてしまう『 大引おおびけ』時刻は過ぎている。
 大引の後は、その日の正午から始まる昼営業まで、客は出入りを許されない。

 アルベルトは先に馬車を無言で下りたが、終業後の娼館に、何の用があるのだろう。

 サリオンは眉をひそめて前屈みになり、自分で馬車から下りかけた。
 すると、先に下りたアルベルトに手を伸ばされて右手を取られ、 うやうやしく馬車からゆっくり下ろされた。


「段差があるぞ? 足元に気をつけろ」


 周囲は御者席の脇に取りつけられたランプが、石畳みの路地を仄暗く照らしているだけ。

 横づけにされたとはいえ、箱型の馬車の昇降階段、そして路面との段差もかなりある。
 馬車に慣れない奴隷のオメガが、下りる間際に転倒したりしないよう、手を貸すつもりだったらしい。まるで皇妃にかしずくように。

「今夜は迷惑をかけて、すまなかった」

 間近に迫った亜麻色の瞳が、許しを請うかのように揺れていた。

 そんな瞳で射抜かれて、どぎまぎせずにはいられない。
 サリオンは、ふいと顔を背けることしかできずにいた。許すとも、許さないとも答えられない。
 応えない。

「今日の公務を終えたら、今夜また来る。いつもの広間で饗宴の支度をするよう、館の主人に伝えてくれ」
「はぁ?」

 アルベルトの言葉尻を奪うようにして、サリオンは語尾を跳ね上げた。

「今日も来るのか? これで一体何日目だ? ほとんど毎晩じゃないのかよ」

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

処理中です...