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第一章 必ず勝てる賭け

第6話 今のところは分が悪い

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 サリオンの肩口から、男がぬっと顔を出す。

 仰け反って驚いたサリオンと目を合わせ、肉感的な唇を横に引くようにして男が笑う。
 大柄の体躯たいくを折り曲げた男は、サリオンに顔を寄せ、挨拶とばかりに頬に短くキスまでした。


 精悍せいかんな浅黒い肌に、亜麻色のゆるい巻き毛の短髪。
 瞳も明るい亜麻色だ。
 彫像のように鼻筋が通り、肉厚の唇は男盛りの滴るような色香を湛たたえている。オメガではないことは確かだが、ベータでもないことは明白だ。


 オメガやベータの着衣ちゃくいは、麻製の貫頭衣かんとういを被り、腰紐で結わえる簡素なものだ。
 だが、この男の貫頭衣の襟元や半袖の袖口には、金糸や銀糸りの刺繍がほどこされている。

 また、一枚の長布を左肩から右脇の下にかけて、幾層にもたるみを持たせた男のトガは、その光沢からして絹だとわかる。

 トガの着用を許されるのはベータの富裕層か、王族や貴族、軍人などのアルファ階層。
 そして、この男のトガにはアルファ階層の証でもある朱色と金糸の縁取りがある。


 サリオンを囲んたオメガやベータの貧民達は、一瞬にして顔色を変え、各々椅子を引いて立ち上がる。
 輝くような美貌の男の背後を固める護衛兵が、殺気に近い睨みを効かせているからではなく、貧民窟の少年に、相好《そうごう》を崩す男に慄き、退いた。

 そして当のサリオンも、男が急に現れて、少なからず動揺した。
 驚きはしたが、それだけだ。
 いきなり肩を抱かれてキスをされても、屈強な護衛兵を振り向いても、サリオンは口をへの字に折り曲げ、兵士も眼光鋭く威嚇いかくする。


「初めから勝てるとわかっているくせに、賭けなんぞふっかけるのは不公平だな。良くないぞ?」

 こぼれるような情愛を満面に輝かせ、男はサリオンをたしなめる。

「よく言うよ。あんただって、ダビデに賭けてたんだろう? 自分の方が不利だとわかってるくせに」
「どちらが早く子供をオメガに生ませることができるかどうかに賭けるなら、俺の方が分が悪い。どちらに賭けるか問われたら、当然ダビデ提督だ」
「そうだろうな」
「ただし、『今のところは』だ」


 男は不敵な笑みを浮かべたまま、『今のところは』を、強調した。
 途端にサリオンの眉間に皺が寄り、肩を抱いた男の腹を肘でグイと押し退ける。


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