ぬしに会わねば真の闇

手塚エマ

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花も実もない枯れ木の枝に、とまる鳥こそしんの鳥

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  岩崎千華いわさきちかは先月の八月三日に誕生日を迎え、二十四歳になったばかりだ。

 今年の秋が、人生最後のおわらになる。

 おわらは富山県の山深い 八尾やつお地区でのみ、受け継がれてきた民謡行事だ。

 催されるのは、毎年九月一日の夕暮れ時から深夜まで。
 二日目も同様に、宵闇から夜更けまで。
 最後の三日目だけは日が落ちてから日付を越して、夜明け前までと、されている。

 宵闇の頃。

  男衆おとこしは黒の 法被はっぴと 股引ももひきと 地下足袋じかたびで。
  女衆おんなしは、浴衣と草履だ。

 そして、最も特徴的なのは、男衆も女衆も、三日月型の編み笠を 目深まぶかに被り、顔を見せない。
 その情緒豊かな装いでも知られている。


 盆の当日、男衆女衆それぞれ縦一列に平行して隊を組み、盆踊りのように町内の路地を練り歩く。

 その踊り手の後を、三味、胡弓こきゅうを奏でる男女の地方じかたや、甲高い節回しの小唄を切々と聴かせる囃子方はやしがたらが続いている。

 石畳みの路地は、軽自動車が一台しか走れないほど幅が狭く、山間やまあいなので坂も多い。

 道の両脇には、格子窓こうしまどの木造家屋が延々連なり、藩政時代を偲ばせる、
 蝋燭に火をつけられた石灯籠も、道添いに点在する。
 越中の山を越え、この街道を行き来した旅人が、脳裏に浮かんでくるような、風情ある街並だ。


 八尾やつおでは、立春から数えて二百十日にあたる日は野分のわき、つまり、台風の厄日と恐れられていた為に、その風を鎮め、秋の豊作を神に祈る祭りとして始められた由来から、おわら風の盆とも呼ばれている。

 
 その、おわらの踊り手は、八尾地区の住人と定められているのだが、男女ともに二十三、四で引退するのが慣例だ。
 二十五にもなると、三味線や胡弓を紐で斜めかけして演奏する、地方じかたに回る。
 伴奏者として、踊り手達の後につく。
 傘を被ることもない。

 踊り手だけが傘を被り、表舞台を下りた年増はさらされる。

 残酷だなと、千華は常々思っていた。

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