たましいの救済を求めて

手塚エマ

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第十二章 告白 

第十四話 支え合う

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 その日の柚季の面談は、そこまでで終了した。
 柚季は泣き濡れた顔を上げ、テーブルの時計を見るなり、「……先生。時間」と、呟いた。
 午後十一時五十七分。カウンセリングの六十分の感覚を、体で覚えているようだ。

 麻子はスチール棚からティッシュケースとゴミ箱を取って来た。
 面談が終了となると、右半身の痛みが急激に増してきた。どうしても右足を引きずる格好になったのだが、隠そうとはしなかった。それが自然だと判断した。

「良かったら、使って」
「……ありがとうございます」

 テーブルに戻る時、柚季は眉をひそめ、罪悪感にかられる顔つきで、引きずる麻子の足を凝視した。柚季の中で罪悪感が生じていた。自分の行いにより、起きた結果に対する呵責の念。
 それは人を人たらしめる感情だ。

 目蓋を腫らした柚季がティッシュをまとめて引き抜いた。
 豪快に音をさせて洟をかむ。主人格の羽藤とは真逆のかみ方が愛らしい。場違いな感情を抱きつつ、涙を止まらせた柚季と面接室のドアまで歩いた。
 
「来週の同じ時間に来れますか?」

 ドアを開け、薄暗い廊下に柚季をいざなった。

「はい」
「それじゃ、来週の同じ時間で待っています」
「先生」

 電気が消された待合室に向かいかけ、足を止めた柚季が振り返る。麻子の心臓がドキリと強く拍動した。次の面談に繋がるセンテンスを、面談の終了間際に語られるケースが多々あった。

「先生のカウンセリング。俺は無駄じゃないと思ってるから」

 柚季に鼻声で告げられて、麻子は瞠目する。一瞬、呼吸が止まっていた。正面玄関を押し開けて、階段で降りる柚季の背中を麻子は見送る。
 心臓を掴まれたみたいに目頭から、ひと粒の涙がこぼれた。

 柚季のカウンセリングが深まるたびに、自分の無力を思い知る。
 クライアントがそうであるように、カウンセラーもクライアントの支えを受ける。
 以前なら、それを良しとはしなかった。
 カウンセラーがぐらつけば、クライアントも動揺すると思っていた。

 麻子はテーブルに残されたティッシュボックスを、スチール棚の定位置に戻す。脛を強打した右足を引きずる不格好な歩き方。
 ゴミ箱の中身は、事務室の給湯室のゴミ箱と一緒にする。
 麻子は第一面接室を出てから電気を消した。
 
 事務室に入り、電気をつける。給湯室のゴミ箱の上で、持ってきたゴミ箱をひっくり返した。くしゃくしゃにされたティッシュの山が、こんもり出来る。

 そういえば、二週間以上巻かれたままだった包帯を、柚季は記念だと言い、欲しいとねだったことがある。
 成人男性に犯された、小学校低学年の男の子を、誰が手当てしたのだろう。
 次の礼拝に連行されるその時を、どんな気持ちで過ごしたのだろう。

 柚季の孤独と恐怖感が麻子の胸を砂塵のように吹き抜ける。

「面談、終わった?」

 駒井が院長室から事務室にやって来た。いつもの調子で訊ねられ、はいと答える。

「じゃあ、帰ろうか」
「はい」

 麻子がロッカーから私物を取り出し、コートを着るのを待っている。二人で一緒にビルを出て、それぞれの帰路につく。
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