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第一章 人を殺しているかもしれない
第九話 無痛症
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「はい。いいですよ。大丈夫です」
断ってきたものの、実母の死因を聞かれた時のような緊迫感は薄かった。
どちらかといえば、質問に答えることができなくて、申し訳ないといった顔つきだ。
その叔母も、彼の母の六歳違いの妹だ。
このクライアントの核になるのは、おそらく母親なのだろう。
「叔母様は、ご結婚は?」
「していません」
職業は何であれ、未婚の三十三歳で、高校生男子と暮らせる経済力があるのなら、看護師か医者か。
何かの専門職かもしれないと、麻子は思う。
社会的地位が高いとすると、心の病かもしれない自分との関係を伏せるため、羽藤が叔母について詳しく語らないもの頷ける。
心療内科や精神科に通う患者に対する偏見が、まだ根強く残っていることも、麻子自身否めない部分もあるからだ。
「では、何か持病のようなものはあります? アレルギーとか」
「アレルギーはないです。でも、無痛症です」
「無痛症? じゃあ、無汗症もありますか?」
無痛症は骨折して骨が肉から突き出ていても、虫垂炎になっても痛みを感じることがなく、気がつかないという神経障害の一種といわれている。
原因は解明されておらず、現在の医学では治療方法がないとされる難病だ。
また、無痛症患者の多くが、汗をかいて体温を調整することができないを無汗症を 併発することでも知られている。
「いえ、僕は無痛症だけです」
「汗は普通にかく?」
「はい」
麻子は言われた通り、質問用紙に書き込んだ。
だが、痛覚はないのに、発汗機能は正常というのは解せない気がした。
無痛症は何らかの要因で、温感と痛覚を脳に伝える感覚神経のアセチルコリン神経の消失によって発症する。
痛覚を消失したのに、温度を感知する神経だけが機能するとは考えにくい。
「……無痛症を発症したのは何歳頃ですか?」
麻子は羽藤の無痛症は遺伝的要素の強い先天性のものではなく、何らかのストレスによって自律神経がバランスを崩し、後天的に発生したのだろうと推測した。
案の定、「十歳……ぐらいだったと思います」という答えが返ってきた。
羽藤が父親と母親を相次いで亡くした年齢だ。
断ってきたものの、実母の死因を聞かれた時のような緊迫感は薄かった。
どちらかといえば、質問に答えることができなくて、申し訳ないといった顔つきだ。
その叔母も、彼の母の六歳違いの妹だ。
このクライアントの核になるのは、おそらく母親なのだろう。
「叔母様は、ご結婚は?」
「していません」
職業は何であれ、未婚の三十三歳で、高校生男子と暮らせる経済力があるのなら、看護師か医者か。
何かの専門職かもしれないと、麻子は思う。
社会的地位が高いとすると、心の病かもしれない自分との関係を伏せるため、羽藤が叔母について詳しく語らないもの頷ける。
心療内科や精神科に通う患者に対する偏見が、まだ根強く残っていることも、麻子自身否めない部分もあるからだ。
「では、何か持病のようなものはあります? アレルギーとか」
「アレルギーはないです。でも、無痛症です」
「無痛症? じゃあ、無汗症もありますか?」
無痛症は骨折して骨が肉から突き出ていても、虫垂炎になっても痛みを感じることがなく、気がつかないという神経障害の一種といわれている。
原因は解明されておらず、現在の医学では治療方法がないとされる難病だ。
また、無痛症患者の多くが、汗をかいて体温を調整することができないを無汗症を 併発することでも知られている。
「いえ、僕は無痛症だけです」
「汗は普通にかく?」
「はい」
麻子は言われた通り、質問用紙に書き込んだ。
だが、痛覚はないのに、発汗機能は正常というのは解せない気がした。
無痛症は何らかの要因で、温感と痛覚を脳に伝える感覚神経のアセチルコリン神経の消失によって発症する。
痛覚を消失したのに、温度を感知する神経だけが機能するとは考えにくい。
「……無痛症を発症したのは何歳頃ですか?」
麻子は羽藤の無痛症は遺伝的要素の強い先天性のものではなく、何らかのストレスによって自律神経がバランスを崩し、後天的に発生したのだろうと推測した。
案の定、「十歳……ぐらいだったと思います」という答えが返ってきた。
羽藤が父親と母親を相次いで亡くした年齢だ。
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