死か降伏かー新選組壬生の狼ー

手塚エマ

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第三章 LOSE-LOSE

第二十話 試し撃ち

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 晴れ渡る秋空に、鰯雲いわしぐもが流れている。

 下草を踏み分けながら、沖田は一人で廃寺に分け入り、崩れた連塀に洋式銃用の的を貼りつけた。
 そのまま的から後退し、腕の長さほどの短距離で銃を構え、腰を落とし発砲する。

 にも関わらず、まったくといっていいほど当たらなかった。
 

 この距離ですら的に入ればまだマシだ。
 これまでさんざん撃ってきた弾の八割が、石塀にめり込み、絶えている。

 そもそも沖田は撃った時の銃身の反動を、どう制御すればいいのかが、わからない。
 ぶれないようにと、腕に力を込めるほと、銃身が上下に揺れるのだ。
 

「本当に命中するように出来てるんだろうか。これは」
 
 お手上げとばかりに沖田はぼやいた。

 それでも千尋から譲り受けたピストールが、不良品であるはずがない。

 己の鼻先に銃身を向け、いっそ不良品であって欲しいと願った刹那、沖田の背後で激烈な破裂音が鳴り渡り、夕空に野鳥の群れが飛び立った。
 同時に沖田の耳の際を熱風がかすめ、正面の的の中央の黒円に、風穴がひとつ開けられた。


 沖田は飛びすさるように反転し、腰の刀の鰐口を切る。
 しかし、誰何すいかもせずに抜刀ばっとうしながら振り向くと、硝煙しょうえんをたなびかせた銃口を、千尋がこちらにまっすぐ向けていた。


「千尋さん……」
 
 沖田は驚愕に目を見張る。
 枯野と化した廃寺に、二発目の撃鉄を起こす音がする。


「あなたは、やはり……」
 
 愁傷しゅうしょうに詫びを入れたりピストールを譲ったり。
 なつく素振りをみせながら、こちらの油断を誘っていたのか。

 やはり新撰組とはあいいれない、討幕派だということなのか。
 刀を下段に構えた沖田は腰を落とし、そっと右足を前に出す。


「およしなさい」
 
 千尋は右から左へ銃を持ち変え、人差し指を引き金に掛ける。
 
「この間合いなら、私はあなたが一歩踏み出す前に、撃っています」
 
 
 千尋の銃口は沖田の眉間を捉えている。
 剣の申し子。
 剣聖とまで謳われた沖田の脳裏に、死の一文字が閃いた。

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