49 / 96
第二章 綾なす姦計
第十七話 丸腰で
しおりを挟む
「沖田がですか?」
反復する千尋に花村は険しい顔で頷いた。
阿吽の呼吸で先導する花村に続いて廊下を進み、 沓脱ぎ石で草履を履くと、暖簾をはぐる。
すると、二本ざしの沖田が土間で折り目正しく一礼した。
また、沖田の正面では腰の刀に手をかけた佑輔が、門番のように仁王立ちして陣を張る。
花村は穏便に事を済ませるために、佑輔の耳には入れないつもりでいたのだろう。
だが、来訪した沖田と店を離れる佑輔が、折悪しく出くわしたのか、立ちはだかる佑輔の向こう側から顔を覗かせ、会釈した。
「いきなり来てしまい、申し訳ございません」
早朝から歯切れのいい沖田の声が土間に広がる。
千尋は肩越しに振り向く佑輔を、顎でしゃくって脇に寄せ、沖田の正面に進み出る。
「構いませんよ。何の御用向きでしょう」
「折り入って千尋さんにお話があります」
「私にですか?」
「失礼します」
沖田は腰の大小を引き抜いて、目の前の佑輔に押しつけた。
まるで遊郭の 妓楼に上がるように。
「こんな小芝居が信用するとお思いですか? 油断するなとおっしゃったのは、あなたなんです」
佑輔は大小を沖田に押し返す。
遊郭での遊興は、身分によらない文化でもある。
そのため階級を象徴する大小は玄関先で楼主に預け、丸腰になって初めて登楼を許される。
つまり、切った張ったの争い事を起こさないという表明だ。
「私も同席致します。よろしいですね?」
「いいからお前は向こうへ行ってろ。沖田は俺と話しに来たんだ」
と、千尋が聞こえよがしに嘆息し、いつものように佑輔の腕を引いた時、沖田はひんやりと冷めた口調で要請した。
「いいえ。久藤様にも同席をして頂きます」
反復する千尋に花村は険しい顔で頷いた。
阿吽の呼吸で先導する花村に続いて廊下を進み、 沓脱ぎ石で草履を履くと、暖簾をはぐる。
すると、二本ざしの沖田が土間で折り目正しく一礼した。
また、沖田の正面では腰の刀に手をかけた佑輔が、門番のように仁王立ちして陣を張る。
花村は穏便に事を済ませるために、佑輔の耳には入れないつもりでいたのだろう。
だが、来訪した沖田と店を離れる佑輔が、折悪しく出くわしたのか、立ちはだかる佑輔の向こう側から顔を覗かせ、会釈した。
「いきなり来てしまい、申し訳ございません」
早朝から歯切れのいい沖田の声が土間に広がる。
千尋は肩越しに振り向く佑輔を、顎でしゃくって脇に寄せ、沖田の正面に進み出る。
「構いませんよ。何の御用向きでしょう」
「折り入って千尋さんにお話があります」
「私にですか?」
「失礼します」
沖田は腰の大小を引き抜いて、目の前の佑輔に押しつけた。
まるで遊郭の 妓楼に上がるように。
「こんな小芝居が信用するとお思いですか? 油断するなとおっしゃったのは、あなたなんです」
佑輔は大小を沖田に押し返す。
遊郭での遊興は、身分によらない文化でもある。
そのため階級を象徴する大小は玄関先で楼主に預け、丸腰になって初めて登楼を許される。
つまり、切った張ったの争い事を起こさないという表明だ。
「私も同席致します。よろしいですね?」
「いいからお前は向こうへ行ってろ。沖田は俺と話しに来たんだ」
と、千尋が聞こえよがしに嘆息し、いつものように佑輔の腕を引いた時、沖田はひんやりと冷めた口調で要請した。
「いいえ。久藤様にも同席をして頂きます」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鷹の翼
那月
歴史・時代
時は江戸時代幕末。
新選組を目の敵にする、というほどでもないが日頃から敵対する1つの組織があった。
鷹の翼
これは、幕末を戦い抜いた新選組の史実とは全く関係ない鷹の翼との日々。
鷹の翼の日常。日課となっている嫌がらせ、思い出したかのようにやって来る不定期な新選組の奇襲、アホな理由で勃発する喧嘩騒動、町の騒ぎへの介入、それから恋愛事情。
そんな毎日を見届けた、とある少女のお話。
少女が鷹の翼の門扉を、めっちゃ叩いたその日から日常は一変。
新選組の屯所への侵入は失敗。鷹の翼に曲者疑惑。崩れる家族。鷹の翼崩壊の危機。そして――
複雑な秘密を抱え隠す少女は、鷹の翼で何を見た?
なお、本当に史実とは別次元の話なので容姿、性格、年齢、話の流れ等は完全オリジナルなのでそこはご了承ください。
よろしくお願いします。
黄金の檻の高貴な囚人
せりもも
歴史・時代
短編集。ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを囲む人々の、群像劇。
ナポレオンと、敗戦国オーストリアの皇女マリー・ルイーゼの間に生まれた、少年。彼は、父ナポレオンが没落すると、母の実家であるハプスブルク宮廷に引き取られた。やがて、母とも引き離され、一人、ウィーンに幽閉される。
仇敵ナポレオンの息子(だが彼は、オーストリア皇帝の孫だった)に戸惑う、周囲の人々。父への敵意から、懸命に自我を守ろうとする、幼いフランツ。しかしオーストリアには、敵ばかりではなかった……。
ナポレオンの絶頂期から、ウィーン3月革命までを描く。
※カクヨムさんで完結している「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」のスピンオフ短編集です
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
※星海社さんの座談会(2023.冬)で取り上げて頂いた作品は、こちらではありません。本編に含まれるミステリのひとつを抽出してまとめたもので、公開はしていません
https://sai-zen-sen.jp/works/extras/sfa037/01/01.html
※断りのない画像は、全て、wikiからのパブリック・ドメイン作品です

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
白薔薇黒薔薇
平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる