死か降伏かー新選組壬生の狼ー

手塚エマ

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第二章 綾なす姦計

第十七話 丸腰で

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「沖田がですか?」
 
 反復する千尋に花村は険しい顔で頷いた。

  阿吽あうんの呼吸で先導する花村に続いて廊下を進み、 くつ脱ぎ石で草履を履くと、暖簾をはぐる。

 すると、二本ざしの沖田が土間で折り目正しく一礼した。
 また、沖田の正面では腰の刀に手をかけた佑輔が、門番のように仁王立ちして陣を張る。


 花村は穏便に事を済ませるために、佑輔の耳には入れないつもりでいたのだろう。

 だが、来訪した沖田と店を離れる佑輔が、折悪しく出くわしたのか、立ちはだかる佑輔の向こう側から顔を覗かせ、会釈した。


「いきなり来てしまい、申し訳ございません」
 
 早朝から歯切れのいい沖田の声が土間に広がる。
 千尋は肩越しに振り向く佑輔を、顎でしゃくって脇に寄せ、沖田の正面に進み出る。


「構いませんよ。何の御用向きでしょう」
「折り入って千尋さんにお話があります」
「私にですか?」
「失礼します」

 沖田は腰の大小を引き抜いて、目の前の佑輔に押しつけた。
 まるで遊郭の 妓楼ぎろうに上がるように。


「こんな小芝居が信用するとお思いですか? 油断するなとおっしゃったのは、あなたなんです」

 佑輔は大小を沖田に押し返す。

 遊郭での遊興は、身分によらない文化でもある。

 そのため階級を象徴する大小は玄関先で楼主に預け、丸腰になって初めて登楼を許される。
 つまり、切った張ったの争い事を起こさないという表明だ。


「私も同席致します。よろしいですね?」
「いいからお前は向こうへ行ってろ。沖田は俺と話しに来たんだ」
 
 と、千尋が聞こえよがしに嘆息し、いつものように佑輔の腕を引いた時、沖田はひんやりと冷めた口調で要請した。

「いいえ。久藤様にも同席をして頂きます」

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