死か降伏かー新選組壬生の狼ー

手塚エマ

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第一章 OBEY

第十一話 どこにでも行く

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「どうか、お願い致します。蔦屋の主人は、私が兄とも師とも慕う者。本間様の御力で、私も供にお連れ下さい」
「ですが、久藤様に御同行願っても、蔦屋の詮議は行わなければなりません。御触おふれによりけり、蔦屋を処罰せざるを得ない場合も、あるのですよ?」
「もちろんです。私とて、あくまで御上の詮議に従う所存でございます」

 なだめすかそうと試みる本間の言葉尻を奪うように、少年がすかさず言い返す。
 やがて本間も根負けしたのか、高貴な身分の若君に勝ち目はないと判断したのか、肩で深い息を吐く。

「……仕方がございません。あなた様が、そこまでおっしゃるのなら」
「やめろ! 佑輔ゆうすけには何の咎もない……っ!」


 すると、千尋という名の蔦屋の主人が、金切声を張りあげる。
 直後に下引き達に押さえ込まれ、ぬかるむ路地に無理やり膝を付かされた。

 そうして息を喘がせる千尋を振り向き、若君は冷笑しながら反論する。


「あなただけが罪人つみびとで、私には咎はないとは言わせません。あなたが行こうとするのなら、必ず私も参ります」
「どこへ行くのか、わかって言っているんだろうな」
「当たり前じゃないですか。壬生浪士組での詮議が、牢屋に変わるだけですよ」

 口調に棘を含ませながらも、蔦屋の主人を愛しむように双眸を細める。 


 御三家水戸藩の附家老久藤家の若君と、しがない呉服屋。
  
 本来ならば同席はもとより、会話ができる相手ですらない。

 久藤佑輔は、当惑気味の顔をした、蔦屋を伏し目にしながら一笑したのち、ぬかるんだ路地に正座をさせられ、後ろ手に縛られた蔦屋の前に進み出る。
 
 と同時に、縄をかけた下引きが、気圧されるように後ずさり、久藤と蔦屋を遠巻きにして息を呑む。

「千尋さんの縄を今すぐ外せ」

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