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第六章 決壊

第一話 決壊

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「いきさつを全部ちゃんと話せ」
「待ってくれ。俺は今イグジストと」
「どうかしたのか?」

 優斗と揉み合う蓮の間にイグジストが怪訝そうに入ってきた。

「イグジスト」

 蓮は顔を硬くした。

「多分『森』の許しを受けていない奴がここにいる」
「え……っ」
「『森』の結界は破られた。パレードなんてやってる場合じゃない」

 漣は信じがたいといった顔のイグジストを叱咤した。優斗の手首を掴んで馬車に押し込み、最後にイグジストが乗りあげる。

「非常事態が起きた。残念だが予定のパレードは中止だ。宮殿に戻る」
「畏まりました」

 御者に告げると御者が馬の頭を反転させた。
 馬に鞭をくれ、引き返す皇帝に国民が一斉に声を出す。驚きと失望が罵声となって浴びせられたが、蒼白になったイグジストはビクともしなかった。

 優斗が自分の親友だから開かれた結界なのか。
 それとも外界の人間が自ずと開いた結界なのか。

 どちらにしても由々しき事態だ。

「俺はこの『森』に子供を産むための皇妃候補として結界を開かれ、伝説のバウラス帝国にいる。彼はこの国の皇帝だ」

 早馬車の中で蓮は優斗にいきさつを説明した。

「皇妃候補って、お前。この皇帝とかいうヤツの番《つがい》になるつもりなのか?」
「それは……」

 同席しているイグジストに目をやると、イグジストはどこかが痛むような目をして口元を引き結ぶ。まだ、そこまでの決心がついたわけではないからだ。
 皇妃になれば、唯一の親友とも縁を切らざるを得なくなる。

「入ることができたなら、出ることだって可能なはずだ。こんなおもちゃみたいな国でお前が犠牲になるなんて許さない」
「犠牲だと?」
 
 気色ばんだイグジストが身を起こす。しかし早馬の馬車の揺れでよろめいた。

「そうじゃないか。勝手にさらって漣の意思も気持ちも無視して番にしようだなんて」
「貴様はアルファか?」
「そうだ」
「アルファならオメガとも番になれる。そういう意味で貴様は憤慨しているようにも見えるが違うのか?」
「えっ?」

 驚きの声をあげた漣は優斗の横顔を凝視した。
 
「ああ、そうだ。漣の番は蓮にいちばん近い俺しかいない」
「優斗」

 何から何まで驚きの一言で、蓮は返す言葉を失った。結界を破ってまで追ってきてくれた優斗が番になりたがっている? そんな素振りは一度だって感じたことはない。
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