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第三章 アクティビティ
第六話 約束通り
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翌朝、蓮は部屋に差し込む朝日で目が醒めた。
胎児のように手足を曲げて、イグジストの腹側で片腕を乗せられた、抱き枕のような恰好だ。
「おはよう」
「……えっ……と」
「よく眠れたようだね」
まだ頭が回らずに呆けているだけの漣の頬を尻尾が撫でた。思わず「ひぃやいっ」という変な声が飛び出した。そうか。そういえば昨夜はイグジストの毛皮にくるまれて眠ったんだっけ。
これで、セーフティブランケットがなくてもイグジストがいさえすれば眠れることが証明された。彼自身も嬉しそうに、ふさふさの尻尾をパタパタさせながら漣を見る。
「朝食を用意させよう」
起き上がったイグジストは寝室のドアを閉けかけて、肩越しに不意に言う。
「私が声をかけるまでは寝室からは出ないでくれ。私は人の姿に戻った時は服は何も着ていない。居間に用意させた服を着るまで寝室にいて欲しい」
「そうなんだ。わかったよ」
「ありがとう。君も着替えをするといい」
イグジストは人から獣になる時は、真っ裸になってから獣になるらしい。
その逆もしかりということか。
蓮はキャリーケースから取り出した膝丈のハーフパンツとTシャツに着替えると、閉じられたままの赤いカーテンの方を見る。
朝日の光の明るさからして、かなり寝坊をしているはずだ。
蓮は置時計で確かめた。
朝の九時半。
企業であれば午前中のいちばん忙しい頃合いだ。
「イグジスト!」
「なんだ?」
ドア越しに声をかけると、のんきな返事が返ってきた。
「あんたの公務は? 午前中の一番忙しい時だろう? なのに」
自分の目が醒めるまで、ずっと待ってくれていた。
約束通り、どこにも行かずにいてくれた。
胸が詰まり、蓮は鼻の奥がツンとするような痛みを覚えた。だけど迷惑だけはかけられない。
「今日は公務は休みにしてある。心配いらない」
寝室のドアが開けられ、ブルーの生地にピンストライプのスリーピースのスーツ。濃紺のネクタイを締めたイグジストが晴れ晴れとして入ってきた。
胎児のように手足を曲げて、イグジストの腹側で片腕を乗せられた、抱き枕のような恰好だ。
「おはよう」
「……えっ……と」
「よく眠れたようだね」
まだ頭が回らずに呆けているだけの漣の頬を尻尾が撫でた。思わず「ひぃやいっ」という変な声が飛び出した。そうか。そういえば昨夜はイグジストの毛皮にくるまれて眠ったんだっけ。
これで、セーフティブランケットがなくてもイグジストがいさえすれば眠れることが証明された。彼自身も嬉しそうに、ふさふさの尻尾をパタパタさせながら漣を見る。
「朝食を用意させよう」
起き上がったイグジストは寝室のドアを閉けかけて、肩越しに不意に言う。
「私が声をかけるまでは寝室からは出ないでくれ。私は人の姿に戻った時は服は何も着ていない。居間に用意させた服を着るまで寝室にいて欲しい」
「そうなんだ。わかったよ」
「ありがとう。君も着替えをするといい」
イグジストは人から獣になる時は、真っ裸になってから獣になるらしい。
その逆もしかりということか。
蓮はキャリーケースから取り出した膝丈のハーフパンツとTシャツに着替えると、閉じられたままの赤いカーテンの方を見る。
朝日の光の明るさからして、かなり寝坊をしているはずだ。
蓮は置時計で確かめた。
朝の九時半。
企業であれば午前中のいちばん忙しい頃合いだ。
「イグジスト!」
「なんだ?」
ドア越しに声をかけると、のんきな返事が返ってきた。
「あんたの公務は? 午前中の一番忙しい時だろう? なのに」
自分の目が醒めるまで、ずっと待ってくれていた。
約束通り、どこにも行かずにいてくれた。
胸が詰まり、蓮は鼻の奥がツンとするような痛みを覚えた。だけど迷惑だけはかけられない。
「今日は公務は休みにしてある。心配いらない」
寝室のドアが開けられ、ブルーの生地にピンストライプのスリーピースのスーツ。濃紺のネクタイを締めたイグジストが晴れ晴れとして入ってきた。
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