14 / 48
第二章 三千年ぶりの快挙
第五話 俺の荷物
しおりを挟む
蓮はそのまま寝入りかけたが、不意に飛び起き、声を上げた。
「あーっ! 俺の荷物!」
カメラは首から下げていたため、所持品としてここにあるのだが、ホテルに置いてきたキャリーバッグやリュックがない。
「どうかしたのか?」
扉が閉じられる寸前に足を止めたイグジストが戻ってきた。
「俺の荷物はどうしたんだよ! それに宿泊費だってかかるのに!」
「チェックアウトは明日にしよう」
「誰がするんだ?」
「この森は、どうしても外に出なければならない理由があり、なおかつ『森』がゆるしたのなら表にでられる。明日になったらアマカにでも言いつけよう」
「ちょっと待て」
蓮は片手で額を抑えつつ、皇帝にもう一方の手のひらを向けた。
「それなら極端に言えば、あんたにだって理由があれば表に出られる訳じゃないのかよ」
「皇帝の地位にある者が表に出ることは禁じられている」
「それで千年もここでずっと?」
「ああ、そうだ」
自分の宿命に抗うことなく、すべてをありのままに受け入れているかのような微笑みが、急に侘しく思えてきた。
たとえオメガの男であってもイグジストがこんなにも歓待する理由が少しだけわかった気がした。
荷物の件が一件落着したとばかりに身を翻したイグジストに、蓮は再び声を上げた。
「待ってくれよ。おれにはアレがないと眠れないんだ」
必死に嘆願しながらも、こんな夜更けにホテルに行けるはずがない。絶望的な面持ちでベッドに座り込んだ蓮の所にイグジストが戻ってきた。
「『アレ』とは?」
訊ねられたが、蓮は苦虫を嚙み潰したみたいな顔で黙り込む。
理由を答えるぐらいなら、ひと晩ぐらいは寝つけなくてもいいかとすら思ったが、眠気はピークに達している。眠りたいのに寝つけないのは拷問だ。
「あーっ! 俺の荷物!」
カメラは首から下げていたため、所持品としてここにあるのだが、ホテルに置いてきたキャリーバッグやリュックがない。
「どうかしたのか?」
扉が閉じられる寸前に足を止めたイグジストが戻ってきた。
「俺の荷物はどうしたんだよ! それに宿泊費だってかかるのに!」
「チェックアウトは明日にしよう」
「誰がするんだ?」
「この森は、どうしても外に出なければならない理由があり、なおかつ『森』がゆるしたのなら表にでられる。明日になったらアマカにでも言いつけよう」
「ちょっと待て」
蓮は片手で額を抑えつつ、皇帝にもう一方の手のひらを向けた。
「それなら極端に言えば、あんたにだって理由があれば表に出られる訳じゃないのかよ」
「皇帝の地位にある者が表に出ることは禁じられている」
「それで千年もここでずっと?」
「ああ、そうだ」
自分の宿命に抗うことなく、すべてをありのままに受け入れているかのような微笑みが、急に侘しく思えてきた。
たとえオメガの男であってもイグジストがこんなにも歓待する理由が少しだけわかった気がした。
荷物の件が一件落着したとばかりに身を翻したイグジストに、蓮は再び声を上げた。
「待ってくれよ。おれにはアレがないと眠れないんだ」
必死に嘆願しながらも、こんな夜更けにホテルに行けるはずがない。絶望的な面持ちでベッドに座り込んだ蓮の所にイグジストが戻ってきた。
「『アレ』とは?」
訊ねられたが、蓮は苦虫を嚙み潰したみたいな顔で黙り込む。
理由を答えるぐらいなら、ひと晩ぐらいは寝つけなくてもいいかとすら思ったが、眠気はピークに達している。眠りたいのに寝つけないのは拷問だ。
12
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!
akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。
そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。
※コメディ寄りです。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる