20 / 24
それぞれの思惑
後宮妃賓
しおりを挟む
「・・・四夫人が推薦なさるなら、きっと陛下もお気に召すに違いないわ。陛下がこれで後宮にお通いくださるなら私にも、機会が・・・、っ。なんて!!言うと思ったの!!」
「ひ、姫さまっ」
がしゃんっと陶器の器が下へ落ちる。
無残に割れた茶器と、こぼれた中身が床に広がり側に控えていた侍女から悲鳴が上がる。
それに苛立ちそうに宮主は卓に置かれていた扇を投げつける。
当たって顔を覆う侍女を苛立ちそうに睨みつけ、彼女は立ちあがる。
「四夫人が進めている女官を見つけなさい!絶対よ」
「きっと、私を推薦くださるわ。だって、お姉さまとは姉妹ですもの」
「・・・・」
「やっと私も九嬪でも上に上がれるわ。もう、お姉さまたち以外に見下されるのはたくさん!」
「・・・」
「お前たちにも褒美をあげるわね」
「・・・ありがとうございます、」
「あら、面白いことになってるわね。でも、そうね。噂のおかげで陛下が後宮に足を運ぶ回数が増えれば、彼らも安心でしょうからね」
「そんな思惑が御有りだったのですか?」
「陛下が少しでも早くお世継ぎを作られることは臣下だれもが願うことでしょう?」
「そうですが、わたくしとしては四夫人のどちらかのほうがそのあとが安泰だと思いますわ」
「そう?私も彼女もこれ以上の権力は今は得ないほうが得策だと思っているわ」
「恐れながら・・・。どうしてとお尋ねしても?」
「いいわ。なに?」
「ありがとうございます。私としましては今のうちにご嫡子をお産みになられたほうが、今後も」
「たしかにお父様たちはそれがいいでしょうね。でも、よく考えて?いま私と彼女の権力はつりあっている。それを崩す必要は感じないわ。むしろ、どちらかが権力を強めたあとに陛下が、私たち以外に皇后陛下を、そして残りの四夫人を迎えるとした場合に三つ巴よ」
「それはそうですが・・・」
「私も彼女も、望んでいるのは陛下の御世の安定よ。私と彼女が権力争いをする必要はない。むしろ、もし陛下が他の女官にも興味を持ってくださって、ここに通っていただけるなら、まずはそのほうが優先」
「そのために、彼女を利用してしまう形になったのは申し訳ないわね」
「本当にそうお考えですか?」
「ふふ。彼女なら、うまくかわしてくれるでしょうね。それに、もし万が一彼女が本当に、陛下のお気に入りになるならそれはそれで私は歓迎するわ」
「確かに、面白い人材です。あの子は」
「そうでしょう?私たちだけじゃなく、きっと陛下の退屈も紛らわせてくれるんじゃないかしら」
「陛下は退屈なさっていると?」
「政治にしか興味がない、なんてきっと退屈だと思うのよ。陛下は、御自分に厳しくていまは治世を安定ささることに注力なさっているけど、それだけ、なんてあまりにも味気ないじゃないの」
「そこまでお考えでしたか」
「「きっと彼女も同じよ。だから、このうわさを私も彼女も、否定はしないわ。お前たちもそのつもりでいて頂戴」」
各妃賓宮でそれぞれの思惑が動き始めていた。
絶対の地位を持つ皇后がいないこの後宮で、四夫人の権力は皇太后に次いで強い。
そして、皇太后は彼女たちふたりの後宮統治を評価しているのか、このたびの噂に対してもいっさいの動きをみせていなかった。
そのため九嬪以下の宮はにわかに騒がしくなっていった。
あるものは四夫人宮の様子を窺い、あるものは実際に訪問し、あるものは傍観した。
「ひ、姫さまっ」
がしゃんっと陶器の器が下へ落ちる。
無残に割れた茶器と、こぼれた中身が床に広がり側に控えていた侍女から悲鳴が上がる。
それに苛立ちそうに宮主は卓に置かれていた扇を投げつける。
当たって顔を覆う侍女を苛立ちそうに睨みつけ、彼女は立ちあがる。
「四夫人が進めている女官を見つけなさい!絶対よ」
「きっと、私を推薦くださるわ。だって、お姉さまとは姉妹ですもの」
「・・・・」
「やっと私も九嬪でも上に上がれるわ。もう、お姉さまたち以外に見下されるのはたくさん!」
「・・・」
「お前たちにも褒美をあげるわね」
「・・・ありがとうございます、」
「あら、面白いことになってるわね。でも、そうね。噂のおかげで陛下が後宮に足を運ぶ回数が増えれば、彼らも安心でしょうからね」
「そんな思惑が御有りだったのですか?」
「陛下が少しでも早くお世継ぎを作られることは臣下だれもが願うことでしょう?」
「そうですが、わたくしとしては四夫人のどちらかのほうがそのあとが安泰だと思いますわ」
「そう?私も彼女もこれ以上の権力は今は得ないほうが得策だと思っているわ」
「恐れながら・・・。どうしてとお尋ねしても?」
「いいわ。なに?」
「ありがとうございます。私としましては今のうちにご嫡子をお産みになられたほうが、今後も」
「たしかにお父様たちはそれがいいでしょうね。でも、よく考えて?いま私と彼女の権力はつりあっている。それを崩す必要は感じないわ。むしろ、どちらかが権力を強めたあとに陛下が、私たち以外に皇后陛下を、そして残りの四夫人を迎えるとした場合に三つ巴よ」
「それはそうですが・・・」
「私も彼女も、望んでいるのは陛下の御世の安定よ。私と彼女が権力争いをする必要はない。むしろ、もし陛下が他の女官にも興味を持ってくださって、ここに通っていただけるなら、まずはそのほうが優先」
「そのために、彼女を利用してしまう形になったのは申し訳ないわね」
「本当にそうお考えですか?」
「ふふ。彼女なら、うまくかわしてくれるでしょうね。それに、もし万が一彼女が本当に、陛下のお気に入りになるならそれはそれで私は歓迎するわ」
「確かに、面白い人材です。あの子は」
「そうでしょう?私たちだけじゃなく、きっと陛下の退屈も紛らわせてくれるんじゃないかしら」
「陛下は退屈なさっていると?」
「政治にしか興味がない、なんてきっと退屈だと思うのよ。陛下は、御自分に厳しくていまは治世を安定ささることに注力なさっているけど、それだけ、なんてあまりにも味気ないじゃないの」
「そこまでお考えでしたか」
「「きっと彼女も同じよ。だから、このうわさを私も彼女も、否定はしないわ。お前たちもそのつもりでいて頂戴」」
各妃賓宮でそれぞれの思惑が動き始めていた。
絶対の地位を持つ皇后がいないこの後宮で、四夫人の権力は皇太后に次いで強い。
そして、皇太后は彼女たちふたりの後宮統治を評価しているのか、このたびの噂に対してもいっさいの動きをみせていなかった。
そのため九嬪以下の宮はにわかに騒がしくなっていった。
あるものは四夫人宮の様子を窺い、あるものは実際に訪問し、あるものは傍観した。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
お姉さまに挑むなんて、あなた正気でいらっしゃるの?
中崎実
ファンタジー
若き伯爵家当主リオネーラには、異母妹が二人いる。
殊にかわいがっている末妹で気鋭の若手画家・リファと、市中で生きるしっかり者のサーラだ。
入り婿だったのに母を裏切って庶子を作った父や、母の死後に父の正妻に収まった継母とは仲良くする気もないが、妹たちとはうまくやっている。
そんな日々の中、暗愚な父が連れてきた自称「婚約者」が突然、『婚約破棄』を申し出てきたが……
※第2章の投稿開始後にタイトル変更の予定です
※カクヨムにも同タイトル作品を掲載しています(アルファポリスでの公開は数時間~半日ほど早めです)
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる