玉の輿なんてお断り! 

夕月

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それぞれの思惑

後宮妃賓

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「・・・四夫人が推薦なさるなら、きっと陛下もお気に召すに違いないわ。陛下がこれで後宮にお通いくださるなら私にも、機会が・・・、っ。なんて!!言うと思ったの!!」
「ひ、姫さまっ」
がしゃんっと陶器の器が下へ落ちる。
無残に割れた茶器と、こぼれた中身が床に広がり側に控えていた侍女から悲鳴が上がる。
それに苛立ちそうに宮主は卓に置かれていた扇を投げつける。
当たって顔を覆う侍女を苛立ちそうに睨みつけ、彼女は立ちあがる。
「四夫人が進めている女官を見つけなさい!絶対よ」

「きっと、私を推薦くださるわ。だって、お姉さまとは姉妹ですもの」
「・・・・」
「やっと私も九嬪でも上に上がれるわ。もう、お姉さまたち以外に見下されるのはたくさん!」
「・・・」
「お前たちにも褒美をあげるわね」
「・・・ありがとうございます、」

「あら、面白いことになってるわね。でも、そうね。噂のおかげで陛下が後宮に足を運ぶ回数が増えれば、彼らも安心でしょうからね」
「そんな思惑が御有りだったのですか?」
「陛下が少しでも早くお世継ぎを作られることは臣下だれもが願うことでしょう?」
「そうですが、わたくしとしては四夫人のどちらかのほうがそのあとが安泰だと思いますわ」
「そう?私も彼女もこれ以上の権力は今は得ないほうが得策だと思っているわ」
「恐れながら・・・。どうしてとお尋ねしても?」
「いいわ。なに?」
「ありがとうございます。私としましては今のうちにご嫡子をお産みになられたほうが、今後も」
「たしかにお父様たちはそれがいいでしょうね。でも、よく考えて?いま私と彼女の権力はつりあっている。それを崩す必要は感じないわ。むしろ、どちらかが権力を強めたあとに陛下が、私たち以外に皇后陛下を、そして残りの四夫人を迎えるとした場合に三つ巴よ」
「それはそうですが・・・」
「私も彼女も、望んでいるのは陛下の御世の安定よ。私と彼女が権力争いをする必要はない。むしろ、もし陛下が他の女官にも興味を持ってくださって、ここに通っていただけるなら、まずはそのほうが優先」

「そのために、彼女を利用してしまう形になったのは申し訳ないわね」
「本当にそうお考えですか?」
「ふふ。彼女なら、うまくかわしてくれるでしょうね。それに、もし万が一彼女が本当に、陛下のお気に入りになるならそれはそれで私は歓迎するわ」
「確かに、面白い人材です。あの子は」
「そうでしょう?私たちだけじゃなく、きっと陛下の退屈も紛らわせてくれるんじゃないかしら」
「陛下は退屈なさっていると?」
「政治にしか興味がない、なんてきっと退屈だと思うのよ。陛下は、御自分に厳しくていまは治世を安定ささることに注力なさっているけど、それだけ、なんてあまりにも味気ないじゃないの」
「そこまでお考えでしたか」

「「きっと彼女も同じよ。だから、このうわさを私も彼女も、否定はしないわ。お前たちもそのつもりでいて頂戴」」

各妃賓宮でそれぞれの思惑が動き始めていた。
絶対の地位を持つ皇后がいないこの後宮で、四夫人の権力は皇太后に次いで強い。
そして、皇太后は彼女たちふたりの後宮統治を評価しているのか、このたびの噂に対してもいっさいの動きをみせていなかった。
そのため九嬪以下の宮はにわかに騒がしくなっていった。
あるものは四夫人宮の様子を窺い、あるものは実際に訪問し、あるものは傍観した。
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