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新たな生活
女子会 ~女官房~
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「茉莉は本当に興味ないの?」
夜、三人で暮らしている女官房へ戻ると、明蘭がそう言った。
「へ?」
お茶と一緒に、共同用の卓でお茶を飲んでいた私は間抜けな声がでる。
今日のお菓子も、この尚儀局の下級女官たちの房をお世話してくれる奴婢のケイケイの用意してくれた揚げ菓子だ。
砂糖がまだ貴重なこの国では、あんことか果物などが一番のおかしだ。
あんこも砂糖とかを入れた甘さじゃなくて、いもとか栗とかの天然の甘さを生かしたものになる。
それでも何かと工夫してこの房をつかう女官にすこしでも、とお菓子とかお茶とか作ってくれる。
ホントいい子だわー。
この国も、昔の中国とかと同じでもともとの生まれとなる身分に縛られる。
だから、平民はまだ出世の道があっても、賎民の親に生まれた子は一生賤民だという。
しかも身分を超えた結婚もそんなにないから、賎民は賎民同士で結婚する。
そうして生まれた子はまた、賎民という身分だ。
王宮やお屋敷で働く奴婢は、基本その家の財産。奴隷だ。
こういうと現代のわたしは、顔をしかめたくなるけどちゃんとしたところで働ける場合には、その家で守ってもらえるからましらしい。
へたに常人などで租税をしぼりとられるよりは、王宮奴婢だったらそのまま王宮で働くほうがまし、という。
私邸に仕える奴婢より、宮廷奴婢のほうが身分が高いし給金がいいというのも理由だとケイケイは笑っていってた。
たしかにね、地方で下手に役人に絞りとられたりするよりは奴婢のほうがいいらしいというのは明蘭たちもいう。
奴婢は財産だから、最低限は持ち主である貴族や宮廷が死なないように食事にしろ衣服や住居にしろ用意する。
その点からみると、下手に身分回復して農民や職人、商人になるよりいいか持って思う。
まだまだ私の感覚からいったら発展途上国であるこの国で、もし事業の失敗や天災にあった場合に国が保証したり保護したりという制度はない。
奴隷扱いということに目をつぶれば、奴婢は虐待しない主人に仕えることができれば安全だ。
話がそれたけど、ケイケイはどんなに頑張っても女官にあがることはできない。
奴婢はあくまでも雑用を行う身分で、出世することはできないんだ。
そんなケイケイだけど、私たち下級女官たちとは仲がいい。
身分差があまりないのもあるし、上にいじめられる立場は似てるからかもしれないけど。
「なにに、興味がないんです?」
「この子ってば、敬妃さまと徳妃さまの前で身分に興味ないって言ったの」
寝室へ洗った衣服などを持ってきてくれていたケイケイの質問に、明蘭が呆れた声で答える。
「えー?お妃さまになりたくないんですか?茉莉さん」
「興味ないな~」
驚いたように、籠を抱きしめるケイケイに応えると、目をまんまるくするケイケイ。
確かに身分のせいで、出世もできないでずっと宮廷で雑用するしかないケイケイからしたら私のこの出世欲なし、はイヤミなんだろうな。
でも、ほんとにないんだよね。
「だってさー。陛下の妃になっても、寵を争ったり。下手したら夫とふれあいすらなく過ごすんだよ?」
「たしかにそうかもしれませんけど・・・」
「そんななら、私はいっそ普通の官吏の嫁くらいでいいわー」
それだって、見染められないとないしねー。
一生独身上等!
日本に帰りたいという気持ちはなくならないし、この国で好きな人ができれば別かもしれないけど後宮じゃ出会いもない。
そう思って笑って答えると、ケイケイは少し残念そうな顔をする。
なんで?
「茉莉さんが楽曲房の女官として実力があるから、徳妃さまたちの覚えがいいんですよね?」
「そうみたいだね」
うんと頷くと、ケイケイは身を乗り出してくる。
「あっという間に上級女官に、昇給されそうです」
「ほめすぎだよー」
15歳という若いケイケイはまだまだ未来にきらきらとと希望を抱いている。
それに水をさすつもりはなけど。
自分が出世できないからこそかもしれないけど、私に夢見てるのかな?
ケイケイはずっと後宮にいたらしいんだけど、私は身分とかもわからないから最初から彼女にめちゃくちゃ話しかけていた。
まわりの女官には呆れられたりしたけど、同房の明蘭たちはわたしが記憶をなくしているってことになっているからいろいろ説明してくれた。
普通は、房で働く奴婢はあくまでも自分たちの雑用をする奴隷だって。
でも、私は同じ房で暮らすのだからとケイケイと普通に話したりおすそ分けしたりしてた。
そのせいか、なついてくれているみたい。
そのうえ日本の歌のおかげで、無駄にハイレベルだと思われている・・・。
「けれど、上級女官はしょせん女官。妃賓さま方とは別格です」
「そうもしれないけどー・・・」
「まあ、ケイケイの言うこともわかるわねー」
「そうよね」
明蘭と春蘭もケイケイの言葉に頷く。
なんで私が責められる感じになってるのかな・・・?
呆れたように頬杖をついた春麗が、私を見ながら笑う。
「あなたが妃になったら、専属女官として取り立ててもらおうって思ったのになー」
「え?」
「私もそうですよー。この房のみなさまもお優しいし、他の奴婢の子たちにうらやましがられますけど。茉莉さまがもし、妃になったら宮に引き抜いていただこうと思いました」
にこにこと笑うケイケイたちに、呆れるべきなのかな?
なんというか、したたかだよね。いいことなのかもしれないけど。
「私は、妃なんて御免です!」
これだけは言っとかないとね。
夜、三人で暮らしている女官房へ戻ると、明蘭がそう言った。
「へ?」
お茶と一緒に、共同用の卓でお茶を飲んでいた私は間抜けな声がでる。
今日のお菓子も、この尚儀局の下級女官たちの房をお世話してくれる奴婢のケイケイの用意してくれた揚げ菓子だ。
砂糖がまだ貴重なこの国では、あんことか果物などが一番のおかしだ。
あんこも砂糖とかを入れた甘さじゃなくて、いもとか栗とかの天然の甘さを生かしたものになる。
それでも何かと工夫してこの房をつかう女官にすこしでも、とお菓子とかお茶とか作ってくれる。
ホントいい子だわー。
この国も、昔の中国とかと同じでもともとの生まれとなる身分に縛られる。
だから、平民はまだ出世の道があっても、賎民の親に生まれた子は一生賤民だという。
しかも身分を超えた結婚もそんなにないから、賎民は賎民同士で結婚する。
そうして生まれた子はまた、賎民という身分だ。
王宮やお屋敷で働く奴婢は、基本その家の財産。奴隷だ。
こういうと現代のわたしは、顔をしかめたくなるけどちゃんとしたところで働ける場合には、その家で守ってもらえるからましらしい。
へたに常人などで租税をしぼりとられるよりは、王宮奴婢だったらそのまま王宮で働くほうがまし、という。
私邸に仕える奴婢より、宮廷奴婢のほうが身分が高いし給金がいいというのも理由だとケイケイは笑っていってた。
たしかにね、地方で下手に役人に絞りとられたりするよりは奴婢のほうがいいらしいというのは明蘭たちもいう。
奴婢は財産だから、最低限は持ち主である貴族や宮廷が死なないように食事にしろ衣服や住居にしろ用意する。
その点からみると、下手に身分回復して農民や職人、商人になるよりいいか持って思う。
まだまだ私の感覚からいったら発展途上国であるこの国で、もし事業の失敗や天災にあった場合に国が保証したり保護したりという制度はない。
奴隷扱いということに目をつぶれば、奴婢は虐待しない主人に仕えることができれば安全だ。
話がそれたけど、ケイケイはどんなに頑張っても女官にあがることはできない。
奴婢はあくまでも雑用を行う身分で、出世することはできないんだ。
そんなケイケイだけど、私たち下級女官たちとは仲がいい。
身分差があまりないのもあるし、上にいじめられる立場は似てるからかもしれないけど。
「なにに、興味がないんです?」
「この子ってば、敬妃さまと徳妃さまの前で身分に興味ないって言ったの」
寝室へ洗った衣服などを持ってきてくれていたケイケイの質問に、明蘭が呆れた声で答える。
「えー?お妃さまになりたくないんですか?茉莉さん」
「興味ないな~」
驚いたように、籠を抱きしめるケイケイに応えると、目をまんまるくするケイケイ。
確かに身分のせいで、出世もできないでずっと宮廷で雑用するしかないケイケイからしたら私のこの出世欲なし、はイヤミなんだろうな。
でも、ほんとにないんだよね。
「だってさー。陛下の妃になっても、寵を争ったり。下手したら夫とふれあいすらなく過ごすんだよ?」
「たしかにそうかもしれませんけど・・・」
「そんななら、私はいっそ普通の官吏の嫁くらいでいいわー」
それだって、見染められないとないしねー。
一生独身上等!
日本に帰りたいという気持ちはなくならないし、この国で好きな人ができれば別かもしれないけど後宮じゃ出会いもない。
そう思って笑って答えると、ケイケイは少し残念そうな顔をする。
なんで?
「茉莉さんが楽曲房の女官として実力があるから、徳妃さまたちの覚えがいいんですよね?」
「そうみたいだね」
うんと頷くと、ケイケイは身を乗り出してくる。
「あっという間に上級女官に、昇給されそうです」
「ほめすぎだよー」
15歳という若いケイケイはまだまだ未来にきらきらとと希望を抱いている。
それに水をさすつもりはなけど。
自分が出世できないからこそかもしれないけど、私に夢見てるのかな?
ケイケイはずっと後宮にいたらしいんだけど、私は身分とかもわからないから最初から彼女にめちゃくちゃ話しかけていた。
まわりの女官には呆れられたりしたけど、同房の明蘭たちはわたしが記憶をなくしているってことになっているからいろいろ説明してくれた。
普通は、房で働く奴婢はあくまでも自分たちの雑用をする奴隷だって。
でも、私は同じ房で暮らすのだからとケイケイと普通に話したりおすそ分けしたりしてた。
そのせいか、なついてくれているみたい。
そのうえ日本の歌のおかげで、無駄にハイレベルだと思われている・・・。
「けれど、上級女官はしょせん女官。妃賓さま方とは別格です」
「そうもしれないけどー・・・」
「まあ、ケイケイの言うこともわかるわねー」
「そうよね」
明蘭と春蘭もケイケイの言葉に頷く。
なんで私が責められる感じになってるのかな・・・?
呆れたように頬杖をついた春麗が、私を見ながら笑う。
「あなたが妃になったら、専属女官として取り立ててもらおうって思ったのになー」
「え?」
「私もそうですよー。この房のみなさまもお優しいし、他の奴婢の子たちにうらやましがられますけど。茉莉さまがもし、妃になったら宮に引き抜いていただこうと思いました」
にこにこと笑うケイケイたちに、呆れるべきなのかな?
なんというか、したたかだよね。いいことなのかもしれないけど。
「私は、妃なんて御免です!」
これだけは言っとかないとね。
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