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幕間1
皇帝の苦悩
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この世界、この国には渡客というものがいる。
それはこのいまの世界の文明よりも、すぐれているどこか違う時間、国に生きるものが迷い込んでくる。
彼らは往々にして我々に敵愾心が薄いことが多く、また争いごとに不慣れなことが多いために彼ら渡客が悪人の食い物にされることも多かったようだ。
しかし、彼らの有用性に気付いた国が保護するようになった。
そうしてこの国では当たり前になりつつあった渡客が、他国と比べるととくに多いこともわかった。
より国が、他国にも優位にたつために渡客を受けれるようになった。
国民までもがそれが当たり前に思うようになり、彼ら異邦人は元の国にいたころよりは劣るだろうが、迷い込んだ不法入国者としては破格の扱いを受けてきた。
彼ら渡客が、その存在がすたれないうちにまた現れるというのもその要因だろう。
そうこうしているうちに、王宮に現れる渡客がそのとき国が抱える問題を解決するという思い込みが起きた。
たまたま、疫病がはやっていたときに医者の渡客が現れた。
たまたま食糧難が続いて、多くが飢え苦しんでいるときに、植物に明るいものが渡ってきた。
そう言った数例を大げさにとらえ、もともと渡客を保護するほうに傾いていた国の風潮がより加速し、王宮に現れる渡客を『真客』とすら呼ぶようになった。
より彼らを、迎え入れるようになった国は神官の占で、渡客が来る予兆が分かるようになるとそれを定期的に占うようになり、王宮に現れる真客が女性の場合、年齢の合う皇族の妃にするようになった。
正直に言おう。
冗談ではない。そんなあいまいな古臭いしきたりにまみれた理由で、伴侶を決められてたまるか、と思った。
どうせ、渡客が王宮に現れるなら父のときにくればよかったのだ。
あのひとこそ、渡客を待っていた。
おれの父は気の弱い男だった。
父親としては、夫としてはいい人だったのだろう。
しかし国を率いる長としては、その気の弱さがその命を縮めた。
この国は渡客たちがもたらした知識で、他よりはどこか少しずつは他の国よりは優れている。
しかし総評でみれば、大国に叶わない。
冬の間に大国から会談を申し入れられた父は、バカ正直に赴いた。
案の定、父は道中に馬車ごと凍った道で崖したまで転落し、帰らぬ人になった。
父がもし春に会談を伸ばそうと言えば、大国は受け入れただろう。
それができなかった父は、ずっと外交を助けてくれるような渡客が来ることを望んでいた。
祖父のころに真客ではないとはいえ、渡客がきていたのも大きいのだろう。
あと10年は、父が帝位についてくれているものと思っていた。
そのために、父のふいの死は思ったより応えた。
父の死そのものも悲しかったが、なにより若くして帝位を継ぐことにあせった。
他国は父の死にざまも含めて、若い皇帝を侮るだろう。
だからこそ、臣下たちが渡客、それも真客が現れることを望んでいた。
口にはださないが、すぐに皇妃を進めなかったのがいい例だ。
四夫人はすぐにふたり推薦され、まあ、断るより力のある妃の家は後ろだてになると受け入れたが彼らが、彼女たちを皇帝妃に進めるそぶりはない。
真客が渡り、女だったときに妃へ付けようという目論見だろう。
そんな女に頼るのは余計なお世話だ、と言いたい。
なのに。
皇帝位をついで3年目。渡客の来訪を告げる占がでた。
絶対に、渡客だろうと、真客だろうとおれは受け入れない。
風習として、人として異国になにも知らず持たずに訪れる彼らに助力するのはいい。
しかし、絶対に、妃になんてするもんか!
もたらされるものにばかり気をとられ、怠慢な家臣のいいなりになどなるものか。
しかし、真客が来るといったはずなのに王宮には、渡客は現れていない、らしい。
来ると宣託された日よりあと、王宮内に不審者は見当たらなかったという。
占が外れたか?それならいいのだが・・・。
それはこのいまの世界の文明よりも、すぐれているどこか違う時間、国に生きるものが迷い込んでくる。
彼らは往々にして我々に敵愾心が薄いことが多く、また争いごとに不慣れなことが多いために彼ら渡客が悪人の食い物にされることも多かったようだ。
しかし、彼らの有用性に気付いた国が保護するようになった。
そうしてこの国では当たり前になりつつあった渡客が、他国と比べるととくに多いこともわかった。
より国が、他国にも優位にたつために渡客を受けれるようになった。
国民までもがそれが当たり前に思うようになり、彼ら異邦人は元の国にいたころよりは劣るだろうが、迷い込んだ不法入国者としては破格の扱いを受けてきた。
彼ら渡客が、その存在がすたれないうちにまた現れるというのもその要因だろう。
そうこうしているうちに、王宮に現れる渡客がそのとき国が抱える問題を解決するという思い込みが起きた。
たまたま、疫病がはやっていたときに医者の渡客が現れた。
たまたま食糧難が続いて、多くが飢え苦しんでいるときに、植物に明るいものが渡ってきた。
そう言った数例を大げさにとらえ、もともと渡客を保護するほうに傾いていた国の風潮がより加速し、王宮に現れる渡客を『真客』とすら呼ぶようになった。
より彼らを、迎え入れるようになった国は神官の占で、渡客が来る予兆が分かるようになるとそれを定期的に占うようになり、王宮に現れる真客が女性の場合、年齢の合う皇族の妃にするようになった。
正直に言おう。
冗談ではない。そんなあいまいな古臭いしきたりにまみれた理由で、伴侶を決められてたまるか、と思った。
どうせ、渡客が王宮に現れるなら父のときにくればよかったのだ。
あのひとこそ、渡客を待っていた。
おれの父は気の弱い男だった。
父親としては、夫としてはいい人だったのだろう。
しかし国を率いる長としては、その気の弱さがその命を縮めた。
この国は渡客たちがもたらした知識で、他よりはどこか少しずつは他の国よりは優れている。
しかし総評でみれば、大国に叶わない。
冬の間に大国から会談を申し入れられた父は、バカ正直に赴いた。
案の定、父は道中に馬車ごと凍った道で崖したまで転落し、帰らぬ人になった。
父がもし春に会談を伸ばそうと言えば、大国は受け入れただろう。
それができなかった父は、ずっと外交を助けてくれるような渡客が来ることを望んでいた。
祖父のころに真客ではないとはいえ、渡客がきていたのも大きいのだろう。
あと10年は、父が帝位についてくれているものと思っていた。
そのために、父のふいの死は思ったより応えた。
父の死そのものも悲しかったが、なにより若くして帝位を継ぐことにあせった。
他国は父の死にざまも含めて、若い皇帝を侮るだろう。
だからこそ、臣下たちが渡客、それも真客が現れることを望んでいた。
口にはださないが、すぐに皇妃を進めなかったのがいい例だ。
四夫人はすぐにふたり推薦され、まあ、断るより力のある妃の家は後ろだてになると受け入れたが彼らが、彼女たちを皇帝妃に進めるそぶりはない。
真客が渡り、女だったときに妃へ付けようという目論見だろう。
そんな女に頼るのは余計なお世話だ、と言いたい。
なのに。
皇帝位をついで3年目。渡客の来訪を告げる占がでた。
絶対に、渡客だろうと、真客だろうとおれは受け入れない。
風習として、人として異国になにも知らず持たずに訪れる彼らに助力するのはいい。
しかし、絶対に、妃になんてするもんか!
もたらされるものにばかり気をとられ、怠慢な家臣のいいなりになどなるものか。
しかし、真客が来るといったはずなのに王宮には、渡客は現れていない、らしい。
来ると宣託された日よりあと、王宮内に不審者は見当たらなかったという。
占が外れたか?それならいいのだが・・・。
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