玉の輿なんてお断り! 

夕月

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女官生活

お茶会 前日

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彩徳妃に招かれて演奏する間にあっというまに、徳妃と賢妃のお茶会の前日になってしまいました・・・。
できればお誘いを断りたかったけど、私には断る技術はなかったし、尚儀にばれたら断るなんて言語道断!と言われてしまった。
演奏者として同行する明蘭と春麗は喜んでるし、補佐で入ってくれることになった姉女官さまもうきうき。
人選が決まった瞬間から、みなさんの女子力磨きが・・・。
まあ、いいんだけどね。ある意味とりたててもらえる機会になるかもだし、お姉さんたちが喜んでくれるのは。
だけどさー・・・

「まあ、茉莉ったら。あなたが今回の主役なのよ?」
「そうよ、何他人事みたいにお茶飲んでるの。こっちいらっしゃい」
・・・いえ、お構いなく・・・。
そう答えたい衝動を、茶碗の淵をあてて飲みこむ。
春麗と明蘭に引っ張られてきたのは、明日一緒にお茶会へいく姉女官の房。
ふたりのお姉さまたちは、それぞれの寝台の間にある共同スペースにいろんなものを並べている。
化粧水に、頬紅、口紅といったお化粧道具だけでなくって、かんざしなどの装飾品も。
明日にむけて準備に余念がないみたいです。
私は巻き込まないでほしい。

そりゃ、私だって一応女子ですよ?
おしゃれは嫌いじゃないし、お化粧だって好きだよ。
だけどさー。さすが後宮っていうか・・・。おねえさまたちも、明蘭も春麗も美人さんなんだよ。
そして言う必要はないだろうけど、お茶会の主賓である妃嬪さまたちが美人さんなのは言うまでもないでしょ?
明らかに私だけ、平凡なんだよ!
もちろん、普通に不満がるわけじゃないけどさ。
なんていうのかな、見劣りするってわかっているのに着飾っているお姉さんのそばで根性はないっす。

「お姉さまたちがおきれいになるのをみるだけで私は十分ですよ」
「歌を歌って、って徳妃さまにお願いされたのは茉莉でしょう?」
「そうよ。真ん中にたつあなたをきれいにしないのは私たちの力不足になるでしょ?」
「そんなばかな」
なんとか化粧やらなにやらをさせようとするおねえさんたちの意気込みが怖い。
刷毛を片手ににじり寄ってくる姉さんに、思わず茶器を加えたままずりっと椅子ごとさがる。
けど、すぐに背中に手を感じて振りかえるとにっこりと笑う明蘭と春麗。
あ、助けてくれないだね。
そう視線で聞くと二人はにっこりと笑って、頷いた。
「茉莉ってば、ちっとも私たちにもお化粧させてくれないんだもの」
「いつもの徳妃さまのところへ伺うときだって、最低限なんだもの」
「「いい機会だから、いじらせてね?」」
女子高のお昼休みを思い出したのは、ここだけの話。

「いつもどおりに歌を披露するだけなら、楽曲房の女官服だけでいいじゃない」
「茉莉ったらわかってないわね」
お姉さんたちと明蘭たちの合計4人にいじくり倒されて、疲れた。
夜に房へ戻って来てから、共同スペースの机に突っ伏して文句を言うと明蘭がお茶を入れてくれながら笑う。
「支度金だって徳妃さまから金子を下賜されたでしょう?」
「あれって、徳妃さまが目をかけている女官を自慢するから、賢妃さまに侮られない支度をしなさいってことよ?」
たしかに、お茶会をするから出るように言われた妃に金子を下賜されたわ。
あれってそういう意味なんだ。
そうなら、そう言ってくれればいいのに。
そう呟くと、二人は呆れた顔をする。
「そういうのを察するのよ。お金の話をするのははしたないでしょ」
「だからって言われないで、着飾っていくのも失礼なんじゃない?」
女性のその辺の矜持ってのはめんどくさいとつくづく思う。
きっと、自分より目立たれてもいやだけど、あきらかに貧相な人間を紹介するのもいやっていうのだろうな。
あるよね、どこでもそういうの。
「そう。だから、最小限で最大に品よく、それでいて着飾りすぎないようにするのが大事なの」
「賢妃さまは、私たちを、とくにあなたが徳妃さまに目をかけられていると思うでしょ?それなのに、あなたが貧相すぎると徳妃さまは自分のお気に入りにあたえる財もないか、下賜もしないドけちって思われてしまうのよ」

その辺はなんとなくわかる。
あれでしょ?社長だけド派手で、社屋に金かけてても連れてく担当がよれよれのスーツじゃいけないってやつ。
せめて最初に面通しするときぐらいは、きちんとクリーニングにだした社会人年数にあったスーツを着ていかなきゃいけない。
そう察するだけの教育と、給与をあたえているかどうかってことで、その担当だけじゃなく上司や会社も判断されるってこと。
後宮でも同じってことかー。
「あなた自身が徳妃さまに取り立てていただく気があってもなくても、少なくともお茶会の日は徳妃さまが貴方を連れていくのよ」
「よーく、わかった。・・・わかりたくないけど」
ぼそっと呟くと、ふたりは苦笑した。
「ほんと、出世欲とかないわよね。茉莉は」
「だけど明日はおとなしく、徳妃さまのお気に入り楽師として振舞うのよ?」
「わかってるわ」
そう考えると今日、お姉さんたちと明蘭たちにかんざしとか化粧を見ておいて貰ってよかったんだなー。
持つべきものは、気の回る同僚かな。
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