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アルマーズ
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青年は咄嗟にリュックを後ろ手に隠し、背筋を伸ばした。
学長は切れ長の目で青年を一瞥した。
かれを見上げた青年は、その瞬間、思わず息を呑んだ。
ぞっとするほどに冷たい眼差しだった。目つきが鋭いだけではない。瞳の色が、凍てついた氷のような銀色なのだ。
「……マ、マリオン・イーリスです」
青年マリオンは、ようやく声を絞り出した。
「アルマーズ・リースチヤ。ここの理事長兼学長だ。敬称はいらん、ジジくさくて嫌いだ。ただ、学長、でいい——かけなさい、かしこまる必要はない」
早口に言う間にもせかせかと窓辺へ足を運んでいたアルマーズは、そのままぷいとマリオンに背を向けてしまった。キャビネットの引き出しを開け、ぶつぶつ言いながら中身を物色しはじめる。
しばらくそうやってからくるりと振り向いたかれは、やはり青年には目もくれず、今度は選び取った数本のネクタイをデスクの上へ並べはじめた。
面接に来たはずなのに……この時間もなにかテストされているのか?
マリオンは不安を覚えつつ、じっとアルマーズを見つめた。
その容貌は立派な体格に不釣り合いな、色白の下膨れ気味の童顔だ。東アジア料理店で出てくるフカフカの饅頭を連想させる。硬そうな黒髪の分け目はきっちり7:3で、白髪は一本もない。
いったい何歳なのだろう?歴史ある名門校の学長というからには、仙人のような白髪の老人か、でっぷり肥えて脂ぎった中年男が現れると想像していたのに、かれはあまりに若すぎる。
視線を手元へ移す。
どうやら、ネクタイの色を濃いものから薄いものへ順にしているようだ。神経質そうな所作のひとつひとつが、さっきまでマシンガンのように汚い言葉を連発していた人物のものとは思えない。
アルマーズは散々悩んで、ようやく配置に納得したらしい。
腕を組んでうんうんと頷くと、唐突に言葉を発した。
「バストーク州立第34学校のサバク校長、やつにテレビカメラの前で謝罪させたのは、きみだろう?」
「え⋯⋯」
あからさまに動揺するマリオンを見て、アルマーズは意地悪く笑った。
「応募データできみの名を見てすぐにわかった。やつがやらかしたセクハラ、モラハラ、パワハラ、なんたらハラハラ——よくもまあ漏れなく手をつけたもんだ——山ほどの罪を全国ネットで告白させた、あの謝罪会見は傑作だった。ちょうど食堂で飯食いながら午後のニュースを見ていたらあれが流れたんだ、笑いすぎてうっかりレーズンパンを喉に詰まらせて、危うく死ぬかと思ったぞ。あいつ泣いてたよな、ヒヒヒ、ざまあみろだ」
マリオンにとっては笑い事ではなかった。
「わたしの名は、どこから?」
「きみは有名人だぞ、知らなかったのか?バストーク州内だけじゃない、国中の学校で知らない者はいないさ。どうせ、あのクズ野郎が腹いせに広めたんだろう。きみはバストークを追われてわざわざ東の果てからここカミニまで出てきたんだろうが、上司を告発した職員を雇う学校なんざ、どこへ行っても見つからんぞ」
マリオンはショックで言葉を失った。
アルマーズは愉快そうだ。
「言うまでもないと思うが、この国、ルーイの教育機関は腐っている。それは地方も都市部も変わらん。出世欲に目がくらんだ連中が国のいいなりになって、国にとって都合のいい思想を子どもたちに押しつけ、それに違を唱える者は爪弾きにされる。教育庁の連中は自分の保身に精一杯だ。危険因子のきみを見過ごすはずがない」
「⋯⋯その、つまり、もう、学校で働く道はないということですか」
「負けが見えている勝負に、なんの意味がある?」
「負けるわけにはいかないんです!」
マリオンは思わず声を荒げた。
「サバクに耐えかねた教師が次々と辞めて、あのままじゃ34校は崩壊していた。しわ寄せを受けるのはいつも子どもたちなんだ。せめて、おれがいる場所くらいは居心地のいい環境にしてあげたいんです。どこにも居場所のない子たちの拠り所となるように。自分の境遇が原因で、何気ない瞬間に、立ち直れないくらいに深く傷ついて、それを乗り越えられずに救いを求め続ける、そんな子がいなくなるように……!」
アルマーズは口元に浮かべていた薄笑いを引っ込めた。
耳まで真っ赤に染めた青年の手元にふと目を留め、太い眉をぐっと寄せる。
怒りに震えるかれの左手は、自分の右手の甲をつねっていた。
昂る感情を抑えようとする行為なのか。
幼稚だな、とアルマーズは思った。
目の前にいる青年は、想像したマリオン・イーリスとはまったく違う。古い体質に固執する組織において、上司を告発するのは自殺行為だ。それをやってのけた男とはどんな人物なのか。よほど肝が据わった豪傑か、計算高い狐か。
しかし実際は、感情に突き動かされ後先考えずに行動しただけのようだった。
「きみは大バカだな」
アルマーズが呆れた声で言うと、マリオンは思わず腰を上げた。勢い余って椅子が後ろへ倒れる。
「バカでも、自分のやったことを後悔していません!」
「しかし、なぜ裏方なんだ、教師になる気はなかったのか?」
「教員免許は持っています。父が教師だったので、半ば強制的に。でも、おれは人を指導できるような人間ではないので」
「ふん……わかった。マリオン・イーリス」
アルマーズは不敵に笑い、
「おれがあいつを、サバクを完膚なきまでに叩きのめしてやろう」
「それは願ってもないことですが……なぜあなたが?サバク校長と、なにか因縁でも?」
「幸い、セクハラはされていない。安心しろ、おれは部下のケツをなでるほど暇じゃない。きみが億万長者の息子でここの修繕費を全部出してくれるって言うなら、おれのケツぐらいは触らせてやってもいいがな」
そう胸を張るアルマーズを、マリオンは呆然と見つめた。
アルマーズは、もうこの話は完了、というように手を叩いた。
「さて」
デスクに並べたネクタイを前に両手を広げてみせたアルマーズは、「どれがいい?」と言った。
少し冷静さを取り戻したマリオンは椅子を元に戻しつつ、
「え?」
「今晩、懇親会があるんだ。年に一度、ばか高いホテルの会場を借りきって卒業生とその家族が集まる。もちろん費用は毎年卒業生から集まるありがたーい寄附金で賄うからこっちは痛くも痒くもないし、うまく立ち回ればいくらでも金を搾り取れる。それで、これだ」
まだわからない、という表情のマリオン。
「いいか、マリオン・イーリス。この学園は一見立派だが、見かけ倒しのハリボテ同然、家柄で生徒を選ぶどうしようもない学校だ。おまけに老朽化であちこちガタがきている始末だ——まあ、それはなんとかするとして——最大の課題は中身のほうだ。おれはこの学園を、生まれも育ちも関係ない実力重視に転換する。ただ、学園の運営は在校生のばか高い学費と卒業生の寄付金で賄っているのが現状だ。このプライドの塊みたいな連中が、庶民にここの敷居をまたがせたがらない。議題に上げただけで拒絶反応でヒステリーを起こしやがる。おれのことは詐欺師扱いだし、おれも会いたくもないんだが、金の使い道を決めるのも連中の息がかかった理事会だ。懐を握られているうちは無視できない」
アルマーズは乾いた唇を舐めると、水差しからグラスに水を注いでひと口飲んだ。
「学長選に勝つ方法を考え抜いて、気づいたんだ。おれのコンピュータ並みの明晰な頭脳は必要ない。必要なのは、たとえ不本意でも、力を持つ連中に気に入られること。それはつまり、仕立てのいいスーツを着て、連中の好みに合うネクタイを締めることだ、とな。このスーツはトムフォードだ、いくらだと思う?43万ルブレだぞ。ふざけたもんだ」
「はあ……」
「連中はここの校舎と同じでもうガタガタだ。顔が利く昔気質な政治家がコロコロとくたばるし、不景気の煽りを受けて政府からの資産への締めつけは厳しくなる一方だし。金があるのはいまのうちだ」
アルマーズはネクタイを首からはずすと、便利グッズの対面販売員のような仕草で机に並べたネクタイを次々胸に当てながら、
「これはどうだ、金持ちはやたら金色を好む。赤もそうだな。まったく時代錯誤な連中め。なんだこのぐにゃぐにゃした、ミミズが這ってるみたいな柄は……で、どれがいい?」
マリオンはめまいを覚えた。
この男はあまりに異質だ。
若いかれを見て、マラザフスカヤ家の若倅が跡を継いだに違いない、とマリオンは勝手に納得していた。姓をリースチヤと名乗ったが、きっと分家なのだろう、と。
ところが、とんでもない曲者だった。
長い歴史をかけて学園を蝕んだ毒を中和できるのは、さらに強力な毒だけ。
だとすれば、きっとアルマーズ・リースチヤほどの毒はない。バストークの森に生える神経系毒キノコのように、ぴりぴりとした刺激が笑いにすり替わるような、明快で、しかし致死性のある強力なやつだ。
マリオンはネクタイとアルマーズを交互に見て、答えた。
「どれも似合いませんよ」
「似合うかどうかはどうでもいいんだ、要はやつらが気にいるかだ。特に身だしなみにうるさい“女王”がいてな」
「女王?」
「ああ、学長選の結果をも左右する実力者。去年の学長選の勝因は、彼女を味方につけたことだ」
「学長になって半年、というところですか。遅かれ早かれ、主導権はあなたにあるとわからせる必要が出てくる。好きなネクタイをしたほうがいいのでは?」
「ふん、連中の頭の硬さときたら、3日放置したフランスパンどころじゃない、うまく転がしておけばいいのさ——だが、まあいいだろう、参考までに聞いておく、たとえば何色だ、おれに似合うのは?」
「そうですね……青、とか。極北の夜空のような、濃い青」
「青? 青はないな」ネクタイから顔を上げたアルマーズは、あ、と気づいて、「きみみたいな?」
マリオンは顎を引いて自分のネクタイを見た。
まさに思った色、というより、この色が頭に残っていただけかもしれない。
マリオンはネクタイを解きながらデスクを回り込み、アルマーズに近づいた。
と、アルマーズは露骨に後退りした。
マリオンはきょとんとして、
「なんです?」
「うっかり手でも触れたら困るだろう」
「言っておきますが、わたしはサバクにセクハラされてませんよ。被害者は同僚の女性です」
「きみも女みたいな顔してるじゃないか」
「その発言、訴えられたら負けますよ」
「撤回する。セイベルのばあちゃんに誓って、きみを侮辱するつもりはなかった」
アルマーズは胸に手を当て、言った。
軽々しい誓いだ、とマリオンは呆れつつ、かれの首にネクタイを締めてやる。
「セイベルの出身なんですね。その瞳の色、なにかで読んだことがあります。北の極限に住む人たちは、日光を浴びる時間が少なく、瞳の色素が極端に薄いと」
「民族史も押さえているようだな」
結び目を整えながら、頭ひとつ分は上にあるアルマーズの顔をマリオンは見つめた。
アルマーズは怪訝な顔をして、
「おれの顔はそんなにめずらしいか」
「いえ、瞳があまりに綺麗で、なんだか吸い込まれそうで……セイベル出身だと、公にしてるんですか?」
「していない」
「なら、なぜおれに?」
「きみが気づいていたからだ。わざわざ、極北の、と言っただろう?」
マリオンは感心した。
と同時に、迂闊な発言をしたことに背筋がひやりとした。
「気分を害したなら、謝ります」
「謝る理由はない。おれの目をまっすぐ見て、綺麗なんぞと言ったのはきみがはじめてだ」
「本心からそう思ったので」
アルマーズは顔を逸らすと、「はっ」と破裂音のような声で笑い、7:3の髪を掻き乱した。
「で、どうだ」アルマーズは少し赤らんだ顔でマリオンを見下ろし、「似合うのか、この色は?」
「ええ、とても似合います。これは安物のネクタイですけど」
「おれには安物でちょうどいい。これはもらう」
「困りますよ、おれの一丁羅!」
「これからいくらでも買えるじゃないか。月20万ルブレだぞ、しかも残業代は別だ。破格だろう」
「え、どういうことですか?」
「どうもこうも、きみの月給だ、求人広告に記載通り。昇給の判断はおれがする。交渉は認めない。文句も受けつけんぞ」
「おれが、あなたの助手? 本当にいいんですか?」
「なんだ、そのために来たんだろう?」
「でも、おれをここに置くのは、問題なのでは」
アルマーズは、ふんっと鼻で笑い、
「ここをどこだと思っている?帝政時代から続く名門マラザフスカヤ学園、そして学長は、このおれだぞ」
マリオンは目を輝かせて頷いた。
その直後、ほっと息を吐いたかれの顔色が変わったのを、アルマーズは見逃さなかった。
「どうした?——わっ!」
突然、マリオンがアルマーズに抱きついてきた。
咄嗟のことに身体を支えきれず足元がふらついたアルマーズは、出窓の横の壁に背中を強かに打った。
その直後、窓ガラスがぴしっと音を立て、反対側の壁際にあるキャビネットのガラスが割れた。
アルマーズは目を丸くして、
「い、いまのはなんだ?」
「動くな、撃たれました!」
「撃たれた?!」
けたたましい非常ベルの音が建物中に鳴り響いた。
職員室側の扉がノックされ、さっきの女性職員が怯えた様子で顔を出す。
「学長、警報が」
「入ってくるな、全員避難!」
「ドアを閉めて!」
壁を背に重なり合ったふたりが同時に怒鳴った。
女性職員は驚いて首を引っ込め、バタンと扉を閉めた。
「あれはプロだ」とマリオンがつぶやく。
「プロだと……?なんてこった、まさかあの野郎、殺し屋でも雇ったか!」
アルマーズはマリオンを押しのけると、小さなひびの入った窓の前に立った。
「こら、なんてことしてくれる、ガラスが割れたじゃないか! ……ん?」
アルマーズは手を広げ、「どこだ、逃げたのか?」とキョロキョロ。
窓の縁から外を覗いたマリオンがアルマーズの腕を引いた直後、また一発、銃弾が飛び込んだ。
「プロだって言ったでしょう、なんて真似するんですか!」
「止めようとしたんだ、おいセキュリティー!」
〈お呼びですか〉
天井付近から、妙に落ち着いた若い男性の声が降ってきた。
その声は、マリオンを正門からこの執務室まで案内したのと同じだった。
「裏の森にはだれもいないのか!」
〈熱探知に人間らしき姿は確認できません〉
「よし、校内の全生徒に避難指示、だれも森へ行かせるな!」
「子どもたちがどれくらい残ってるか、わかりますか?」
「寮生が27人」アルマーズは即答。「あとは、今日は午後から中等部のフットボール大会があるんだ、きっともう体育館に集まっている。——いったい、どこから狙ってるんだ?」
「湖の上です」
「湖の上って……森の奥の?あんな遠くが見えるのか?」
「その……眼鏡の性能がいいので。そんなことより、警察を呼ばないと」
「警備システムがとっくに通報している」
「まさか、前にもこんなことが?」
「さすがに撃たれるのは、はじめてだ」
アルマーズは身を屈めると、デスク横まで這っていき、ギターを掴んだ。上着を脱いで本体部分に着せ、それを上に掲げる。
と、そこへもう一発。
デスク上の水差しに命中し、ガラスが砕け散った。
「なにしてるんです!」
「囮だ!殺し屋が敷地に入ってきたら困るだろ、おれがここにいるとわからせておかないと、ガキどもが危険だ」
そう言ってもう一度掲げると、立て続けに二発撃たれた。
一発は椅子の背を擦り、もう一発は奥の壁に直接めり込む。
あの野郎、とアルマーズが呻くように言った。
「だれの仕業か知ってるんですね?」
「わからん、思い当たるやつはいくらでもいる、フォルマかオーバシか……くそ、警察なんか待ってられんぞ!」
「おれが行きます」
「行くって、どこへ?」
「殺し屋のところへ。おれが注意を引きます。さっきのセキュリティー、かれに湖への最短ルートを案内させてください」
そう言いながら、マリオンは上着を脱ぎ捨てた。
「おい冗談だろ、注意を引くってなにをする気だ、的になるつもりか?」
「素人のデタラメな弾じゃない、軌道は読める——」マリオンは問いに答えるというより自分に言い聞かせてから、「平気です、プロとはいえ腕は二流だ。あんな腕ではおれには当たらない」
「え、ちょっと待て……」
にっこり笑って出ていったマリオンを、アルマーズは茫然と見送った。
「なんだあいつは!なんであんなに冷静なんだ?まあ、契約書はまだ交わしてないから、万が一怪我をしても保障の必要はないか……いやいや、そんなことを考えている場合か!」
大慌てで、アルマーズもマリオンを追って執務室を飛び出した。
学長は切れ長の目で青年を一瞥した。
かれを見上げた青年は、その瞬間、思わず息を呑んだ。
ぞっとするほどに冷たい眼差しだった。目つきが鋭いだけではない。瞳の色が、凍てついた氷のような銀色なのだ。
「……マ、マリオン・イーリスです」
青年マリオンは、ようやく声を絞り出した。
「アルマーズ・リースチヤ。ここの理事長兼学長だ。敬称はいらん、ジジくさくて嫌いだ。ただ、学長、でいい——かけなさい、かしこまる必要はない」
早口に言う間にもせかせかと窓辺へ足を運んでいたアルマーズは、そのままぷいとマリオンに背を向けてしまった。キャビネットの引き出しを開け、ぶつぶつ言いながら中身を物色しはじめる。
しばらくそうやってからくるりと振り向いたかれは、やはり青年には目もくれず、今度は選び取った数本のネクタイをデスクの上へ並べはじめた。
面接に来たはずなのに……この時間もなにかテストされているのか?
マリオンは不安を覚えつつ、じっとアルマーズを見つめた。
その容貌は立派な体格に不釣り合いな、色白の下膨れ気味の童顔だ。東アジア料理店で出てくるフカフカの饅頭を連想させる。硬そうな黒髪の分け目はきっちり7:3で、白髪は一本もない。
いったい何歳なのだろう?歴史ある名門校の学長というからには、仙人のような白髪の老人か、でっぷり肥えて脂ぎった中年男が現れると想像していたのに、かれはあまりに若すぎる。
視線を手元へ移す。
どうやら、ネクタイの色を濃いものから薄いものへ順にしているようだ。神経質そうな所作のひとつひとつが、さっきまでマシンガンのように汚い言葉を連発していた人物のものとは思えない。
アルマーズは散々悩んで、ようやく配置に納得したらしい。
腕を組んでうんうんと頷くと、唐突に言葉を発した。
「バストーク州立第34学校のサバク校長、やつにテレビカメラの前で謝罪させたのは、きみだろう?」
「え⋯⋯」
あからさまに動揺するマリオンを見て、アルマーズは意地悪く笑った。
「応募データできみの名を見てすぐにわかった。やつがやらかしたセクハラ、モラハラ、パワハラ、なんたらハラハラ——よくもまあ漏れなく手をつけたもんだ——山ほどの罪を全国ネットで告白させた、あの謝罪会見は傑作だった。ちょうど食堂で飯食いながら午後のニュースを見ていたらあれが流れたんだ、笑いすぎてうっかりレーズンパンを喉に詰まらせて、危うく死ぬかと思ったぞ。あいつ泣いてたよな、ヒヒヒ、ざまあみろだ」
マリオンにとっては笑い事ではなかった。
「わたしの名は、どこから?」
「きみは有名人だぞ、知らなかったのか?バストーク州内だけじゃない、国中の学校で知らない者はいないさ。どうせ、あのクズ野郎が腹いせに広めたんだろう。きみはバストークを追われてわざわざ東の果てからここカミニまで出てきたんだろうが、上司を告発した職員を雇う学校なんざ、どこへ行っても見つからんぞ」
マリオンはショックで言葉を失った。
アルマーズは愉快そうだ。
「言うまでもないと思うが、この国、ルーイの教育機関は腐っている。それは地方も都市部も変わらん。出世欲に目がくらんだ連中が国のいいなりになって、国にとって都合のいい思想を子どもたちに押しつけ、それに違を唱える者は爪弾きにされる。教育庁の連中は自分の保身に精一杯だ。危険因子のきみを見過ごすはずがない」
「⋯⋯その、つまり、もう、学校で働く道はないということですか」
「負けが見えている勝負に、なんの意味がある?」
「負けるわけにはいかないんです!」
マリオンは思わず声を荒げた。
「サバクに耐えかねた教師が次々と辞めて、あのままじゃ34校は崩壊していた。しわ寄せを受けるのはいつも子どもたちなんだ。せめて、おれがいる場所くらいは居心地のいい環境にしてあげたいんです。どこにも居場所のない子たちの拠り所となるように。自分の境遇が原因で、何気ない瞬間に、立ち直れないくらいに深く傷ついて、それを乗り越えられずに救いを求め続ける、そんな子がいなくなるように……!」
アルマーズは口元に浮かべていた薄笑いを引っ込めた。
耳まで真っ赤に染めた青年の手元にふと目を留め、太い眉をぐっと寄せる。
怒りに震えるかれの左手は、自分の右手の甲をつねっていた。
昂る感情を抑えようとする行為なのか。
幼稚だな、とアルマーズは思った。
目の前にいる青年は、想像したマリオン・イーリスとはまったく違う。古い体質に固執する組織において、上司を告発するのは自殺行為だ。それをやってのけた男とはどんな人物なのか。よほど肝が据わった豪傑か、計算高い狐か。
しかし実際は、感情に突き動かされ後先考えずに行動しただけのようだった。
「きみは大バカだな」
アルマーズが呆れた声で言うと、マリオンは思わず腰を上げた。勢い余って椅子が後ろへ倒れる。
「バカでも、自分のやったことを後悔していません!」
「しかし、なぜ裏方なんだ、教師になる気はなかったのか?」
「教員免許は持っています。父が教師だったので、半ば強制的に。でも、おれは人を指導できるような人間ではないので」
「ふん……わかった。マリオン・イーリス」
アルマーズは不敵に笑い、
「おれがあいつを、サバクを完膚なきまでに叩きのめしてやろう」
「それは願ってもないことですが……なぜあなたが?サバク校長と、なにか因縁でも?」
「幸い、セクハラはされていない。安心しろ、おれは部下のケツをなでるほど暇じゃない。きみが億万長者の息子でここの修繕費を全部出してくれるって言うなら、おれのケツぐらいは触らせてやってもいいがな」
そう胸を張るアルマーズを、マリオンは呆然と見つめた。
アルマーズは、もうこの話は完了、というように手を叩いた。
「さて」
デスクに並べたネクタイを前に両手を広げてみせたアルマーズは、「どれがいい?」と言った。
少し冷静さを取り戻したマリオンは椅子を元に戻しつつ、
「え?」
「今晩、懇親会があるんだ。年に一度、ばか高いホテルの会場を借りきって卒業生とその家族が集まる。もちろん費用は毎年卒業生から集まるありがたーい寄附金で賄うからこっちは痛くも痒くもないし、うまく立ち回ればいくらでも金を搾り取れる。それで、これだ」
まだわからない、という表情のマリオン。
「いいか、マリオン・イーリス。この学園は一見立派だが、見かけ倒しのハリボテ同然、家柄で生徒を選ぶどうしようもない学校だ。おまけに老朽化であちこちガタがきている始末だ——まあ、それはなんとかするとして——最大の課題は中身のほうだ。おれはこの学園を、生まれも育ちも関係ない実力重視に転換する。ただ、学園の運営は在校生のばか高い学費と卒業生の寄付金で賄っているのが現状だ。このプライドの塊みたいな連中が、庶民にここの敷居をまたがせたがらない。議題に上げただけで拒絶反応でヒステリーを起こしやがる。おれのことは詐欺師扱いだし、おれも会いたくもないんだが、金の使い道を決めるのも連中の息がかかった理事会だ。懐を握られているうちは無視できない」
アルマーズは乾いた唇を舐めると、水差しからグラスに水を注いでひと口飲んだ。
「学長選に勝つ方法を考え抜いて、気づいたんだ。おれのコンピュータ並みの明晰な頭脳は必要ない。必要なのは、たとえ不本意でも、力を持つ連中に気に入られること。それはつまり、仕立てのいいスーツを着て、連中の好みに合うネクタイを締めることだ、とな。このスーツはトムフォードだ、いくらだと思う?43万ルブレだぞ。ふざけたもんだ」
「はあ……」
「連中はここの校舎と同じでもうガタガタだ。顔が利く昔気質な政治家がコロコロとくたばるし、不景気の煽りを受けて政府からの資産への締めつけは厳しくなる一方だし。金があるのはいまのうちだ」
アルマーズはネクタイを首からはずすと、便利グッズの対面販売員のような仕草で机に並べたネクタイを次々胸に当てながら、
「これはどうだ、金持ちはやたら金色を好む。赤もそうだな。まったく時代錯誤な連中め。なんだこのぐにゃぐにゃした、ミミズが這ってるみたいな柄は……で、どれがいい?」
マリオンはめまいを覚えた。
この男はあまりに異質だ。
若いかれを見て、マラザフスカヤ家の若倅が跡を継いだに違いない、とマリオンは勝手に納得していた。姓をリースチヤと名乗ったが、きっと分家なのだろう、と。
ところが、とんでもない曲者だった。
長い歴史をかけて学園を蝕んだ毒を中和できるのは、さらに強力な毒だけ。
だとすれば、きっとアルマーズ・リースチヤほどの毒はない。バストークの森に生える神経系毒キノコのように、ぴりぴりとした刺激が笑いにすり替わるような、明快で、しかし致死性のある強力なやつだ。
マリオンはネクタイとアルマーズを交互に見て、答えた。
「どれも似合いませんよ」
「似合うかどうかはどうでもいいんだ、要はやつらが気にいるかだ。特に身だしなみにうるさい“女王”がいてな」
「女王?」
「ああ、学長選の結果をも左右する実力者。去年の学長選の勝因は、彼女を味方につけたことだ」
「学長になって半年、というところですか。遅かれ早かれ、主導権はあなたにあるとわからせる必要が出てくる。好きなネクタイをしたほうがいいのでは?」
「ふん、連中の頭の硬さときたら、3日放置したフランスパンどころじゃない、うまく転がしておけばいいのさ——だが、まあいいだろう、参考までに聞いておく、たとえば何色だ、おれに似合うのは?」
「そうですね……青、とか。極北の夜空のような、濃い青」
「青? 青はないな」ネクタイから顔を上げたアルマーズは、あ、と気づいて、「きみみたいな?」
マリオンは顎を引いて自分のネクタイを見た。
まさに思った色、というより、この色が頭に残っていただけかもしれない。
マリオンはネクタイを解きながらデスクを回り込み、アルマーズに近づいた。
と、アルマーズは露骨に後退りした。
マリオンはきょとんとして、
「なんです?」
「うっかり手でも触れたら困るだろう」
「言っておきますが、わたしはサバクにセクハラされてませんよ。被害者は同僚の女性です」
「きみも女みたいな顔してるじゃないか」
「その発言、訴えられたら負けますよ」
「撤回する。セイベルのばあちゃんに誓って、きみを侮辱するつもりはなかった」
アルマーズは胸に手を当て、言った。
軽々しい誓いだ、とマリオンは呆れつつ、かれの首にネクタイを締めてやる。
「セイベルの出身なんですね。その瞳の色、なにかで読んだことがあります。北の極限に住む人たちは、日光を浴びる時間が少なく、瞳の色素が極端に薄いと」
「民族史も押さえているようだな」
結び目を整えながら、頭ひとつ分は上にあるアルマーズの顔をマリオンは見つめた。
アルマーズは怪訝な顔をして、
「おれの顔はそんなにめずらしいか」
「いえ、瞳があまりに綺麗で、なんだか吸い込まれそうで……セイベル出身だと、公にしてるんですか?」
「していない」
「なら、なぜおれに?」
「きみが気づいていたからだ。わざわざ、極北の、と言っただろう?」
マリオンは感心した。
と同時に、迂闊な発言をしたことに背筋がひやりとした。
「気分を害したなら、謝ります」
「謝る理由はない。おれの目をまっすぐ見て、綺麗なんぞと言ったのはきみがはじめてだ」
「本心からそう思ったので」
アルマーズは顔を逸らすと、「はっ」と破裂音のような声で笑い、7:3の髪を掻き乱した。
「で、どうだ」アルマーズは少し赤らんだ顔でマリオンを見下ろし、「似合うのか、この色は?」
「ええ、とても似合います。これは安物のネクタイですけど」
「おれには安物でちょうどいい。これはもらう」
「困りますよ、おれの一丁羅!」
「これからいくらでも買えるじゃないか。月20万ルブレだぞ、しかも残業代は別だ。破格だろう」
「え、どういうことですか?」
「どうもこうも、きみの月給だ、求人広告に記載通り。昇給の判断はおれがする。交渉は認めない。文句も受けつけんぞ」
「おれが、あなたの助手? 本当にいいんですか?」
「なんだ、そのために来たんだろう?」
「でも、おれをここに置くのは、問題なのでは」
アルマーズは、ふんっと鼻で笑い、
「ここをどこだと思っている?帝政時代から続く名門マラザフスカヤ学園、そして学長は、このおれだぞ」
マリオンは目を輝かせて頷いた。
その直後、ほっと息を吐いたかれの顔色が変わったのを、アルマーズは見逃さなかった。
「どうした?——わっ!」
突然、マリオンがアルマーズに抱きついてきた。
咄嗟のことに身体を支えきれず足元がふらついたアルマーズは、出窓の横の壁に背中を強かに打った。
その直後、窓ガラスがぴしっと音を立て、反対側の壁際にあるキャビネットのガラスが割れた。
アルマーズは目を丸くして、
「い、いまのはなんだ?」
「動くな、撃たれました!」
「撃たれた?!」
けたたましい非常ベルの音が建物中に鳴り響いた。
職員室側の扉がノックされ、さっきの女性職員が怯えた様子で顔を出す。
「学長、警報が」
「入ってくるな、全員避難!」
「ドアを閉めて!」
壁を背に重なり合ったふたりが同時に怒鳴った。
女性職員は驚いて首を引っ込め、バタンと扉を閉めた。
「あれはプロだ」とマリオンがつぶやく。
「プロだと……?なんてこった、まさかあの野郎、殺し屋でも雇ったか!」
アルマーズはマリオンを押しのけると、小さなひびの入った窓の前に立った。
「こら、なんてことしてくれる、ガラスが割れたじゃないか! ……ん?」
アルマーズは手を広げ、「どこだ、逃げたのか?」とキョロキョロ。
窓の縁から外を覗いたマリオンがアルマーズの腕を引いた直後、また一発、銃弾が飛び込んだ。
「プロだって言ったでしょう、なんて真似するんですか!」
「止めようとしたんだ、おいセキュリティー!」
〈お呼びですか〉
天井付近から、妙に落ち着いた若い男性の声が降ってきた。
その声は、マリオンを正門からこの執務室まで案内したのと同じだった。
「裏の森にはだれもいないのか!」
〈熱探知に人間らしき姿は確認できません〉
「よし、校内の全生徒に避難指示、だれも森へ行かせるな!」
「子どもたちがどれくらい残ってるか、わかりますか?」
「寮生が27人」アルマーズは即答。「あとは、今日は午後から中等部のフットボール大会があるんだ、きっともう体育館に集まっている。——いったい、どこから狙ってるんだ?」
「湖の上です」
「湖の上って……森の奥の?あんな遠くが見えるのか?」
「その……眼鏡の性能がいいので。そんなことより、警察を呼ばないと」
「警備システムがとっくに通報している」
「まさか、前にもこんなことが?」
「さすがに撃たれるのは、はじめてだ」
アルマーズは身を屈めると、デスク横まで這っていき、ギターを掴んだ。上着を脱いで本体部分に着せ、それを上に掲げる。
と、そこへもう一発。
デスク上の水差しに命中し、ガラスが砕け散った。
「なにしてるんです!」
「囮だ!殺し屋が敷地に入ってきたら困るだろ、おれがここにいるとわからせておかないと、ガキどもが危険だ」
そう言ってもう一度掲げると、立て続けに二発撃たれた。
一発は椅子の背を擦り、もう一発は奥の壁に直接めり込む。
あの野郎、とアルマーズが呻くように言った。
「だれの仕業か知ってるんですね?」
「わからん、思い当たるやつはいくらでもいる、フォルマかオーバシか……くそ、警察なんか待ってられんぞ!」
「おれが行きます」
「行くって、どこへ?」
「殺し屋のところへ。おれが注意を引きます。さっきのセキュリティー、かれに湖への最短ルートを案内させてください」
そう言いながら、マリオンは上着を脱ぎ捨てた。
「おい冗談だろ、注意を引くってなにをする気だ、的になるつもりか?」
「素人のデタラメな弾じゃない、軌道は読める——」マリオンは問いに答えるというより自分に言い聞かせてから、「平気です、プロとはいえ腕は二流だ。あんな腕ではおれには当たらない」
「え、ちょっと待て……」
にっこり笑って出ていったマリオンを、アルマーズは茫然と見送った。
「なんだあいつは!なんであんなに冷静なんだ?まあ、契約書はまだ交わしてないから、万が一怪我をしても保障の必要はないか……いやいや、そんなことを考えている場合か!」
大慌てで、アルマーズもマリオンを追って執務室を飛び出した。
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