瑠璃色たまご 短編集

佑佳

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瑠璃色たまごはキミとまざらない

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 警察官になりたての俺は、枝依えだより中央署の地域課に配属された。同期が何人もいて安心したのも束の間、『合同捜査』の名目で真夜中に駆り出されることとなった。ある夏の日のことだった。
「一時間後、この会場に『かたゆでたまご』がやってくるッ! 奴らは法の目をかいくぐり――」
「かいくぐってんのは課長の作戦のアミね」
「セキュリティを無効化し――」
「いつも先に解除しちゃうのは課長だけどね」
「か、な、ら、ず、や! 目当ての品を盗みにやって来る!」
「そしてか、な、ら、ず、盗られちゃうんだけどね」
「だーっ、やかましいッ! いちいち茶々入れるな都築つづきィ!」
「お、課長よくわかってますねぇ。そうです、そのツッコミ。『三段オチ』の完成です。ボケを二回スルーしてからの激しいツッコミで締める。ほら、これで会場も爆笑ですよッ」
 くるりと俺たち末端の新人警察官へ顔を向ける、都築正義まさよし巡査。彼は枝依中央署の刑事課に所属している『刑事さん』の一人。背は小さくとも、ムッチリたっぷりとした筋肉がその全身に美しく蓄えられているために、署内では『ちっちゃゴツい』で覚えられている。
「……あれ?」
 その都築巡査の爽やかスマイルも虚しく、その場に整列した全員のうち誰一人として笑う者はいなかった。
 いや、だって。『鬼神』と怖れられている土橋どばし刑事課長の発言にボケ一〇〇%のツッコミを何度も入れて、更に土橋刑事課長の激怒でオトすなんて展開を誰が想像していた? そもそも俺たちは合同捜査に駆り出された新米警察官の集まりで、それに彼らは直属の上司でもないし、なんならほぼ初対面だ。二人の頭上に『第二八回枝依演芸大会』的な看板があったとしたなら、手を叩いて笑ったり個々でツッコミを入れつつご両人の漫才にのめり込んでいったかもしれない。
 でも、違う。そんな看板はありもしないし、そもそもここは枝依中央区内の小さめの美術品展示会場だ。この誰も笑えない……いや、『笑ってはいけない』状況の俺たち整列勢が、お二人を凝視しつつそれぞれに隣のヤツの反応へ神経を研ぎ澄ましていると、都築巡査は実に不思議そうに「あれぇ?」と首を傾いだ。
「ヤバいっスよ、課長。ツカミ不発みたいです」
 コソコソ話の格好で更なるボケを積んでくる都築巡査。
「なにがダメだったかなー? 身内にはウケたのにね、課長」
 もしや彼のボケはネタではなく、完全なる『素』なのではないか? と、この場の数人が思い始めたであろうタイミングで、土橋課長の様子がみるみる変化していった。肩がワナワナと震え、「ぶわっ……」と幾度か漏らし、顔をどんどん赤くしているのは錯覚ではない……はず。しかめた顔のまま、俺はギュンと目を瞑って『備える』。
「ぶわっかモンッ! 遊んでないでとっとと指示せんかーッ!」
 やっぱり。雷が落ちました。

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