瑠璃色たまご 短編集

佑佳

文字の大きさ
上 下
6 / 13
瑠璃色たまごはキミのために笑む

6 五年後

しおりを挟む
「お前、また買ったの?」
 高校の教室で自慢気に、ぼくは漫画の週刊誌を広げている。当然、休み時間に。授業中は絶対にやらない。決まりをきっちり守るのが、ぼくの『賢さ』だからだ。
「そーだよ。タマも見る?」
 友人の玉野たまのは、ぼくのその一言に「うんにゃ、いらん」と肩をすくめた。
「ちゃんと漫画読めよなぁ、漫画をよォ」
「別にいいよ。俺の目的漫画じゃないもん」
「外川がグラドル好きなのとか、ほんと意外だよなぁ」
 覗き込んできた青磁せいじ――通称セイちゃんに言われて、表紙を見直すぼく。
「だからァ、グラドルには興味ないってばァ。俺が好きなのは、このだけ」
 表紙をそっとひと撫でして、二人へそれを向ける。
「だってかわいいじゃん。ほら、これ俺に向かって笑ってくれてんだよ」
「ハイハイそーですねぇ、そうだといいですねぇ」
「外川は凍上とうがみ瑠由のことになると夢男子炸裂すんの、かなりギャップだわ」
「別に夢男子じゃありませぇーん」
 タマもセイちゃんも呆れているけど、いいんだ、それで。ぼくだけが知ってる瑠由ちゃんは、ぼくの中で大事に大事に宝物になってるんだから。


    凍上瑠由
   ――19歳の爆裂最強ボディを
         あますとこなく大胆公開!――


 本当にスターになってしまった――そう思う度に、あの発言をしたぼく自身をちょっと自慢に想っている。
 あれからすぐに、瑠由ちゃんは本当にグラビアモデルになってしまった。けれどそれと引き換えにするように、瑠由ちゃんはまた別のどこかへ引っ越して行ってしまった。行き先は知らない。引っ越した日も、実は知らない。
 ぼくが瑠由ちゃんに最後に会ったのは、あの屋上で話をした日だった。

 たった一週間の出逢い。たった一週間の交流。それだけだったのに、それ以上になった大切なひと。
 あのときのぼくは、確かに瑠由ちゃんに恋をしていたのかもしれない。でもぼくと瑠由ちゃんは、恋愛よりも違うかたちの堅くて確かな約束をしたんだと思う。

「瑠由ちゃんはやっぱり美人だ」
 マスクをしていない瑠由ちゃんは、ぼくの予想以上に綺麗で、美人で、かわいかった。ストーカー被害に遭うのも頷けるくらい。……いやいや、ストーカーは犯罪だからダメだよ、絶対に。
 事務所がそういうのから守ってくれているんだと、瑠由ちゃんはいつかの雑誌のインタビューで答えていた。ぼくはそれを読んで、かなりほっとしていたんだ。
「外川ぁ、次移動教室だよ」
「うんっ、いま行く!」
 近頃の瑠由ちゃんは、テレビタレントみたいなこともたまにやっているみたい。ネット配信のゲスト出演をしてみたりして、広い層から支持が厚くなってきている。
 それでも、圧倒的に雑誌に載ったり写真集を出したりしてる方が多い。瑠由ちゃんはきっと、ぼくとの約束を覚えていてくれてるんだと思うことにしている。
 表紙の瑠由ちゃんをそっとひと撫でして、ぼくは鞄の中へしまう。絶対に折り目のつかないように、丁寧に、慎重に。
「またね、瑠由ちゃん」
 タッと駆けるようにして、ようやく席を立つ。そしてあのときの瑠由ちゃんのように、ぼくも振り返ることなく教室を出た。



               おわり





──────────────────────

 佑佳作品
【28メートル先のキミへ】×【かたゆでたまご】


 プロット考案: 南雲なぐも さつきさま

 登場人物1人目
・性別 :男
・年齢帯:ティーン(11~19)
 登場人物2人目
・性別 :女
・年齢帯:ティーン(11~19)

 ジャンル:現代モノ

 あらすじ:
「絶対マスクを外させたい男」が
「男の前では絶対マスクを外したくない女に対して奮闘する」話





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...