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第六章 まるで病魔の初入院
CASE34 ミヤザキ・ハルカ
しおりを挟むティアルとの会話によって生じた誤解を解くため、俺の貴重な半日分の仕事時間は、ギルド内に居た連中への釈明で消失した。
今日の仕事は殆ど相談窓口だけだったのが救いだが、それでも他の仕事ができていたのでは? と考えてしまうのは、社畜への第一歩なのだろうか?
時刻はすでに昼を過ぎている。
そろそろ仕事を切り上げようと書類をまとめていると、なんと本日二人目の相談者が窓口へと訪れた。
「少しお時間良いかしら」
「…………はぁ。ええ! もちろん!」
「ちょ、今ため息……」
相談窓口にやって来たのは、ティアルに引き続いてコースケハーレムの一員。
ビビットカラーな赤色の髪を持ち、ティアルと同様にド派手な衣装に身を包んだ女の子。
ミヤザキ・ハルカ。
名前から分かる通り、こいつも召喚者である。
「ま、まあ良いわ。ちょっと相談したいことがあるんだけど」
「キサラギさんの事についてですか?」
「あら? よくわかったわね」
「さっき、ティアルさんが来られていたので」
実のところ、ティアルやハルカに限らず、コースケハーレムに所属する美少女たちが俺の元を訪れたのは、これが初めてではない。
前に居た街でも何度か相談を受けたこともあり、ハーレムの女性連中から名前を覚えられているのである。
なんでも、
『相談に行くならサトーと言う職員がオススメ』
と言う口コミが広がっているらしい。これがハーレムの人間でなければ、約得であり喜ばしいことだと言えるだろう。美少女の相談を受けるのは、気分的にも悪くない。
しかし、総じて恋愛対象がキサラギ・コースケな連中である。
いくら話を聞いても、コースケへのヘイトしか溜まりはしない。
「聞いてよもお! コースケったらまた女の子のメンバーを増やしたのよ!? 冒険について来られない各町のメンバーも数えたら、もう二百人くらいになるのに!!」
「ティアルさんに聞いた人数よりも更に増えてますねぇ……」
「もうそろそろ態度をハッキリさせても良いと思うの! 私なんて初期メンバーなのに、もう一月もパーティーに入れてもらえて……あっ! べ、別に私を選べって言ってるわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
はいはい、ツンデレツンデレ。
「思うんですが、キサラギさんのパーティーに、他の男性メンバーは居ないんですか? いくらなんでも、女性に偏り過ぎな気がするんですが」
「え? 居るわよちゃんと」
「え、居るんですか!?」
あの男には限りなく肩身の狭い世界でも、挫けずに所属し続けている猛者がいるとは……
「私と同じ初期メンバーで、ポジション的にはコースケの親友に位置しているわ。主に道化担当ね」
「道化?」
「場を盛り上げるというか、意図的なのかそうでないのかわからないけど、真っ先に悲惨な目に遭うのよ、彼。それでも数秒後には復活するんだけど」
「そんな人間が居るとは思えないんですが」
「でも事実居るからね。しかも、一応コースケ以外だと唯一の男性メンバーだからなのかしら、どんな冒険にも同行してるわ。憎たらしい」
そりゃ、お供がいつも女だけというのは、要らぬ気苦労があるのだろう。
気の許せる同性が一人でも居るというのは重要な事なのかもしれない。
「ちなみに、その親友さんと女性方が良い雰囲気になったりは……」
「無いわ」
「ですよねぇ」
その親友さんの苦労が忍ばれる。
美少女に囲まれながら、おさわり禁止。恋愛禁止。ついでに惚れられる可能性がゼロ。
よくもまあそんなパーティーに所属し続けられるものだ。
……駄目だ。考えだしたら思わず泣いてしまいそうになる。
「ええと、話は変わりますが、ミヤザキさんは召喚者なんですよね? 実は召喚者同士でパーティーを組むというのは珍しいんですが、ミヤザキさんは自分で作ったりはしないんですか?」
召喚者体質、もしくは転生者体質と勝手に名付けているが、彼らはかなり異性から好かれる。
だからこそ、冒険者ならばハーレムパーティーを作ることが多く、コースケとハルカのように、召喚者同士でパーティーを組むのはかなり珍しい部類なのだ。
「その……実は、コースケとは召喚前から面識があって……」
「は? え、それって……」
「いわゆるその……幼馴染ってやつなの」
「!?」
顔を赤くしながら髪をいじり、恥ずかしそうに告白するハルカの様子。
一方の俺は、そのカミングアウトに口をあんぐりと開けて、若干青ざめている様子となっている。
「え、何その表情。私何かおかしなこと言ったかしら?」
「いえ……お、幼馴染でツンデレ…………なんてことだ!」
最近、エクスカリバーがしきりに勧めてくるラノベがある。
題名は割愛するが、いわゆるラブコメもので、主人公の男子学生が女の子とイチャコラすると言う単純な物語である。
最初こそ拒否反応を示していた俺であったが、内容は意外にも面白く、ジュリアスが勧めるミナス・ハルバンの大冒険と合わせ、俺の読書量はかなり増えている。
そして、そのラノベの中では、いわゆる典型的なツンデレなヒロインが存在し、かつそのキャラは主人公の幼馴染という設定だったのだ。
ほぼ最初から最後まで出続けているキャラクターで、俺は主人公とそのキャラがくっつくものだと思っていたのだが、残念ながらラストでは別の女の子とのハッピーエンドとなった。
エクスカリバー曰く
『ツンデレ幼馴染なんて、選ばれないヒロインの代名詞でござる。サトー氏の予想もまだまだでござるなぁ』
とのこと。
まあ、もちろんエクスカリバーの偏見もあるのだろうが、どうやらその界隈では、『ツンデレ幼馴染は負け組』と言う一説が唱えられているらしい。
「あの……強く生きて下さい。僕は応援してますから!」
「なんで私、唐突に励まされたの!?」
「いえ、もうホント……泣けてきちゃうのでこの辺で勘弁を……あ、と言うかそろそろ営業時間が終わるので、今日はこの辺にしておきましょうか」
「そして体よく追い返されようとしてる!? まだ何も相談できてないのに!」
ぎゃあぎゃあと喚くハルカをなだめつつ、本日の営業は終了致しました。
* * *
「はぁ……胃が痛い」
「サトー、それいつも言ってますね。飽きないんですか?」
「原因の一つであるお前に言われたくはない」
事務の営業が終了したギルド。
酒場と化したその場所で、俺はパプカと一緒に酒を飲んでいる。
「しかも今日は、ストレスだけじゃなくてすごく悲しい話を聞いたもんだから、気分的にもすごくキツい」
「あら、コレは本当にダメそうですね。そんな時にはオールですよ、オール! 今夜は存分に飲み明かしましょう! 王都の件もありますし、今日は奢りますよ?」
「ああ……いや。なんか今日は食欲も湧かないし、ちょっと熱っぽいし、胃はいつも以上に痛いし……この酒を飲んだら帰って寝るよ」
「そうですか? 夏風邪かもしれませんし、養生したほうが良いかもですね」
そう言いつつ、パプカは無遠慮に俺の横で飯を平らげている。
なんだろうなぁ、腹は減ってるのに食欲がない。パプカの言うとおり夏風邪だろうか?
だとすれば、早く治してしまわないと仕事に支障が出る。俺一人でも抜けてしまうと、ルーンを除いてまともに仕事ができる人間が、我がギルドには居ないのだ。
「それじゃあ帰…………ん?」
酒を飲み干し、カウンターに手をかけて立ち上がる。
そんな動作をしたはずなのに、何故か俺の体は地面へと転がった。
派手な音を立ててすっ転んだものだから、酒場に居た奴らの視線が一斉に俺のもとに集まった。本日二度目である。
「? どうしました、サトー?」
「は…………腹が……っ!?」
胃痛など一年を通して無いことのほうが珍しい。
そんな意味の分からない耐性を持つ俺が、腹痛で倒れ伏したのだ。
額からは脂汗が洪水のように流れ落ち、あまりの痛さにこれ以上言葉も発せない。
やばい、マジで痛い! 死ぬ! 死ぬほど痛い!
そんな俺の様子に、流石に異常を感じ取ったのか、パプカや冒険者たちが俺の元へと駆け寄った。
「ちょ、サトー!? どうしたんですか!? しっかりして下さい! ひ、ヒール! ヒール!」
俺がこの時、最後に覚えていたのは、回復魔法をかけ続けるパプカの慌てふためいた表情であった。
「盲腸?」
「うん。寝ている間に手術は終わったし、あのお嬢ちゃんの回復魔法で傷も塞がってるけど、しばらく入院ね」
と言うのはこの村の医者である。
気がついた時には全て終わっており、もはや痛みなどかけらもないのだが……
どうやら人生初の、入院生活に突入したようだった。
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