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第六章 まるで病魔の初入院

CASE32 ディーヴァ③ その2

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「…………」
「…………」

き、気まずい!
メテオラが村から去り、取り残された俺とディーヴァ。
「まかせる」と言われても、俺みたいな地方の支部長が、魔王軍四天王の一角。それもおそらくメテオラ以上の化物相手に、何をどう任せられるというのだろうか。
ディーヴァの方だって、特に仲の良いわけでもない人間に、全任を渡されたという気まずさから、さっきから俯いて全然こっちを見ない。

「えーっと……とりあえず、冒険者カードをお見せしていただけますか?」
「……はい」

差し出されたカードを見て、とりあえず事務的な話に持っていこうと画策。
彼女とプライベートトークなどできる自信は無いし、そもそも今は仕事中。コレならば自然に会話を進めることができるだろう。

「お? ゴールドクラスじゃないですか。結構仕事もされてますね。意外だなぁ」
「アイドルの仕事だけでは食べていけないときに、ちまちまとこなしていましたの。最近はアイドル活動一本に絞ってますので、かなり金欠気味ですが……」
「それは冒険者一本に絞ったほうがよろしいのでは……」

ちまちまやるだけでゴールドクラスの冒険者。やはり実力は本物のようである。そしてアイドルの実力は低いようだ。
本気でやらずとも、オリハルコンランクまで行くのは容易いのだろうなぁ。とは言え、そこまで知名度の高い位まで行ってしまうと、色々と調査が入るので、魔王軍四天王という立場上大問題になることだろう。
そうなれば現冒険者戦力と王国戦力を合わせた大戦争に発展する。
ああ……こんなところにもハルマゲドンの種火が…………と言うか、この村物騒すぎるだろ! ちょっと舵取りを間違えただけでドゥームズデイが来ちゃうって、俺の処理能力を超えまくってるんですけども!

「はぁ……胃が痛い。ところで、居住の当てはありますか? 今はギルド運営の宿屋は満員になってまして、自力で確保をしてもらうことになっているのですが」
「居住ですか? ありませんわよ。そもそも、さっき連れてこられたばかりですから」
「ですよねぇ……」

この村で冒険者になるというのは、実はそこそこ難易度が高い。
辺境地域で全体的なクエスト難易度が高く、そもそも難易度の選定ができていないクエストが大半を占めている。
そこに加えて、小規模な村であるがゆえの受け入れ施設の枯渇。
ディーヴァに言ったように、ギルドの宿屋はすでに満員。村の宿屋もすでにぎゅうぎゅう詰めになっており、新しく来た冒険者が長期滞在する場合、村人と仲良くなってその家に間借りさせてもらうという、冒険者らしからぬ涙ぐましい努力が必要となるのだ。

「うーん、受け入れ体制の整備もしないと……いや、ひとまずディーヴァさんの宿を……でもなぁ」
「ここが魔界なら、そちらの通貨で家でも建てさせるんですが……人間界というのは不便ですわね」

やはり、向こう側ではブルジョワな立場なのだろうか? まあそりゃそうか、魔王軍四天王とされる奴らが、庶民レベルの給料をもらっているとは考えにくい。
だけど、この村で活動しているメテオラを見ていると、そのあたりは少し麻痺してくるんだよなぁ。
なにせ冒険に出た時の給与は全部、オタグッズに費やすほどの重課金。生活費はどうなっているのだろう。
寝泊まりはリュカンの部屋で行っており、グッズの量と相まって足の踏み場がないらしい。
存分に庶民生活をエンジョイされている四天王が近くにいるのだから、余計に四天王の魔界での私生活が想像しにくいのだ。


「家がないなら、支部長さんの家に住ませてあげたらいかがッスか?」
「!?」


ひょっこりと顔を伸ばして、アヤセが話に入ってきた。

「お、お前何を……」
「えー、だって支部長さん、部屋ならいくらでも余ってるじゃないッスか。ルーンさんに自分と支部長さん……うん。まだまだ余裕ありますよ!」

指を折りつつ部屋の数を数えるアヤセの顔は、善意に満ち溢れた物だった。そして俺の胃を締め付けるものだった。
アヤセが加わったとは言え、あの家はこの村で数少ない安住の地。
そんな聖地に他人を置くのは御免こうむる。特に魔王軍四天王などという規格外人物を間借りさせるなど、部屋数に余裕があっても、俺の精神にそのような余裕はない。

「いや、流石にそれは……ディーヴァさんだって嫌でしょう?」
「ワタクシは別に構いませんが、サトーが嫌というなら無理に頼むつもりもありませんわ」

ほらぁ、彼女も空気を読んでこう言ってくれてることだし。アヤセも空気を読んで立ち去って……

「あー!?」
「な、なんだ!? 今度は何だ!?」

いきなり大声を上げるアヤセは、その視線をディーヴァの顔へと固定させていた。

「お姉さん、もしかして祭りの日に何かやってたでしょ!?」
「は、はぁ? 祭り……ですの?」
「こらこらアヤセ、一応仕事中なんだから、プライベートな話は……」
「支部長さん、多分この人ッスよ! 息苦しくてジットリした魔力の持ち主!」

息苦しくてジットリした魔力。
つまり、アヤセがゴーストとして意識を復活させた原因のこと。
そんな抽象的な表現では伝わらないと、話を聞いた時はスルーしていたのだが…………ん?

「ん? なんですの?」
「…………息苦しくて、ジットリした?」

思い返してみてみれば、その表現に聞き覚えがあった。と言うより、俺自信が放った表現が一部含まれていた。
目の前の魔王軍四天王。ディーヴァという女性がステージ上でやらかしそうになった時、俺はその言葉を放ったのだ。

「…………ディーヴァさん?」
「ああ! ワタクシの魔力放出のことでしたか! 確かに、ワタクシの魔力は生者には毒ですが、ゴーストを活性化させる効力がありますわ」

諸々の原因はこいつか!?
俺の家の玄関が大破したことや、アヤセをギルドで雇うことになった根本的な原因。
ああ、なるほど。メテオラがこいつにアイドル活動を止めさせたい理由がようやく実感できた。
無意識に人間を攻撃するだけにはとどまらず、ゴーストを呼び覚まして全国を回るというのであれば、それは全力で止めるべき事柄だろう。なんだ? 人間界を地獄に変えにでも来たのかこの女は。
メテオラさんファインプレーです。本当にありがとうございました。

「いやぁ、こんなところで恩人に出くわすとは思わなかったッスよぉ。ありがとうございました、お姉さん」
「感謝されるほどでは……はっ!? いえ、ここはファン獲得のチャンス……存分に崇め奉って頂いて結構ですわよお嬢さん!」
「それはアイドルというより信仰対象なのでは……」

とは言え、コレは本格的に監視対象に置かなければならないのではなかろうか。
だが、メテオラと同様、中央に報告するわけにも行くまい。そんなことをすればリール村が戦場にされてしまう。
幸いにも、四天王の二人は多少話がわかる人物だ。ならば穏当に、普通の生活を送ってもらうほうがみんなのためである。
…………やっぱり、そう言う考えなら俺の家に置くべきなのかなぁ。

「支部長さん! やっぱりこのお姉さん、家に置いてあげましょうよ! 自分、恩人に恩を返したいッス!」
「まずはルーンに借金を返そうな」
「あ、そうだ! 支部長さんお金に困っているそうですし、間借りするかわりに家賃を払うってことにすれば良いんじゃないッスか?」
「!?」

そ…………その手があったか!?
こ、コレはどうなんだ? 賃貸の又貸しって、この世界の法律的にアウトなのだろうか? それともグレーゾーン?
と、とりあえず一考の余地はあるな……いや、ディーヴァを間借りさせるかどうかはともかくとして。
収入源が増えるのは滅茶苦茶嬉しいぞ。

「…………あ、その方向で行くなら、アヤセからも家賃をもらうことに……」
「すんませんお姉さん。間借りの件は諦めて下さい」
「ちょっと!?」

とりあえず、ディーヴァがこの村に滞在することは決定したようです。


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