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第十三章 まるでカオスな視察団
CASE105 パプカ④
しおりを挟む「パプカアアアアアアアァッ!! ウオオオオォオォンッ!!」
「えっと、扉全損の場合はいくらだったっけな」
号泣しながらパプカに抱き着こうとし、結界魔法で阻止されているゴルフリートを横目にそろばんをはじく。
オッサンの号泣の原因はともかくとして、やるべきことはキッチリやっておかないとな。
「ひとまず誰かこの状況にツッコミを入れないのか?」
「いや、ちょっと待ってくれ。まだパプカに子供が出来たという事実に対してのダメージが……」
「うぐぅっ!? そ、そう言えばそうだった……」
そろばんをはじく指が止まり、ジュリアスによって思い出された衝撃的事実。俺は地面に転がり、湧き出る涙で床を濡らした。
「はぁっ!? ちょっと待ってください!! わたしに子供が出来た!? 何の話です!?」
と、床に転がる独身コンビニ気が付いたパプカは、魔法でオッサンを吹き飛ばしてから俺たちの元へと駆け寄った。
「だって子供が出来たって……俺たちに秘密にしてほくそ笑んでいたんだろ?」
「なんで性悪扱いされてるんですか!! 子供が出来たのはわたしじゃありませんよ!!」
ん? ならば誰の話をしてるんだ?
パプカの口から出た話であることと、その父親であるオッサンの言動を聞けば、パプカがおめでたであると言う結論に至る。
しかしそれを否定されたのならば、誰が子供を授かったという話になるのだろうか?
「こ、子供がぁ……っ! ヒュリアンに子供ができたぁっ!!」
ヒュリアン・マグダウェル。
パプカの母親にしてオッサンの奥さん。同時に最強のランク、オリハルコンの冒険者である。
「なっ!? ま、まさかオッサン……ついに離婚か!?」
「違うわ!! 正真正銘俺の子だ!!」
「あれ? ゴルフリート殿って離婚間近とか言ってなかったか?」
「わたしもそう思ってたんですが、お互いそんな気はさらさら無かったらしいです」
「そもそも、中央と東部じゃ距離があるんじゃないのか? 子供作るのなんて無理だろ?」
「前からよく転移魔法で攫われてましたからね。その時にやる事ヤってたんでしょ…………うぅ、両親の情事なんて想像したくもない」
口を抑えて気持ち悪そうに呻く。確かに両親をそのような目で見たくは無いだろう。
「あー……良く分かりませんが、おめでとうございます?」
「う、うむ。理解はしていないが、子供が出来たというのはめでたい事であるな!」
蚊帳の外であるクーデリアとテュランが拍手で二人を祝福した。俺とジュリアスも遅れて手を叩く。が、
「────ん? じゃあ二人が持ってた手紙って……」
「ああ、お母さんからの手紙ですよ。深夜にとんでもない物読んで気絶しちゃいました」
「俺なんて心臓止まるかと思ったぜ」
いや、アンタは実際心臓止まってたからな。
とはいえ、これによって疑問の一つがようやく解消されたようだ。
俺とジュリアスは視線をテュランへと向けた。
「だから無実だと言ってただろう!?」
いやまさかこんな事実があったとは思わないしなぁ。
「と言うか、この変な人誰です?」
「ああ。普通に会話に加わってるが変な奴だな。こんな深夜に変な格好しやがって」
と、年中片方の乳首を晒している変な人が言ってる。
「そういや二人、直接会うのは初めてだっけ? 怪盗テュランだよ、この人」
「「誰?」」
「ミナス・ハルバンの大冒険に出てくるライバルキャラだ!」
ジュリアスの熱心な紹介に親子の反応は「あー……」と言った具合。
まあ興味が薄ければこんな感じの反応だろう。あくまでベストセラー本の登場人物の一人にすぎないわけだしな。
「ぐっ、吾輩の知名度について反論したいところであるが……無実が腫れたところでひとまずこの手錠を何とかしてほしいのである」
「いや、それでもジュリアスを攫いに来てるんだから無罪放免は駄目でしょう」
と言うか、もういい加減素性をばらしてこの茶番を終わらせてほしい。
ヒューズサブマスがなぜ怪盗テュランのコスプレをやっているのかは分からないが、正体がバレバレなのに、バレていない前提で演技をされるといたたまれないんだよ。
「あんまり夜更かしするのもアレですし明日も仕事です。そろそろネタ晴らしをしてお開きに──」
と、大人な対応をしようとした時。
大破したギルドの入り口から人の影が伸びた。
「こんな夜更けになぜギルドが開いているんだい?」
そこにはなぜか────ヒューズサブマスの姿があった。
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