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第十三章 まるでカオスな視察団
CASE102 ゴルフリート①
しおりを挟むゴルフリート・マグダウェル。
この世に6人しかいない最強の冒険者であるオリハルコン。リール村における最大戦力であり、その親バカぶりや暴走の具合を除けば優秀な男性である。
そのような大人物の訃報が病院内に響いた。発信元はジュリアスである。
肩で息をして、額には脂汗。どうやら急いでここまで走って来たのだろう。
「へぇ、そうなんですか?」
そんなジュリアスの必死さを鼻で笑うかのごとき、パプカ・マグダウェルの安穏とした立ち居振る舞い。
父親の訃報に対してここまで無関心を決め込めるというのは逆に凄い。
「……え、あの……話を聞いていたのか?」
「はい。お父さんが死んでしまったんでしょう?」
「なんでそんなに冷静なんだ!?」
「まあ、年に2、3回は死んでいる人ですからね。バーサーカーと言うジョブは安定感が無くて困ります」
あっけらかんと言い放つパプカだが、中々凄まじいことを言ってらっしゃる。
確かにこの世界は【蘇生魔法】と言う物が存在し、死に関しても【仮死状態】というバットステータス扱いが基本である。
寿命だったり魔法で治せない病気。さらに死後時間が経過していない限りは復活できるのである。
だからこそパプカは冷静なのである。
──いや、実際はジュリアス並みに焦る場面なのだが、いくら何でも慣れすぎだろう。
「で、お父さんはどこです? 時間切れになる前に復活させに行きましょう」
「あ、ああ……道端で倒れていたから担いで連れてきたんだ。今は別室でドクターに見てもらってる」
「──ところで、復活って言ってもリール村には司祭なんていないし、ヒーラーも復活魔法が使えるレベルの奴はいないんだが、大丈夫か?」
「──あ、そう言えば復活用のエリクサーの在庫も切れてるんでした」
────ヤバくね?
「もう一度聞くが大丈夫なのか!?」
「だだだだ大丈夫ですよよ、よよ余裕で問題なんてあるはずありませせせせん」
ジュリアス以上の汗が滝のように流れ出ているのだが。
「ちょっと待て落ち着けパプカ。冷静になって情報を整理してみろ。エリクサーならギルドの備蓄が────そう言えばお前に発注して多分納品してたっけ?」
「正直言ってこの瞬間まで忘れていたので作り置きも無いです」
「────あ、エクスカリバーが転移魔法使えただろ。オッサンごと別の街に飛ばして復活魔法をかけてもらえば──」
「あの駄剣なら北部へアイドルの追っかけをしているはずだが」
「────」
「────」
もうダメかもしれない。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
お通夜のような状態の俺たちに対し、クーデリアが挙手をして声を上げた。
「私、復活魔法使えますけど」
俺はその発言を聞くと、すぐさまクーデリアの手を取った。
「あなたは神か!」
「いえ、メイドですが」
「良かった……オッサンが死んだりしたら、俺の首から上が吹っ飛ぶところでした!」
「雇用関係の話ではなさそうですね」
「いやぁ、ひやひやしましたよ。葬式の手配のやり方とか知りませんでしたからね」
「割り切りが早すぎませんか?」
とはいえ、クーデリアさんのおかげでこの唐突な危機は回避された。
ほっと胸をなでおろしていると、今度はジュリアスが口を開く。
「いや待て、クーデリアがメイドにあるまじきスキルを持っているのは知っているが、それは確かシーフ系の物だろう。なぜ復活魔法が使えるんだ?」
「フリーランスのメイド兼忍者が復活魔法を使ってはおかしいですか?」
「────まあ良いか」
どうやらジュリアスは考えることを止めたようだ。
このまま行くとクーデリアの属性の数が凄いことになりそうであるが、今はそんなことを考えている場合では無いだろう。
「どうやら心臓麻痺のようじゃのう」
早速クーデリアと一緒に別室へと向かった。
そこには泡を吹いて白目をむいたゴルフリートが横たわっており、そばにいたドクターから症状が申告された。
「外傷はないみたいじゃし、原因は分からんな。突発性の物かもしれん」
「お父さんの心臓は鋼並みに眼鏡のはずなんですがね。大抵の事には動じない神経の図太さですし」
「そういう話じゃないと思うぞ」
「まあひとまずさっくり蘇生しておきましょうか」
何の感慨もなく、クーデリアは横たわったゴルフリートの前に立ち、手をかざして目をつむった。
すると淡い光がゴルフリートの全身を包み込み、すぐさま消え去った。
「はい終わりました」
「「「早っ!?」」」
「魔法とは得てしてそういうものです」
「パプカの魔法はいつだって長ったらしいけど……」
「何を言ってるんですかサトー。そっちの方がカッコいいじゃないですか」
お前が何を言ってるんだ。
「とにかく蘇生は終わりました。目を覚ますまではしばらくかかるでしょうが、もう大丈夫でしょう」
「結局原因は何だったんだろうな? やはり突発性の病気なのだろうか?」
「ギルドでやった健康診断では健康体そのものだったはずなんだが……」
その他に考えられるのは、魔物などによる攻撃だが、こっちはもっと可能性が低いだろう。オリハルコン冒険者であるオッサンがそう簡単にやられるとは思えない。
やはり病気という線が妥当だろう。今度腕の良いヒーラーに見てもらうこととしよう。
「────ふっふっふ。二人とも見立てが甘いですねぇ」
「おい、何かパプカが良からぬ発言をしようとしてるぞ」
「父親の事だし、真剣な話かもしれないぞ? サトー、ちゃんと聞いてやれ」
「これは巧妙なトリックが施されたミステリー事件です! 名付けて【片乳首殺人事件】!!」
パプカが良からぬ発言をし始めた。
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