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第十三章 まるでカオスな視察団
CASE99 本部長③
しおりを挟む処刑の時(視察時間)を午後に控え、俺は一度パプカたちと共にギルドへと戻っていた。
本来ならば宿で身支度を整えているヒューズサブマスの近くで控えていなければならない身だが、正直あの人恐いのでしばらく近づきたくないのである。
──という言い訳を心にしまいつつ、ギルド内の清掃を今一度確認して必死に机を磨いていた。
「心にしまえてないッスよ支部長さん。駄々漏れっス」
「だって本当に恐いんだぜあのサブマス。あの視線だけで死ぬかと思った……」
「だからって現実逃避しないでくださいよ。いくら磨いても、その机はそれ以上綺麗にはならないッス」
磨きすぎて擦り切れ始めた机を見て俺は我に返った。
「とにかく! 出来る準備は全部やっておきたいんだよ! 主に俺の首のためにな!! アヤセ! 提出する書類に不備は無いか!?」
「ちゃんと判子も押してありますし、誤字脱字もチェックしたッス。三回くらい」
「よし! ルーン! サブマスに差し上げる茶菓子とお茶は準備できてるな!?」
「この時のために北部から最高級茶葉と西部の最高級お菓子を準備してますよ。ちゃんとあちらの机の上に置いてます」
「よし! なら完璧!!」
「もぐもぐ。いやぁ、このお菓子結構いけますね」
「酒にも合いそうだな。誰か! ビール持ってきてくれ!」
「俺様としてはしょっぱい系も欲しい所だが」
準備していたお菓子は冒険者三人によって貪り食われていた。
「お前らぁ!!」
「あ、しかもコースターにしてるの、一番大事な書類ッスよ!」
「ふふん。安心してくださいサトー。サトーの苦労は無駄にしません。ギルド内を汚さないように、配慮は完璧です」
今この瞬間、俺の苦労は水泡に帰したのだが。
「ま、まあまあ。視察と言うのは普段のお仕事ぶりを見る者ですし、特別な書類なんかを出すと返って不自然だったかもしれません。ポジティブに考えましょう、サトーさん」
「お前ら、大天使ルーン様が居なかったらギルドを出禁にしてたところだぞ。崇め奉れ」
「新しい宗教を作らないでください」
ルーンの赦しを経て、ひとまず仕切り直し。
確かにルーンの言う通り、あまり気を張りすぎても、それがサブマスが見たい物とは限らない。もう少し自然体で行くべきかもしれん。
という訳で、ひとまず冒険者たち三人に罰として茶菓子を買いに行かせ、俺たちは視察のリハーサルを行うことにした。
「自然体って今言ったばっかりじゃないッスか」
「馬鹿野郎。普段のイベントごとでも予行演習はするだろうが。つまりはそう言うことだ」
「いやそれは良く分かんないッスけど」
ひとまずアヤセをヒューズサブマスに見立て、俺が接待するというリハーサルを行うことになった。
残るルーンにはその様子を見て改善点を出してもらう。
「よし、じゃあとりあえず入り口から入ってきてくれ」
「了解ッス。えーっと、でも自分ヒューズサブマスの事知らないんスよねぇ。偉い人……が、言いそうなこと────平伏したまえ愚民」
そんな大王様じゃないんだから。
「ようこそお越しくださいましたサブマスター。改めまして、私リール村の冒険者ギルドの責任者を務めさせていただいております、サトーと申します」
「へ、平伏したまえ!!」
「どんだけ平伏させたいんだお前は」
「だってぇ、偉い人がどんな挨拶をするのかなんて知らないんスもん。支部長さんが恐い人って言うから、イメージで台詞を作ってみました」
確かにそうは言ったが、アヤセの恐い人の基準が良く分からない。
「ちなみにどうッスか、ルーンさん? 自分と支部長さんのリハーサルは」
「いえ、さすがに今のやり取りだけでは何とも……でも、先ほどから気になっていたんですが、サトーさん。ヒューズサブマスターが恐いと言うのは本当なんですか?」
「ん? ああ、まあ。さっき言った通り、視線で殺されるかと思うぐらいには怖かったんだが……」
俺の答えになぜか納得のいかない様子のルーン。首を傾げ、何かを考え込んでいるようだ。
「実は、父の仕事の関係で何年か前にお会いしたことがあるんですが……」
「え、ルーンさんのお父様って、もしかしてVIP?」
ルーンの父親。あまり公にはなっていないが、その正体はこの世で最も強い冒険者と言われる【勇者サンドリアス】である。
当然、そのような大人物であるから、各界隈のお偉方と面識があってもさして驚きはない。
そして、その子供であるルーンが同じように面識があったとしても、確かにおかしな話では無いのである。
ちなみに、かのサンドリアスは現在、不思議ダンジョンでショタ化するという意味不明な状況に陥っている。
「ああ、えーっとまあそんな感じなんですが、お会いした時はものすごく優し気な方と言う印象を受けたんです。なので、サトーさんの言う『恐い人』というのがどうにもしっくりこなくて……」
「……確かに、噂で聞く限りヒューズサブマスの印象って『めちゃくちゃ優しい』って感じなんだよなぁ。サブマスの中でも一番温和な人って聞いてるし」
それすなわち、猫を被っているリンシュよりも温和という事である。
中央では圧倒的人気を誇るリンシュ。政財界に圧倒的な影響力を持つルトン。そして、広い地域の職員たちから圧倒的支持を得ているのがヒューズなのである。
「ってことは、やっぱり支部長さん個人に向けての殺気ということッスね。ホント何やらかしたんスか?」
「だから俺に聞かれても困るんだって! 俺が聞きたいんだよそれは!!」
「支部長さん必死」
結局大したリハーサルもできず、運命の時が迫る。
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