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第十三章 まるでカオスな視察団

CASE99 本部長②

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 俺の額からは尋常じゃないほどの脂汗がにじみ出ては流れ落ちている。
 ルトンサブマスのように気さくな人柄だと期待していた俺の予想は淡くも崩れ落ち、ヒューズサブマスの刺すような視線とプレッシャーは、俺の胃を締め付けまくっていた。
 俺、何かやらかしたのだろうか。先日送った書類に不備があったとか? だったら直接言ってほしい。今すぐ土下座するから。

「ヒューズ様。まずはご予定の宿屋まで参りましょう」
「──はっ! そ、そうですね! 旅路でお疲れでしょうし、視察の予定も午後からですから、しばらくお休みください」
「…………そうするとしよう」

 助け舟だったのだろうか。
 クーデリアの一言で、ヒューズの俺に対するプレッシャーが少しだけ和らいだ。
 常に低姿勢で、手を摩擦熱で火傷するのではないかと思うほど揉みまくり、卑しい笑顔を浮かべてヘコヘコする。
 そして旅人用に拵えたリール村唯一の宿屋へと案内。
 普段はかなり簡素な作りの宿屋なのだが、ヒューズが来るという事で事前に改装工事を敢行。部屋の壁をぶち抜いて広くし、家具類もそれなりに良いものを用意させている。
 ──と、案内をしようとした俺は、とある異変に気が付いた。

「……? あ、あのう、クーデリアさん? 残りの職員の方は?」
「いえ。今回の視察は私とヒューズ様の二人だけです」
「────視察『団』と聞いていたんですが」
「二人でも『団』と──言えなくもなくもありません」

 どっちなのだろうか。

「──いえ、事前の予定ではもう少し人数を用意するはずだったのですが、ヒューズ様が「私一人で始末をつける必要がある」とおっしゃられまして」
「────それって、私の首を飛ばす(物理)的な話ではないですよね?」
「さあ?」

 どうやらクーデリアは俺の首(物理)に興味が無いようである。
 戦々恐々としながら二人を宿屋へ送り届けた俺は、ようやく額の汗をぬぐってひと段落。
 だが、真に恐ろしいのはこれからだ。午後からの冒険者ギルドの視察。どうにかしなければ。

「──良いかお前らよく聞け。これから作戦会議を行う」
「お、サトーが敬語を止めたぞ」
「それほど切羽詰まってるんですかねぇ」
「────あれ? メテオラはどうした?」

 いつの間にかメテオラの姿が消えていた。

「視察は午後からと聞いた瞬間帰りましたけど」

 協調性の無い奴である。

「というか、わたしたちも集まる意味ありました? 仕事は午後からなんでしょ?」
「いや、顔見世と言うか事前準備も必要で……」
「その事前準備とやらは俺らの労働時間に含まれてんのか? 給料すら出ないサービス時間じゃないだろうな?」
「仕事の事前準備と言うなら、拘束時間にはきちんと対価を払う必要があると思うんですよ」

 こいつら金持ちの癖に正論吐きやがって。

「────こ、この時間にもちゃんと給料は払うつもりだったよ。嘘じゃないよ」
「「嘘っぽい」」
「と、とにかく! 今はヒューズサブマスへの対策を考えよう! なぜか俺に対する圧が凄まじいことになっているが、どうすればいいと思う!?」
「土下座でもすれば?」
「雑っ!!」

 心底興味がなさそうに鼻くそをほじるゴルフリート。
 どうやら彼に話を聞いても無駄のようである。

「ふっふっふ……どうやらこの場で戦力になるようなのはわたしだけのようですねぇ」
「どうやら彼女に話を聞いても無駄のようである」
「喧嘩売ってるんですか」

 口に出ていたようだ。

「そもそも、ヒューズサブマスがなんであんなに敵対的なのか、サトーに心当たりは無いんですか?」
「無い! …………はず。リンシュ関連で一方的に敵意を向けられてるだけかもしれないが……」
「それだと政治の話ですし、こちらではどうしようもありませんね。諦めましょう」
「俺の首(物理)を簡単に諦めないでくれ」

 でもパプカの言う通り、リンシュに協力していることがバレていてのあの糞陰気だとすれば、俺にはどうしようもない。
 リンシュを売って保身を図ったとしても、おそらく今度はリンシュに首(物理)を飛ばされてしまうだろう。
 …………そう考えると、ルトン邸宅でリンシュを売ろうとしたのは相当ヤバい橋を渡っていたのだろうな。

「──あ、そうだ。そう言えばジュリアスのお父さんについての話はどうなったんでしょうね? 視察団(?)で男性と言えば、結局サブマスだけなんですが」
「そう言えばそうだな。ってことは、ひとまずジュリアスの件については解決ってことで良いか」
「もしかしてジュリアスのお父さん、ヒューズサブマスだったりして」
「あっはっは。その会話はすでにアヤセと終わらせてるし、フラグっぽいから二度と口にしないでくれよ?」

 ────いや、マジでフラグの建設が進み続けている気がするんだが。







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