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第十三章 まるでカオスな視察団

CASE98 フラグ①

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「はぁー……えらい目にあった」
「お疲れ様ですサトーさん。大変でしたね」

 ジュリアスからの依頼を渋々ながら受けた俺は、拘束をほどいてギルドへと戻って来た。
 俺を追いかけてこなかったルーンやアヤセに事情を説明し、ようやく一息ついて自分の席へと座り込む。
 ルーンからの差し入れのお茶が体へと染み渡り、さらにもう一度ため息をついた。

「これがいつもの事だって言うんだから……慣れてきたよなぁ」
「気苦労が留まることを知らないッスね」
「まぁとは言っても、今回はそこまで苦労はしなさそうだよ。ジュリアスも」

「サトーに協力してもらうのは最悪の場合だから安心してくれ。基本的に私は父が居る間は隠れてるからな!」

「って言ってたしな」
「フラグ臭半端ないッス」

 残念ながら俺もそう思う。
 だが、ジュリアスのシーフとしての能力は俺も高く評価している。
 彼女が本気で逃走・隠密を試みた場合、それを捕らえるのは至難の業だろう。捕らえることが出来るとするならば、その相手はオリハルコンクラスの実力を持つ人間に限られる。
 そんな奴がそうそう居てたまるかっての。

「だからフラグフラグ」
「でもジュリアスさん、そこまで言うのならしばらく別の街に避難すれば良いんじゃないですか?」

 ルーンが正論を申し立てる。
 確かに俺もその考えを伝えてみたのだが、「父にはリール村に居ることを伝えてしまっているからな。もし別の街に避難していることがバレたら強制的に連れ戻される」と拒否したのだ。

「それって、隠れていた場合でも同じ事なんじゃないッスか? 見つからない事には変わりないんスし」
「その時は「すれ違いで奇跡的に出会えなかった」と言い張るらしい」
「通用するんスかねぇ」

 そのあたりは完全にジュリアスの問題なので彼女に解決してもらおう。

「それにしても……ジュリアスさん、そんなにお父様と不仲なんでしょうか。会うのがそこまで億劫と言うのは相当……」
「聞いてる限りはそこまでじゃなさそうだったけどな。苦手意識は持ってるみたいだけど、不仲ってほどじゃないんじゃないか?」
「────ん? そう言えば、ここまでの話で気になったんスけど、それでなんで支部長さんとジュリアスさんが結婚するって話になるんスか?」
「ああ、それはだな。父親から「良い相手もおらずフラフラしてるぐらいなら、実家に帰ってきて見合いでもしろ」と言われてるみたいでな。で、「良い相手がいるなら父も引くだろう」と安直に考えたらしい」

 「なるほど」と納得したアヤセだが、巻き込まれるこちらとしては不満しかない。
 なぜなら先ほども言った通り、これはすでにパプカとやったネタである。同じネタを何度もやられるともはや笑えなくなるんだよ。

「しかし、ジュリアスさんってもしかして結構良い所のご出身なんスかね? 見合いって今日日聞かないっスけど」
「別に裕福な家庭じゃなくても見合いぐらいするらしいけどな。確かに、ジュリアスと話していると節々に育ちの良さは感じられるんだよなぁ」
「そう言えば年始にサトーさんからオススメされて、ジュリアスさんにお食事を作ってもらったんですが絶品でした! その時のレシピは一般家庭では手が出せない代物でしたね」
「もしかしてお貴族様なんじゃないッスか? 明日と言えばちょうどほら、例の日ッスからね」

 【例の日】
 アヤセから放たれたこの言葉に、そう言えばジュリアスの相手なんてしてる場合じゃなかったことを思い出す。
 明日。すなわちジュリアスの父親がやって来るまさにその日。我がリール村冒険者ギルドにとって一大イベントが発生する予定なのだ。
 それは村が属する王国東部。その地域一帯を取り仕切る元締め。冒険者ギルド東本部のトップである【地域長】と同時に、現ギルドのナンバー2のポジションにあるサブマスターでもあるお方。
 ヒューズ・フォン・アルカディア。
 その人が直々に視察にやって来るという話である。
 出身こそ平民だが、その後東部の穀倉地帯を発展させた功績で一代限りの爵位をもらい、農業ギルドのサブマスターまで上り詰めた後なぜか冒険者ギルドへと転身。そこでも能力を発揮し、現在の地位を得た立身出世のお手本のような人物だ。
 その後の活躍も文字にすればキリがなく、現在では正式な爵位も貰い、下手な王族よりもその権力は高いらしい。
 そんな大人物がなんでこんなクソ田舎に視察に来るのか、これが分からない。

「自分の住んでる村をクソ田舎呼ばわりはひどいッス」

 だって事実だもの。

「でもアヤセさんの言う通り、時期もあってますから視察団の一員としてお父様が来られるのかもしれませんね。でもそれだと……」
「そうだな。そういう事なら納得のいく節もあるが、まさか……」

 ルーンと俺は、言葉の途中でその音を途切れさせた。
 ふと頭に浮かんだ考えを、口に出してしまいそうになりそれを防いだのだ。
 それは考えうる限り最悪の想定。あり得ないとも言い切れないが、言葉にすると現実味を帯びてしまうような禁断の思考。

「ひょっとしてジュリアスさんの父親って、ヒューズサブマスだったりして」

 無神経なアヤセが代わりに言葉を放ってしまったことで、完全にフラグが立ってしまった。


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