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第十三章 まるでカオスな視察団

CASE97 誤解②

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「さあて、この一件──どう落とし前をつけてくれましょうか」

 誤解から始まった逃走劇は、俺の体力切れによってあっけない幕切れとなった。
 しかし逃走が失敗したからと言ってそこで終わるはずもなく、追いついてきた冒険者たちとパプカによって、簀巻きにされて通りの真ん中に転がされている。
 ジュリアスと結婚するという、明らかなる厄介案件を理解しない目の前の者達は、憤怒と嘆きによって顔の表情をゆがめていた。

「サトーの裏切者! 酒の席で酌み交わし、「俺、その内魔法使いにジョブチェンジするかもしれない。その時はよろしくな」と愚痴をこぼしあっていたのを忘れたんですか!」
「俺そんな恥ずかしい愚痴こぼしてたの!?」
「ジュリアス! あなたもあなたです! 女子会の場で下ネタトークをしている時、内心で「はっ(嘲笑)私が経験済みと知ったらパプカはどう反応するんだろうな。泣きじゃくる姿が今から楽しみだ」とかほくそ笑んでいたんでしょう!」
「私にそんな嗜虐趣味はない!!」

 抗議の声を上げるジュリアスだが、そもそも根本的に誤解から始まった騒動だ。
 とっとと状況説明をして俺の簀巻き状態を解除してほしいものである。

「サトーの事は良い友人だと思っていたのに……結婚をするという事を黙っていただなんて見損ないましたよ!!」
「えっ!? さ、サトー結婚するのか!? なんだと聞いて無いぞ!」

 と、なぜかジュリアスが驚きの声を上げる。
 いや、お前から発生した話なんだが自覚すらないのかこの女は。

「え? 違う? 結婚するのは私? 誰と…………サトーと? ──────っ!?」

 パプカからの耳打ちによって、ようやくこの騒動の本質を理解したジュリアスは少し思案すると、顔面から汗を吹き出し頬を真っ赤に赤らめた。

「ち、違うっ!! いや、そんな本気で捉えられても……その、困る!!」

 凄いな、予想の台詞をそのまま引用しやがった。
 あわあわと慌てるジュリアスの様子に、周りの連中もようやく事態を察知。「ああ……」と言う同情の視線を俺へと向けてきた。

「……まぁ、みんなの同情の目はともかくとして、ジュリアス。いい加減説明しろ」
「うぅ……そのう、サトーには私の結婚相手と偽って、とある人に会ってほしいんだ」

 だからそのネタはパプカとやったんだよ。

「ふぅ……やれやれ焦りましたよ。そういう事でしたら良いでしょう。サトーを貸し出すことを許可します」
「パプカは俺の何なんだよ。俺の意思はどこ行った」
「ところでなんですけど」

 どうやら俺の意思を聞く流れではないようである。

「そもそもなぜサトーなんですか? 野郎なら村にごまんといるでしょう?」

 パプカが珍しく正論を吐き出した。
 そうだ。知り合いの少なかった中央でのパプカとの一件はともかくとして、今現在俺たちが居るのはいわゆるホーム。根拠地である。
 周りを見渡すだけで、暇そうな男たちが屯しているのだ。
 普段から忙しい俺なんかに頼むより、そっちに声をかけた方が良いだろう。
 そんな俺たちの疑問符をぶつけられたジュリアスは、少し顔を俯いて小さな声でその答えを述べた。

「だって……サトー以外に頼みごとを出来る友達がいない……」
「「「あっ」」」」

 察し。
 確かに、ジュリアスの認知度はこの村では抜群である。犬の散歩ですら失敗するポンコツ冒険者の異名は伊達ではない。
 しかし直接的に友人と表現するならば、その数はかなり限られてくることだろう。
 冒険者に関係の無い同性の友人ならば何人かいるようだが、彼女のポンコツ具合を知る男性冒険者たちは、その巻き添えを食わないように遠巻きに見ているのが基本である。
 そんなこっちが悲しくなる台詞を聞かされた男たちは、ばつが悪そうにフォローを入れる。

「そ、そんなことは無いだろ! 俺たちはジュリアスの事友達(?)と思ってるよ!」
「そうだぜ! 俺たちはちゃんとした友達(?)だよ!」

 いちいち疑問符をつけてやるなよ。

「じゃ、じゃあサトーの代わりに手伝って……」
「いや、それはその……違うじゃん?」
「うん……話が変わってくるというか……」

 薄情な奴らである。
 どうやらこの流れ、俺が断るという選択肢はないようだ。
 経験則から知っているが、この場で俺が駄々をこねたところで時間の無駄だろう。
 非常に遺憾ながら協力するしかない。俺は深いため息とともに、死んだ目ですべてを受け入れた。

「サトーが諦めの境地に達したところで聞きますが、ジュリアスが言う『とある人』って誰の事なんですか?」
「ああ、まあそれは私の父親なんだが────明日村にやって来るらしい」

 嵐が唐突に発生したようだ。



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