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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ

CASE96 誕生会①

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「今時『馬鹿は風邪を引かない』とかいう迷信を信じるなんて馬鹿ですね」
「ぐぅ……反論できねぇ」

 パンデミックから数日。すっかり日常へと戻ったリール村を、あきれ顔のパプカと共に歩いている。
 結局あの後も俺は風邪を引くこともなく、全快したパプカたちに錯乱ぶりを問いただされて白状したという訳だ。
 
「風邪なんて好きで引くもんじゃありませんよ。引かないならそれに越したことはありません」
「正論過ぎる」
「まったく……馬鹿言ってないで、早く買い物を済ませますよ。お店が空いてるのは今日が最後なんですから」

 年が暮れるまで後二日。この世界では年末の一日と、年始の数日間にわたり商業施設が休業するのである。
 しかも直前までのパンデミックにより、家の備蓄品を使い切った家庭が多く、店と言う店は村人と冒険者によってごった返していた。

「なぁ、所でなんで俺を連れてきたんだ? 俺の家はルーンがやりくりしてくれてるから、年始の終わりまでの備蓄はバッチリなんだが」
「ふぅ……やれやれ。これだからサトーは馬鹿なんですよ。うら若き乙女に、重量物を持たせるのが紳士のやる事ですか?」
「いや、それならお前のゴーレムにでも担がせればいいじゃん。俺よりよっぽど力持ちだろ」
「…………あっ」

 どっちが馬鹿なんだよ。

「それに、うら若き乙女と言われてもな。一応年上だろお前…………っと、そう言えば俺もそろそろ誕生日か」
「へぇ。そう言えばサトーの誕生日を聞いたことがありませんでしたね。いつ頃なんですか?」
「明日」
「なるほどあし…………明日?」

 一年が終わる最後の日。それが俺の誕生日ということになっている。
 特に隠していたわけでは無いのだが、パプカには伝え忘れていたようだ。
 そしてその事実を知ったパプカは、なぜか口をあんぐりと開けてうわの空となっていた。

「つっても俺の誕生日は…………どうした?」
「……いえ、では用事も済んだことですし帰るとしましょうか」
「は? いやまだ列にすら並んでないんだが」

 俺の制止を聞かず、パプカはふらふらと店を後にする。結局何も買わずじまいで、これでは何のために連れ出されたのか分からない状況である。

「何なんだよ一体……」





*    *    *


 年が終わるまであと二日。そしてその内の一日が終わりを迎えている深夜に、真っ暗なギルドの中でささやき声を放つ複数の声があった。
 ギルドの業務は何日も前に終わっており、酒場の運営もここ数日行われていない。
 にもかかわらず、複数の声が会すると言うのはおかしな話だ。
 そしてそんなおかしな話の中心に、聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。

「皆さん、今宵お集まりいただき感謝します」
「なんでそんなおどろおどろしい雰囲気を……と言うか照明ぐらい付けたらどうだ?」
「ダメですよジュリアス! そんな事してサトーにバレたらどうするんですか!!」
「パプカちゃんの大声は良いのかい?」
「家とギルドは離れてますし、大丈夫ですよ」

 という訳でギルド内に灯りが灯された。どうやら真っ暗だったのはパプカによる演出のようである。
 
「良いですか皆さん。実は本日大変なことが分かりました」
「もったいぶってないで早く言ってくれパプカ」
「以前からサトーの誕生日を皆で祝おうと言っていましたよね? 今日ようやくサトーの誕生日を聞き出すことに成功しました。いやぁ大変でしたよ。怪しまれずに聞き出すのは非常に困難な作業でした」

 俺は自発的に言ったはずだが。

「ああ、やっと分かったのか。それで、いつ頃なんだ? 色々と準備をしないとな」
「明日だそうです」
「「「明日!?」」」

 全員が驚きの声を上げる。
 どうやら話の内容を聞いてみると、以前から俺の誕生日会を開催してくれるつもりだったらしい。
 しかし肝心の俺の誕生日を誰も知らなかったらしく、密かに探りを入れられていたようだ。

「半年以上前からの企画だぞ!? 発起人はルーンだが、運営は自分に任せてくれと言ったのはパプカじゃないか!」
「ここドタバタしてましたし──ぶっちゃけ忘れてました」

 運営の人選ミスにも程がある。

「まあまあジュリアスちゃん。ドタバタしてたのは事実だし、俺たちも忘れてたんだからさ」
「そうですね。とにかく、明日までに出来るだけのことはしておきましょう。サプライズ演出になってちょうど良かったかもしれませんし」

 大人の対応なアグニスとルーンである。
 だがちょっと待ってほしい。そのサプライズ演出とやらだが、現在進行形で俺に筒抜けなのはなぜだろう。
 その答えは簡単。
 ────俺はこの場の掃除用具入れの中にいるからである。

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