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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ

CASE95 パンデミック①

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 季節は冬。
 ──と言う表現を使いすぎじゃないかと思う今日この頃。
 だって冬に入ってからのイベントの濃度が高すぎるんだもの。
 早めの忘年会から始まり、ダンジョンへの強制アタック。魔の国で胃液を切らし、村へ帰っての雪合戦。
 これらが全て一か月以内に収まっているというのだから驚きである。

 という訳でまだ・・季節は冬。
 先日の雪合戦で、パプカが作り出した馬鹿デカ雪製ゴーレムの残骸の後片付けに手を取られて数日が経過。
 当初の予定では雪合戦名目で雪を集めて処理……と言う運びになっていたのだが、ゴーレムの素材として集められた雪は異常な密度となっており、その固さは鋼鉄並み。
 結局村総出で解体作業と後処理に走り回る羽目となった。これならば普通に除雪作業をやった方がよほど楽だっただろう。
 だがまあそんな解体作業も終わり、俺とアヤセはしんと静まり返った村を歩いていた。

「…………静かだな」
「…………静かッスねぇ」

 いや、実際は耳を澄ませてみれば声は聞こえる。だがその大半が「ゴホゴホッ」と言う咳き込む音であった。
 ────そう、何を隠そう俺たちの住むリール村…………原因不明のパンデミック到来である。

「原因不明って……どう考えても先日の雪合戦の後片付けが原因──」
「原因不明のパンデミック到来である!!」
「支部長さん、勢いで誤魔化そうとしてるッスよね」

 ギルドの業務も終了した冬休みに、なぜ俺たち二人が村を歩き回っているかと言うと、この村で無事な人間が俺達二人だけだからである。

「支部長さんって結構丈夫ッスよね。自分はゴーストなんで病気にならないんスけど」
「健康だけが取り柄だからな──言ってて悲しくなるが」

 ドクターの指示により、俺たち二人は薬を配給している最中である。今回のパンデミックは、感染力こそ強いものの普通の風邪と変わりないらしく、薬を飲んで大人しくしていれば治るとの事。
 とはいえ歩き回れるほどの気力はないようなので、無事である俺とアヤセが一軒一軒見回って世話をしているという訳だ。
 これは決して雪合戦が原因で罪悪感があるから世話を焼いているという訳ではない。

「いちいち言い訳しなくても良いッスよ──さて、村の皆さんは先ほどの家で最後ッスね。冒険者さんたちも大半は見回り完了ッス」

 アヤセは名簿の紙をめくりながらそう俺に報告した。
 
「後残ってるのはパプカが住んでる女子寮とギルドの職員ってところか?」
「そうッスね。支部長さん、身内は最後に回すタイプッスか?」
「こういうところで身内を優先すると各方面からのバッシングがひどいんだよ……」
「世知辛いッスね」

 ちなみにパプカの住む女子寮を後回しにした理由だが、パプカはともかくとして他の女性陣の部屋に男の俺が入り込むのが憚られたからである。

「よし、じゃあ早速家に帰ってルーンの看病をしよう」
「身内も身内じゃないッスか。さっきの発言はいずこへ……と言うか、ルーンさんの看病は今朝がたに済ませてるでしょ?」
「馬鹿野郎!! こうして話している間にも熱が上がってるかもしれないだろうが!! ルーンのしたたる汗を拭きとるのは俺の仕事なんだよ!!」
「本音駄々漏れッス」

 という訳で俺たちは帰路に着く。
 跳ねる足を不謹慎だと諫めつつ、フィクシィのいるリビングを通りルーンの私室の前へと到着。
 ノックをし、返事を受けて扉を開く。そこにはベットの上に女の子ズ割をしながらパジャマのボタンに指をかけるルーンの姿があった。

「何をやってるんだルーン! 安静にしてなきゃだめだ!! 汗を拭くのは俺がやってやるから横になれ!! パジャマも俺が脱がせてやる!!」
「アンタが何やってんスか支部長さん」
「あ、いえ……汗は今拭き終わったところなので大丈夫ですよ?」

 すなわち、ボタンに指をかけていたのは外す行為ではなく、留める行為であるらしい。
 俺の膝は床へと落下。両こぶしを床に叩きつけ、大粒の涙を落としながら嗚咽を漏らした。

「──ルーンが……無事で……良かった……っ!」
「言動が一致してないッス」

 ひとまずルーンの無事を確認した俺は、飲み水を補充したり追加の薬を飲ませたりと、一通りの看病をこなす。
 朝に比べても熱は下がっておらず、横になってなお辛そうなルーンを見ていると心が痛む。

「悪いなルーン。本当ならずっと付き添ってやりたいんだが……」
「気にしないでください。私こそお手伝いできずにすみません」
「病人なんスから仕方ないッスよ。と言うかむしろ、病気で全滅してる村の中でピンピンしてる支部長さんが異常なだけッスから」
「健康なだけが取り柄だか……あ、コレさっきやったな」

 と、いつまでも談笑していたいがルーンは病人。俺も残る病人たちの見回りをしなければならないため、このぐらいにしておこう。
 最後に額の濡れタオルを交換して、俺とアヤセは名残惜しくもルーンの私室を後にする。

「じゃあなルーン。また後で来るから、大人しくしてろよ?」
「はい、ありがとうございますサトーさん」
「本当にキチンと大人しくしてるんだぞ? 無理に自分の汗を拭かなくて良いからな? 次来た時に俺が拭いてやるからそのままにしておくんだぞ?」
「…………サトーさん、それが目的じゃないですよね?」

 良し! 念も押したし、次へ行こう次っ!!

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