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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
CASE94 リール村⑦
しおりを挟む『お待たせいたしました! 今イベントいよいよ最終決戦!! と言っても三回戦しかやって無いんスけどそこは目をつむって、決勝戦を開始するッス!!』
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
雪合戦と言う割と地味なイベントの決勝戦。
参加しつつも敗退した冒険者たちが観客席を埋め、その盛り上がりは最高潮となっていた。
昼に差し掛かり暖かくなってきたことも相まって、会場は熱気に包まれている。
「なんか盛り上がってんなぁ」
「おお、サトー。ようこそ負け犬席へ。どうぞどうぞ、わたしの隣を空けて待っていましたよ」
「なんで負ける前提で空けておくんだよ」
とはいえ満席の中席取りする必要が無いのは助かるので、俺はパプカの隣に座った。
「で、なんでこんな盛り上がってんの? さっきまではここまでじゃなかったよな?」
「まあ、冒険者たちが観客側に回ったと言うのもありますし、何より村人の皆さんの正体が判明しましたからねぇ。伝説級の元冒険者の戦いが観れるとなればそりゃ盛り上がります」
なるほど。
リール村の冒険者ギルドには、オッサンとパプカを除けば最高ランクはゴールドの冒険者しかいない。
そして例外の二人も、ほとんどのクエストを単身かこの二人のパーティーで済ませているため、高ランクの冒険者の活躍と言う物がどのようなものかを晒す機会が少ないのだ。
今後の活動のため、上の世界を間近で見たいと言うのは中々殊勝な心掛けである。
「さあ張った張った!! 今の所オッズはアグニスチームが圧倒的だぁ!」
「ジュリアスチームの大穴狙いは居ないか? 一瞬で勝負がついて泣いても知らねーぞ!」
「さっきまでの俺の心の声を返せ」
敗北を喫した冒険者たちは賭け事をして楽しんでいる様子だった。
「全くとんでもない奴らだな────あ、俺もアグニスチームに100イェンで頼む」
「自分もしっかり楽しんでるじゃないですか」
さて、いよいよ決勝戦が始まる。
オッズを見ると大勢はアグニスチームに傾いており、実際実力的に言えばその考え方は間違いないだろう。
元オリハルコンやミスリルの冒険者たちを相手にしては、いかに現役と言えど低ランクの冒険者たちが敵うとは思えない。
大穴としてジュリアスと言うダークホースが居るわけだが、どの程度通用するかは分からないのだ。
「アグニスには気の毒だが、今回も活躍は出来ないだろうなぁ」
「ああ、さっきも一歩も動くことなく試合が終わりましたしね。まあ楽して勝てるのなら良いんじゃないですか?」
「いや、本人曰く影の薄さを気にしているらしくてな。活躍の場が欲しいらしい」
「なるほど。ではたぶん心配ありませんよ。彼にはさっき差し入れをしてきたところです」
「差し入れ?」と聞く間もなく、決勝戦が始まってしまった。
先立っての戦いと比べ、両者手堅い守りの姿勢を取っている。アグニス側はジュリアスを警戒して雪だるまを中心に防御。ジュリアス側は村人を警戒して多数の防御バフ・防御魔法を重ね張りしている。
派手な戦いが始まると思ったが、これは思いのほか地味な決勝戦になりそうだ。
────と、そんな硬直状態に一石を投じるように、一つの影がジュリアスチームへと突撃した。
「ホワッチャーォゥッ(雄たけび)!! 盛り上がってこーぜフォーウッ(雄たけび)!!」
──酒を飲んだアグニス・リットンであった。
「なあパプカ、さっき言ってた差し入れって……」
「魔の国でお土産として買ってきたお酒です」
「フォーッホホッホーゥッ(雄たけび)!! ハァンユゥーレィディ!? イヤアアアッァッハァー(雄たけび)!!」
なるほど、魔の国の酒が入るとああいったキャラになるのか。
「アグニスって別に影薄くねーよな?」
「酒が入ると村一番の濃いキャラですよね」
自陣に引きこもっているジュリアスチーム。当然会場の中腹には妨害する相手は居らず、アグニスはおかしなテンションのまま快進撃を続けた。
そしてようやく相手側へとたどり着くと、
「ヒャッハー!! かかって来い──ぶべぇっ!!」
「あ、顔面に当たった」
「ああっ! アグニスさんが死んだ! この人でなし!!」
「ええっ!? そんな理不尽な!?」
待ち構えていたジュリアスの雪玉がアグニスの顔面へと直撃してノックアウト。鼻から血を流すアグニスは、残念ながら試合に復帰は難しいだろう。
「またか!? 空気読めてなかったのか!?」
「落ち着けジュリアス! 試合なんだから問題ない! それよりそろそろ防御陣が完成するから、お前は攻撃に回れ!」
「防御は俺たちに任せて突撃しろ! 名付けて『当たって砕けろ』作戦!!」
「砕けるのは私なんだが!?」
と言うコントのようなやり取りをするジュリアスチーム。
そして一方、リーダーを失ったアグニスチームだが、その戦力にいささかの変動も起きていないようだ。
「アグニス君がやられたようだ」
「フフフ……奴はチームの中でも最弱」
「ジュリアスちゃんごときに負けるとは……まあ仕方がないか」
こっちもコントみたいな事言ってやがる。
「やはり脅威となるのはジュリアスちゃんだけのようじゃな。そろそろこちらも攻撃に回るとするかのう!!」
「なぁパプカ、ドクターってあんなコテコテな爺さん言葉使ってたっけ?」
「ここに来てキャラづくりに目覚めたんでしょう」
「どいつもこいつも……」
『どうやらついに両者が動くようです!! オッズの通り村人さんたちが圧勝してしまうのか!? それとも予想を覆してジュリアスさんがどんでん返しを見せてくれるのかぁーっ!?』
テンション高ぇなアヤセ。
とはいえ実況の通り、いよいよ戦況が動くようだ。
ドクターとジュリアスが互いに駆け出し、中腹に差し掛かったところで鉢合わせした。
「ふっふっふ! お主の実力は一目見た時から分かっておったぞいジュリアスちゃん! しかしまだまだ青いわ!! 覚悟ぉ!!」
「あーいや直接的な戦闘とかはちょっと無理……っ!!」
ドクターの放つ雪玉と言う名の重爆撃。そしてそれを辛くも避けるジュリアス。
──なんだろうなぁ……確かに思い返してみてみれば、クエストに出かけていつもボロボロになって帰ってくるジュリアスだが、転んだとか爆発の余波に巻き込まれたとか原因は様々だが、モンスターの攻撃を直接喰らったという話は聞いたことがない。
生傷の絶えない職業であるはずの冒険者をやっていながら、これまで大けがを負った事の無いと言うのは実は凄い事なのである。
「ふははははっ!! いつまで避けていられるかな!?」
「やめてー!!」
「なんであいつアレを避けられるんだ? そしてなんでアレを避けられて低ランクのクエストを失敗できるんだ?」
「それはまあ、原因全部ひっくるめてジュリアスだからとしか……」
会場はさらなる熱気に包まれる。
ドクターの絶え間ない攻撃とそれを避け続けるジュリアスを見るだけでも相当面白い。
しかもジュリアスは攻撃を避けるだけでなく、隙あらばアグニスチームの雪だるまを壊しに行こうとけん制し続けており、それにすぐさま対応して妨害するドクターとの攻防がまたすごい。
だがそのような接戦は長く続くことは無く、ドクターの目がギラリと光って一瞬攻撃が止んだ。
「やりおるのうジュリアスちゃん。久々に血沸き肉躍るわい……ならば最後にこれをくらえい!! かーめはー……」
「うおおいっ!! 誰かドクターを止めろ!! そういうネタは良くないって!!」
「なんの話ですか?」
男の子ならだれでも真似をしたことがあるであろう某ポーズを行うドクター。そしてそのポーズに付属する必殺技の名前を唱え切った。
「──破ァーーーー!!(雪玉)」
一筋の光が会場から発生した。
その光はジュリアスを巻き込みながら、最終的にパプカが作り上げてオブジェと化したゴーレムの上半身へと突き刺さる。
『おおおおああああっ!? これはジュリアスさん死んだかーー!? いやと言うかホント大丈夫ッスか!? 雪合戦で人死にとか……運営責任なら支部長さんへお願いするッス!!』
「馬鹿野郎アヤセ!! この場合は連帯責任だ! 絶対に逃がさないからな!!」
「──人を死んだ前提で話を進めるんじゃなーい!!」
会場から抗議の声が起きる。
それは死んだと思われたジュリアスの物であり、どうやら先ほど光(雪玉)に巻き込まれたのは彼女の残像だったようだ────と言うか残像出せんの!? すげぇな!!
一方で全力投球を行ったドクターはさすがに寄る年波の体力に勝てなかったのか、膨れ上がった筋肉はしぼんで肩で息をしていた。
「ドクターがやられたようだ」
「フフフ……奴はチームの中でも最強」
「────どうしよう」
村人からただの泣き言が漏れていた。
『すごい!! 凄いッスジュリアスさん!! まさかまさかの大穴が来────あっ!』
実況席から再び漏れた「あっ」。
だが今回のその言葉の意味は、会場に居たすべての人間が瞬時に理解することとなった。
バキメキメキッ!!
何の音かと言えば、ドクターの一撃が加わって崩れるパプカ印のゴーレムの音である。
魔力を失いただの雪だるまと化したそれは、会場の熱気と太陽の温かさとドクターの一撃に敗北し、会場全体にめがけて崩壊し始めたのだ。
「──あー……なるほど。今回のオチはこれか」
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