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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
CASE94 リール村⑥
しおりを挟む「言い訳はしない!!」
血沸き肉躍る大健闘の末、村人チームに辛くも敗北を喫した俺は運営の天幕へと戻り、男らしく胸を張って発言をした。
「男らしく言ってますけど、めちゃくちゃダサいッスよ支部長さん。あと記憶の捏造しないでくださいッス」
「でもまあ、あの方々を相手にすると白旗と言うのは仕方がないと思いますよ」
村人たちの正体が、かつての英雄たちだったという今更過ぎる新事実。
流石に冒険者ギルドに関係のない個人情報を知ることは出来ないとはいえ、そんな重要な設定があったとは流石に驚愕である。
引退したとはいえ、彼らが口々にしていたジョブを聞くと、冒険者ランクで言えばプラチナからオリハルコン。味方チームに居るのは最高でもゴールドランクなので、歯が立つはずもない。
そう考えると白旗を上げた俺の判断は英断だったのではなかろうか。いやそうに違いない。勇気ある行動だったと思う。
「めちゃくちゃ自己肯定するじゃないッスか」
「じゃあ聞くが、俺があの人たちに勝てると思うか?」
「思わないッス」
即答じゃねぇか。
「つーかおかしいと思ったんだよ。モンスター退治の仕事があふれてる開拓村で、モンスター被害の報告が一件もないって事に」
「普通の開拓村だと亡くなる方も多いと聞きますからね」
「そうなんだよなぁ。そう言えばこの村、駐屯兵すら居ないのに……村人が自力でモンスターを狩ってたことか」
本来ならもっと早くに気づきそうなものだが、トラブルメーカーたちの被害を目の当たりにしていたからか、感覚が麻痺していたのかもしれない。
「──お前らよぉ……ちょっとは俺に触れてくれないか?」
と、天幕の中で最も気分が沈んでいる人物が声を上げた。
今回の戦いの勝者であり、決勝戦に進出した村人チームのリーダー。影の薄さに悩む男アグニス・リットンである。
「ただでさえ影が薄いのに、もはや陰に隠れすぎて存在感すら……」
「お、おいおい! そんなことないって! お前もすげぇ頑張ってただろ!? ほら……あのう……なっ!?」
「そ、そうッスよ! ウェイターさんだって頑張ってたッス! ねっ? あのう……ねっ!?」
「え、ええ。もちろん頑張ってました! その……あのう……はいっ!!」
「……うぅっ」
とうとうアグニスが泣いてしまった。
「泣くなよぉ……いや、あの場合影が薄いとかそういう話じゃなくないか? 村人のキャラが相対的に濃すぎるんだよ」
「でも活躍できなかったのは事実だし、サトーの方がずっと目立ってたし……」
「それを言うなら俺だって活躍なんてしてないだろ! 確かに目立ってたかもしれないけど、白旗上げただけの悪目立ち……うぅっ」
「あっ、支部長さんが現実を認めたようッス」
実際に口に出すとめちゃくちゃ悲しくなるわ。
「ぐすっ……とにかく勝ったのはお前なんだから胸を張れよ。俺が虚しくなる」
「でもなぁ、サトーも居ない、パプカちゃんもいないじゃ、決勝戦をどう盛り上げれば良いんだ?」
「俺とパプカをにぎやかし要員にするなよ」
「別に盛り上げるとかは考えなくても良いんじゃないですか? 一応この雪合戦はレクリエーションの一環ですし、個々人が楽しめればそれで構わないと思います」
ルーンが良いことを言った。
そうだよその通り。この催しはあくまでもレクリエーション。影の濃さを競い合ったり、賞金を目当てに全力を尽くすことがすべてでは無いのだ。
「そうさ! だから参加することに意義があるんだ!!」
「の割には賞金目当てに全力でしたよね支部長さん」
「い、意義があるんだ!!」
俺の声は震えていた。
「まあ負け犬の支部長さんはともかくとして」
「ぬぅ……っ!」
「ウエイターさん、そろそろ出番みたいっスよ。決勝戦なので、位置についてくださいッス」
「あ、そうか。はぁ……あんまり気が進まないなぁ」
そう言ってうなだれつつ、アグニスは天幕を後にした。
そしてその後を追って俺は敗者席ならぬ観客席へと足を運ぶのだった。
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