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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ

CASE94 リール村②

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「お待たせいたしました皆様! ギルド主催! 第一回冬の大雪合戦大会を開催します!!」
「「わーい」」

 先日思いついた雪合戦と言うギルド主催のイベント。
 俺はそれから早速行動に移り、ルーンやアグニス、アヤセの協力を経て翌日には大会の開催へとこぎ着けた。
 何せイベント内容はただの雪合戦だ。必要なのは雪で、それ以外の準備も必要ない。予報通りにドカ雪となった当時に、実況用の天幕を張って準備は整った。
 目の前にはサクラとして用意したパプカとルーンが拍手をしている。一日経って冷静になったのか、その表情は面倒くささでいっぱいであった。

「いや、開催します! と高らかに言っているところ悪いが────これでか?」

 ジュリアスのツッコミをくらい、辺りを見渡してみてみれば、そこには主催者側のギルド人員の他、パプカとルーンしか参加者が存在しなかった。

「流石に昨日の今日では宣伝が足りなかったか」
「それ以前の問題じゃないですか? このクソ寒い中雪合戦だなんて、正気の沙汰とは思えませんよ」

 その正気の沙汰じゃない行動を昨日とっていたのは誰だろうな?

「ふっふっふ、甘いですねパプカさん。このくらいは想定内、まるで問題ではありません」
「お、久しぶりの仕事モードだなサトー」
「仕事中ですのでジュリアスさん。さて、ではこの大会の具体的な内容を説明しましょう」

 俺は天幕の中に用意した黒板にチョークを走らせる。
 大会の内容はこうだ。
 4チームに分かれてのチーム戦。雪玉を投げ合い、当たった人は自陣営のアウトゾーンに戻り3分間動けなくなる。
 相手チームの陣地に置いてある雪だるまを壊したチームが勝利。
 雪で壁を作るのはオーケー。ただし、雪だるまを完全に囲う形にするのはアウト。
 魔法やスキルについては、防御系や補助系は使用して良いが、攻撃系は一切不可。

「サトー、質問」
「何でしょう、パプカさん?」
「4チームって言いますが、参加者が全然足りないんじゃないですか?」
「先ほども言いましたが、問題は無いでしょう」

 俺はルール説明を終え、最後に一言付け加えた。

「ちなみに優勝チームには金一封をさしあげます」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ」」」」

 一体どこから湧いたのかと思うような人数が天幕へと押し寄せて雄たけびを上げた。
 冒険者とは、よほどの高ランクでなければ常に金欠の存在である。報酬を得れば、その中から生活費を抜き、次のクエストの準備の代金を抜き、そして残った額で酒を飲む。
 計画性のかけらも持ち合わせていない彼らにとって、仕事の無いこの時期はある種の地獄。
 臨時収入があるかもしれないと知れば、この様子も当然なのである。
 
「流石俺らのサトー! 分かってるねぇ!」
「ちょうど体を動かしたかったところなんだ! 腕がなるぜぇ!」
「臨時収入ヒャッハー!!」

 と、露骨に俺を持ち上げつつ自らの欲望を隠そうとしない冒険者たち。
 現金な奴らだが、今回の目的は冬の予算の消化であるのでこの性格は有難くもある。
 天幕に鳴り響くサトーコールを制止し、俺はふとゴルフリートのオッサンが居ないことに気が付いた。

「あれ? ゴルフリートさんは?」
「ああ、お父さんなら家で寝てます。いつもなら飛びつくようなイベントなんですけどね。わたしが帰ってきてからしばらくボーっとしてるみたいで」
「なるほど。まあチームバランスを考えると助かる気もしますが」

 それに、オッサンが参加した場合雪合戦がただの合戦になりそうで怖い。スキルを使わなくても、彼は十二分に超人だからだ。
 
 ともあれ、参加者が集まったので早速チーム分け。
 
①冒険者チームA 代表パプカ・マグダウウェル

②冒険者チームB 代表ジュリアス・フロイライン

③村人チーム  代表アグニス・リットン

④冒険者チームC 代表サトー


「ちょっと待てい」
「どうしたんですかサトー? わたしたちと別チームになったからって物言いですか? 仕方の無い子ですねぇ」
「違う違う! それ以前の問題!! なんで俺が参加する流れ!? 希望届なんて出してないんだけど!?」
「あ、自分が出しておいたッス。ちょっと人数が足りなかったんで、ギルド職員から二名出して調整しました。支部長さんとウェイターさんッスね」

 ウェイター……と言うのはアグニスの事だろうか? いや、あいつの職業はどちらかと言うと酒場のマスターなのだが。

「いやぁ、雪合戦なんて子供の頃以来だよ。上手くやれるかなぁ」

 俺とは違いまんざらでもない顔で村人チームへと合流するアグニス。彼には分っていないのだ、このイベントが待つ結末を。
 どーせ最終的に爆発オチになるんだよ。そういうイベントなんだよこれは。
 なぜならパプカとジュリアスが参加しているからな。どう転んでも無事に無事に済む結末ではあるまい。
 俺がなぜそんなイベントを催したか? それは実況側として被害を被らず、ぬくぬくとその様を見れると思ったからだ。
 積もった雪を雪合戦で集め消費し、同時にギルドの予算を使うと言う目的を遠目で見れると思っていたのだ。

「くそう……なぜこうなった」
「なにブツブツ言ってんだよサトー……まあともかく、せっかく仲間になったんだから頼むぜ。期待してるからな」
「──え、何をです?」
「だって支部長さん、実は召喚者なんでしょう? この間来たコースケくんが言ってたわよ?」
「ってことは、だ。コースケ並みにでたらめな力を持ってんだろう? いつもは無害な顔してるくせして、そんな隠し玉を持っていたとはなぁ」

 ぐっ、コースケの野郎余計なことを!
 俺は普段、余計なトラブルに巻き込まれないように一部の人間以外に召喚者であることを言っていない。別に隠しているわけでは無いが、積極的に自己紹介で「地球から来たサトーだ」なんて事は言わない。
 それもこれもこういう時に期待されないためなのだが、今回は俺のあずかり知らぬところで個人情報が漏洩していたらしい。
 期待の目を輝かせる冒険者たち。
 やめて! 俺に過度な期待は求めないで!!
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