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第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
CASE94 リール村
しおりを挟むリール村に帰ってきて数日。
残っていた支部長の仕事もひと段落つき、いよいよ冬期休暇へと突入した。
まあとは言っても、極小規模のリール村ギルド。完全に人員をゼロにするという訳にもいかず、持ち回りで短い時間の就業を余儀なくされていた。
俺は机の上に残った僅かな書類に目を通しつつ、時々来る冒険者の相談を軽く受け流しながら過ごしている。
「うーん……俺とルーンがしばらく留守にしてたからか、冬の予算がまだ全然残ってる……」
本部から送られる予算。その残高はかなりの数字をキープしており、このまま行くと冬の間に使い切ることはなさそうだった。
しかし、予算と言うのは使わずにいるのも問題である。なぜなら、翌年以降の予算編成の際、今年の予算を参考に大幅に減らされる可能性があるからだ。
ここは年が明ける前にもう少し使っておきたいところではあるが、ほぼ休業状態の冒険者ギルド。そこまで予算を使うような仕事も残っていない。
「破損した建物や備品の修理は、ほぼ原因の冒険者持ちだしなぁ。緊急クエストの報奨金……は、緊急事態が起こらないと出来ねぇし」
ギルドのある地域に深刻な被害を及ぼすような事件、事故、魔物の襲来など。そう言った際に冒険者を駆り出し、結果に応じて相応の報奨金を出すと言うシステムがある。
前の街で起こったカルト教団事件などもそれに当てはまるが、これはめったに発生しないので当てにするのは間違いだろう。
そもそも緊急事態を望むと言うのはいささか不謹慎である。
「サトー! こんにちわー!!」
頭を悩ませていると、さらなる悩みの種の発生装置がギルドへとやって来た。
「しけた面してますねぇ。もう少し明るい顔しないと、ギルドの中が冷え切っちゃうじゃないですか」
「大きなお世話だよ、パプカ。ちなみにギルドは真冬に備えて燃料の節約中だ。寒いなら帰れ」
「ふおぉ寒い……いやしかし、この寒さの中暖房なしじゃ風邪をひいてしまうだろ。悪いが、暖炉は使わせてくれ」
入ってきたのは二人。パプカとジュリアスである。
冬服を着こんだ二人は、明るいパプカと疲れ切ったジュリアスで対照的な様子であった。
外からの冷気が中へと入り込んでくる。どうやら室内と比べると外はかなり冷え込んでいるようだ。一人用の暖房器具である発熱の魔石を使っていたから気が付かなかった。
「まあ予算もあるし暖炉くらいは良いか……ん? 二人とも、なんか服についてないか? ……雪?」
「ああ、さっきから降ってきてな。もう外は積もり始めてるぞ」
ジュリアスは暖炉に火を灯し、服についた雪を叩いて落とす。
なるほど、確か天気予報で今日の午後から雪模様と言っていた気がする。ちなみにこの世界の天気予報は、【未来予知】のスキルを使用して公開されており、その的中率は衛星観測よりも正確であるらしい。
「せっかくなので二人で雪合戦をしていたんですよ。いやぁ、久しぶりにやってみましたが意外と燃えますねぇ」
「雪合戦って……大人がやる遊びじゃねぇだろ」
「私もそう言ったんだが……確かに意外と白熱して楽しかったぞ。後でサトーもやろう」
あ、遠慮しておきます。
「この調子で降ると明日はかなりの量が積もってるでしょうね」
「雪かぁ。やっぱりやらないといけないんだろうなぁ、雪かき」
「たぶん村中総出で無いと意味が無いと思うぞ? 予報ではかつてないほどの大雪って言ってたからな」
もっぱらデスクワークな俺は、基本的に力仕事が苦手だ。そんな俺が雪かきを苦手と感じるのもまた当然で、先日までの疲れもまだ抜けきっていないのだからその面倒くささはひとしおである。
「うーん……雪、雪ねぇ…………あっ」
「ん? どうした、サトー?」
どうにかして雪かきを避けれまいかと考えを巡らせていると、とある名案を思い付いた。
予算の消化。雪かき。同時に二つを成し遂げる一つの案。
「雪合戦をしよう」
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